ひろがる!SDGs経営に取り組む中小企業東京都内中小企業のSDGs推進事例

【公社支援活用事例】2025/03製造業

日本の食文化を次世代へ
生産者を支え、食品ロスを減らすために企業ができること

川辺食品株式会社(豊島区)

川辺食品株式会社は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています。
SDGs担当の営業部部長の吉田真さん(右)と品質管理室の久保田潤さん。SDGs宣言のホームページ作成や「紀乃家茶寮」の出店準備に尽力。
「生産者を支えたい」と語る吉田さん。同社の情報発信や販売促進が、地域の食文化や日本の農業を守ることにつながっていく。
久保田さんは第一子誕生を機に育児休暇を取得し、会議をオンラインで行うなど、自ら「多様な働き方」を率先。
「紀乃家茶寮」内には物販コーナーを併設。日本武道館にも近い立地で、幅広い年齢層に向けて漬物の魅力を発信していく。今後は、生産者のワークショップやイベントも行っていきたい。
ランチの「お漬物御膳」に添えられるお品書きは、漬物文化発信の一役に。メニューで提供される漬物やお茶は物販コーナーで買うことができる。
Q 主な事業内容を教えてください。
A 梅干や漬物の卸売が主な事業です。コンビニエンスストアのお弁当やおにぎりの具材となる梅干や沢庵など業務用食材を開発するほか、百貨店のテナントやオンラインショップで一般のお客様に向けても販売しています。紀州の梅干しを主力としているのですが、例えば、福井県産紅映梅を用いた練り梅を初めて産地表記して売り出すなど、まだ知られていない産地や食材にも目を向けて商品価値の向上に取り組んでいます。また2024年12月には、「日本の食文化をもっと身近に」をコンセプトに、カジュアルな和食のお店「紀乃家茶寮」を九段下にオープンしました。
Q マーケットを取り巻く環境について、どのような課題を感じていますか?
A 原料や光熱費の高騰により、商品の値上げが続いています。漬物の購入額は年々減少しており、高齢化もあって廃業する生産者も多く、環境は厳しい状況です。 また、食品業界には、納品期限・販売期限・賞味期限を均等に分ける「1/3ルール」と言われる慣行があります。そのため、賞味期限の2/3までしか商品を販売することができず、食材の廃棄やそれにかかるコストも問題となっています。まだ美味しく食べることができるのに店頭には置けない食材を飲食店メニューとして提供し、食品ロスの解決を図ることは、「紀乃家茶寮」出店の目的の一つでもありました。
Q SDGs経営に取り組もうとした経緯を教えてください。
A
かねてより、取引先からSDGsに関するアンケート依頼や環境に配慮した商品の問い合わせもありました。行動に移したきっかけは、ある取引先が開催した関係企業向けのSDGs説明会に参加したことからです。私たちも食品ロス削減や地域の活性化という課題が身近にあったため、公社のセミナーを受講したところ、経営戦略としてSDGsに取り組む必要性を感じ旗揚げすることにしました。最初に、社長よりSDGs経営に取り組んでいくことを社員にむけてアナウンスし、公社の「SDGs経営ハンドブック」を全スタッフに配布することから始めました。
Q 公社のハンズオン支援は、どのように進めていかれたのでしょうか?
A
公社のハンズオン支援では、アドバイザーの助言のもと、商品の企画から販売までの流れの中から「行うと良い影響がある取り組み」、「行わないと悪い影響がある取り組み」を挙げ、そこから優先して行うことを決めていきました。例えば、塩分控えめの梅干しも殺菌方法や包装の材質を変えるなどの工夫で賞味期限を延ばせば、売れる機会が広がり、廃棄を減らすという目標も立てられます。同時に、社員の働き方への取り組みも進めていく必要があると感じました。とくにPB商品を展開する企業は、工場の品質管理・衛生管理のみならず、労働環境も含めたCoC規範(※)を厳しく定めるようになっています。当社も人手が少ない中で業務時間をどう配分するかは難しい課題ですが、やはり「人」は事業の根幹に関わることだと再認識しました。
※CoC規範…発注企業がサプライヤーに適切な人権配慮を促す目的で定められた指針。労働環境や倫理などの分野における国際的な基準や社会規範に基づいて策定される。
Q 設定した目標について、いくつか教えてください。
A 食材廃棄量の削減と二次利用率を向上させ、前年比アップを続けていく目標を掲げました。廃棄量が減ることで商品を作るエネルギーが最低限となり、製造側から販売側まで全体にメリットがあります。また、新たに開店した「紀乃家茶寮」にて、地域の漬物食材を使ったメニューを展開する目標も設定しました。漬物は地域ごとの気候や特徴を活かして作っており、まだまだ広く知られていない漬物もあります。実際に食べていただき、商品を購入していただくきっかけを作り、地域の活性化を目指していければと考えています。 身近な地域貢献としては、以前から豊島区の福祉協議会と連携し、こども食堂への食材提供に取り組んできました。今後はさらに、災害時の備蓄食料の社内配布や、AED設置を周知し地域の方に利用いただけるようにしていきます。
Q SDGs経営に向けた取り組みによって、どのような変化がありましたか?
A
注文一つにしても食材廃棄が起こらないよう、在庫コントロールの打ち合わせを綿密に行うようになりました。廃棄量は3年連続で削減できており、エビデンスに基づいた賞味期限の延長(12つくる責任 つかう責任)や、地域食材を使った商品・メニューの開発(11住み続けられるまちづくり)といった目標はすでに達成できていると思います。2030年にはAIを活用し、生産量の予測をより高精度にできるよう取り組みを進めています。時期に応じて正確な予測ができれば、私たちも安心して工場に仕事を依頼することができ、工場も従業員のシフトや生産ラインの調整がしやすくなります。生産現場との信頼関係なくして持続可能な商売は構築できませんから。
また、取り組みをホームページに掲載したことで、採用に関しても、当社でSDGsに関わる仕事がしたいという、喜ばしい問い合わせが増えています。漬物の卸と販売を生業とする当社としては、今後も地域の一次産業をしっかり支え、生産者の方々と一緒に20年、30年と歩んでいける企業でありたいと思っています。

川辺食品株式会社のホームページはこちら

川辺食品株式会社
所在地:東京都豊島区要町三丁目58-11
設立:1964年12月
事業内容:梅干各種・その他全国漬物名産品の製造、卸売、販売
代表者:川辺久美子
従業員数:32名(2025年現在)
WEB:https://www.kawabe-foods.co.jp/