ひろがる!SDGs経営に取り組む中小企業東京都内中小企業のSDGs推進事例

【公社支援活用事例】2025/03サービス業

着物を着たい気持ちに寄り添う、町の呉服屋
紡ぐご縁がSDGsに

有限会社内海呉服店(世田谷区)

有限会社内海呉服店は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています。
左より新店長の高嶋友唯さん、代表の内海康治さん、スタッフの皆さん。SDGsバッジを胸に付けて接客する。
着物への情熱と豊富な知識でファンも多い内海康治さん。「SDGsをきっかけに、地域の方々に頼ってもらえるよう、いろいろなチャレンジをしていきたい」
「一人ひとり丁寧な接客を心がけ、自分と同世代の人々にも着物文化を広めていきたい」と抱負を語る新店長の高嶋友唯さん。
「ご縁のきもの」は、着物を譲りたい人と手頃な値段で着てみたい人のご縁をつなぐ、期間限定の委託販売イベント。
祖師谷店創業70周年パーティーの様子。SDGs宣言とともに新店長への代替わりを発表し、多くのステークホルダーの関心を集めた。
八王子の長田養蚕の繭からつくられた「東京シルク」のブランド展開。国内の蚕糸業が著しく衰退する中、内海さんはその保全にも尽力。
Q 主な事業内容を教えてください。
A 「きもの千歳屋」の店舗を中心とした和装製品の販売、メンテナンスサービスが主な事業です。町の呉服屋として創業から114年、現在の祖師谷に店舗を興して70年目になります。当店らしい取り組みをご紹介しますと、10年ほど前から、お譲りしたい着物をお預かりし「ご縁のきもの」と名付けた委託販売を行っています。また、店舗の2階では、着方教室やお茶の教室、お花の教室などを開催し、着物文化に関わるきっかけづくりにも力を入れています。
Q マーケットを取り巻く環境変化の中で感じていることをお聞かせください。
A バブル崩壊以後の長引く着物離れや、経営者・従業員の高齢化、後継者の不在、さらにコロナ禍による冠婚葬祭の簡略化もあり、同業者や作り手の多くが廃業し、業界全体の衰退が続いています。一方で、親御さんから譲り受けた着物をメンテナンスして楽しみたいが相談できる場所がない、取引先からは、こんな仕事を引き受けてくれないか、と様々なお悩みが寄せられることも多くありました。現在、当店のような形態は業界内ではめずらしく、時代の流れは感じつつも、今後もお客様に寄り添って喜んでいただけることを日々の目標にして、営業し続けていきたいと考えています。
Q なぜ、SDGs経営に取り組もうと思われたのでしょうか。
A コロナ禍で緊急事態宣言が発せられた間、当店の存在価値について考え、これまでの事業内容を整理しました。SDGsという言葉は以前から聞いていて、着物のお直しやリユース品の委託販売など、当店の事業も当てはまることが多いのではないかと思っていました。当店の理念を分かりやすく発信するにはどうすればいいか思案する中、公社主催のワークショップに参加し、続けてハンズオン支援を申し込んだことがきっかけです。ハンズオン支援ではアドバイザーに伴走いただきながら、2024年の春から8回の個別面談を経て、SDGs経営計画を策定しました。
Q 公社のアドバイザーはどのような助言をしてくれましたか。
A まずSDGsの根本的な考え方である、経済と社会、環境の柱を大切にしながら10年、20年先の未来を描くというお話を充分にしてもらい、当店が影響を及ぼす点を洗い出していきました。働くスタッフや、仕入方法、接客や利益について具体的に質問してもらい、自分たちの労働環境や業務内容を客観視することができました。
私たちは価値のある仕事をしていても、普段の日常業務に追われているとどうしてもそれを見失いがちです。ハンズオン支援を通して教えていただいたことは自分たちの仕事の自信につながりましたし、お客様にPRするべきことを言語化する機会になりました。例えば、着物の染色には多くの水を使うというイメージがありましたが、他の産業に比べると着物作りは環境への負荷が低いことも知りました。着物がサステナブルな文化だということを、もっとお客様に伝えていかなくてはと認識しました。
Q 印象的なエピソードがありましたら具体的に教えてください
A とくに印象的だった点は、お客様ばかりを見るのではなく、様々なステークホルダーとの関係性を大切にしてこそ、経営の悩みも解決できるという気付きです。
当店の仕事は、仕立屋さん、刺繍職人さん、染色作家さんなど、多くのステークホルダーによって成り立っています。当店のイベントを介して、作り手の方々をつないだところ、活発なコミュニケーションが図れ、新しいアイデアも生まれました。例えば、東京で唯一残っている八王子の養蚕農家さんの繭を買い上げてオリジナル商品を製作しているのですが、作り手の方々とのパートナーシップを活かし、希少な「東京シルク」を使ったオーダーメイド商品をプロデュースするという展開も見えてきました。養蚕農家や作り手が廃業を余儀なくされている昨今、お互い仕事を支えることができればと思っています。
Q 目標を達成するためどのようなことに取り組まれていますか?
A
SDGsの宣言書を作成し、70周年パーティーにて紹介しました。掲げた目標は「着物を着たい気持ちに寄り添う、町の呉服屋。ときどき、きもの」です。着物を仕入れて販売するだけに完結せず、着物をどのように身近に感じてもらえるか、地球環境や経済状況が大きく変動する今、そして将来に向けて着物とどう付き合っていくのかを念頭に置き考えました。
また、SDGsバッジを接客時に付けるようにしています。ご年配のお客様にも「それは何?」と聞かれることがあり、機会があるごとにSDGsについてお話ししています。
Q 今回の取り組みをきっかけに、どのような展望を描いていますか?
A 実は、SDGs宣言と同時に、長年当店で働いているスタッフを後継者として店を託すことも宣言したのです。お客様や取引先様にとっても、後継者がいるだけで、なにがしかの安心感や将来性を感じてもらえたように思います。
原材料にこだわり、長く愛用していただけるものを仕入れ、加工先、作り手、働くスタッフとの関係や労働環境に配慮すること。地域に根ざした商いをして100年続く信頼を守ること。着物との新しいお付き合い方法をお客様と考えること。捨てられてしまう着物と新しい方との縁に繋ぐこと。 業界の衰退を目の当たりにしながらも、地域のなかで、いかに当店を頼りにしてもらえるかを考えながら、今後も少しずついろいろな分野にチャレンジしていく予定です。

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有限会社内海呉服店
所在地:東京都世田谷区祖師谷3-28-1
設立:1910年11月
事業内容:和装製品の販売、着物関連の仕立・加工・販売、メンテナンス事業
代表者:内海康治
従業員数:3名(2025年現在)
WEB:https://chitoseya.com/