事例集

●事例02

3Dプリンターで作る次世代スピーカーをリリース
第1回東京シニアビジネスグランプリ 優秀賞
 
フォレマー合同会社
代表社員 植木 準さん

代表者インタビュー

事業内容や製品の特徴を教えてください。
弊社は、原音に忠実な音を再現する世界初の非結晶体構造のスピーカーを製作・販売しています。非結晶体構造(アモルファス)と言われてもほとんどの方は聞いたことがないと思いますので、まずはそこからお話します。非結晶体構造とは、結晶状態にない、秩序を持たない構造と考えてください。弊社が開発した「FOREMAR」は、この構造をスピーカーのハウジングに採用したのです。
スピーカーはユニット(コーン紙の振動)だけでも音は聞こえます(前面の音が正相=聞きたい音、背面の音が逆相=不要な音)。でも、中低音域の波は後方に流れ打ち消しあい、高音域だけが聞こえてきます。シャカシャカとした音にしかならないのです。そこで、コーン紙の背面から出る逆相の音を、箱の中(ハウジング内)に閉じ込めることで、低音から高音までバランス良く聞こえるようにしたのがスピーカーの原理です。
ところが、ハウジング内では様々な音域が反射と共鳴を繰り返し、それがノイズとなって音を濁らせます。これが従来のスピーカーの問題点でした。
弊社が開発した「FOREMAR」は、無数の細かい枝が複雑に絡み合う構造を持ち、逆相音が枝から枝へ拡散と吸収を繰り返すことにより、雑音が消え、原音を忠実に再現したサウンドを送り出します。これが世界初の非結晶体構造のスピーカーと言われる所以です。
起業に至る経緯やエピソードなどを聞かせてください。
オーディオが大好きで、毎日のようにスピーカーの前に座り込んで飽きずに音楽を聴いていた少年時代。大人になり外資系保険会社に就職してからもオーディオを趣味として、様々なスピーカーで音楽を聴いていました。でも「これだ!」と思えるスピーカーに出会うことはありません。スピーカーの原理や音響のことを独学で学び、その中で「非結晶体構造を持つハウジングなら雑音を減らせる」というアイデアが生まれました。「作ってみたい」「その音を聴いてみたい」と思ったのが起業の源泉です。
当初はこのアイデアで特許を取得した後に、その技術を大手の音響メーカーに持ち込み、一緒に開発プロジェクトを立ち上げることはできないものかと考えていました。ということで、まず相談したのが工学博士号を持つ弁理士です。彼は話を聞くと「特許情報は開示されるので、他者が特許を侵さないで類似仕様の製品を作ることがある」「新技術の争奪戦は甘いものではない」「特許を取得したらどこよりも先に自分で製品をリリースすること」とアドバイスされました。まもなく、その弁理士のサポートを受けながら会社を設立。自社で新世代スピーカーの開発に挑戦することにしたのです。
製品開発には苦労も多かったのではないですか。
考えていたハウジングは不規則で複雑な内部構造を持ちます。ゆえに型を成形することができないのです。そこで3Dプリンターの活用を思いつきました。でも事はそう簡単にいきません。3Dプリンターが途中で止まったり、歪んでしまったり、失敗を繰り返しました。そんな中、東京都立産業技術研究センターに技術相談したところ、複雑な形状に適している「粉末床溶融結合方式」を提案してもらったことで光が見えてきました。それからは、試作して改善、また試作という繰り返しで、結局は完成するまで2年の時を費やしていました。
もちろん開発段階の売り上げはゼロです。開発経費だけが出ていくのです。特に「ものづくり」を行うベンチャー企業は、資金調達が重要なポイントになることを、創業後に身を持って知りました。金融機関に相談すると、必ず「小さな資金を元にゆっくり育てていきましょう」という答えが返ってきます。しかし、開発コストは待ってはくれません。私の場合は、日本政策金融公庫等を活用しました。
「FOREMAR」はすでに受注生産での販売を行っています。今後は量産品のリーズナブルな小型モデルを市場に投入して事業規模を拡大させていきます。いま急ピッチで準備を進めているところです。
東京シニアビジネスグランプリに応募した動機や感想などをお聞かせください。
東京シニアビジネスグランプリには弊社の役員が応募しており、実は知らなかったのです(笑)。私は人前で話すのが得意なほうではないので戸惑いもありましたが、思い切って参加して良かったと思っています。同世代の方の事業プランを聞くことで自分のビジネスプランの甘さを痛感し、多くの気づきもありました。また、振興公社の職員の方からいただいた助言はいまもすごく役立っています。
★シニア世代の方に創業のポイントなどを教えてください。
思い描くビジネスプランやアイデアを第三者に見てもらうことが大切です。特に自分がやろうとしている分野に近い事業で起業したなるべく多くの方に相談するのが良いと思います。そうすると、何が必要で、どこに注力すべきかがわかってくるはずです。また、「ものづくり」では資金調達とマーケティングが特に重要です。資金がないと製品開発はできません。

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