事例集

●事例05

人生100年時代の高齢者向け訪問型美容室事業
第1回東京シニアビジネスグランプリ ファイナリスト
 
team BEAUTY 合同会社
代表社員 竹内 斗志雄さん

代表者インタビュー

事業内容と起業までの経緯やエピソードなどをお話しください。
高齢者の入居施設やデイケアサービス施設、ご自宅へお伺いし、髪をカットする高齢者向け訪問美容を行っています。私は、大学の芸術学部を卒業後に、美容専門学校に通って卒業、表参道の美容室でキャリアをスタートさせました。修行時代は閉店後に練習して始発で帰宅、午後12時の開店に備え出社するという厳しい毎日でしたが、5~6年が経つとお客様を獲得していきました。人気店でしたから芸能人やモデルさんのヘアメイクも担当、お店のマネージメントを任されるようになってからは、美容師向け技術講習会・セミナーなどの講師も務めるようになりました。
その後、自主退職。しばらくは、休息しながらじっくり客観的に自分自身を見つめてみて「次に進む道」を考えました。といっても、半年後には再始動していたのですが、その時に関心を持ったのが、国民の4分の1が75歳以上となり、高齢者の5人に1人は認知症になると予測される「2025年問題」でした。詳細を調べていくなかで、美容によって認知症が和らぐとの論文にも接し、「高齢者を対象とする美容」という事業のアイデアが生まれました。同時に「自分の持つ技術で高齢者問題に貢献したい」、そんな思いも強くなっていったのです。
起業に向けて、どのような準備をされましたか。
表参道の美容室は30歳前後の女性が主な客層でした。高齢者の髪をカットした経験はほとんどありません。まずは「訪問美容」の現場を知ることから始めました。幸運だったのは、訪問美容のパイオニアと呼ばれる美容師が、私が講師を務めた美容師向け技術講習会に生徒として参加していたことでした。そこで、今度は私が生徒となり、アシスタントとして現場に同行させてもらいながら訪問美容の基礎を学びました。
訪問美容の現場で問題になるのは、カットして散らかる髪と水の処理です。それを解決するのが「エアクリッパー」と「ルームシャンプー」という専用器具。使い方にはコツが必要になるのですが、操作方法を学べる講習を受け、また現場で「先生」の技を見て技術を習得していきました。
ちなみに、この2つの器具は「切った髪や水の処理」という問題を解決するだけではなく、ベッドに寝たまま、車いすに座ったままでも短時間でカットできるというメリットもあるのです。まさに訪問美容師の必需品と言っていいかもしれません。
同時に、高齢者対象の訪問美容ではお客様の健康状態や認知の症状を把握し、適切に対応するための知識も必要になります。そこで、介護職員初任者研修と認知症サポーターの介護実務者資格も修得しました。
充分な準備をされての起業ですが、創業後に待っていた壁はどんなことでしたか。
コロナ禍です。東京に緊急事態宣言が発出され、高齢者施設などからの依頼がなくなりました。高齢者施設や地域包括センターなどへは積極的に営業活動を行っていましたので、2020年1月のスタート時には想定以上のご依頼をいただき、2月までは毎日のように施設へ行って1日60名以上の方の髪をカットしていました。ところが4月以降は依頼が途絶えました。
途方に暮れているときに開催されたのが東京シニアビジネスグランプリです。振興公社の職員の方から、「チラシを作って都営住宅などに撒くと効果がある」などのヒントをいただき、朝4時に起きて衛生管理をした上でポスティングをして歩きました。その効果はすぐに出ました。特に高齢の方は外出を控えられていたので、在宅でのカット依頼が急増したのです。在宅では、マスクや手袋はもちろん防護服まで着用し、玄関先などを使用させていただきカットしました。
今後の事業計画を教えてください。
大規模な高齢者施設へは3~4名のチームでお伺いする場合が多くなります。自分だけでは手が足りないのです。そこで、今後は訪問美容師になりたい人を教育してチームを編成し、管理運営するなどのマネージメントにも力を入れていこうと思っています。現在、個人美容師を対象に、エアクリッパーとルームシャンプーの使い方、利用されるお客様の健康状態に合わせた対応の仕方、認知症セミナーなど、高齢者向け訪問美容に必要な技術や知識を深める講習会を実施しています。その中で、優秀な人材を集め経験の場を提供し育て、チームの一員になってもらっているのです。
今では20名近くのメンバーが集まり、5チームが組めるようになりました。そして、訪問美容事業を「team BEAUTY 合同会社」という会社組織にしました。これで訪問エリアを拡大することも可能になります。
東京都中小企業振興公社を利用されるきっかけや東京シニアビジネスグランプリに参加した感想などをお聞かせください。
振興公社の存在は、丸の内の会社に勤務している妻が教えてくれました。TOKYO創業ステーションに行ってみると様々なセミナーが開催されており、「充電期間中」はほとんど毎日、いずれかのセミナーを受講していました。帳簿の付け方から始まり、スタートアップの考え方、資金調達やマーケティングなどのセミナーを受講し、気づきと新しい知識を得ていったのです。
そして、スタッフの方に案内していただいたのが、東京シニアビジネスグランプリです。審査員の方の客観的な意見やアドバイスは、様々なケースで活かしています。また、ファイナリストになれたことで、目指す方向は間違っていないという確信も持てました。
★シニア世代の方に伝えたいことや創業にあたってのポイントなどを教えてください。
まずは自分年表を作ることからスタートしてみてはいかがでしょう。私は、明治大学の社会人を対象とするセミナーに通って作り方を学びました。学校の卒業や入学、就職、結婚や子どもの誕生などを時系列に記すだけではなく、例えば学校でのイヤな想い出、挫折した夢なども書いていきます。自分年表は、良いことも悪いことも細かく記していくことで自分の陥りやすい穴が見つかると言われています。振り返らないと、次に進む道は見えてこないということでしょうか。
また、資金調達についてですが、退職金や貯金は使わないようにしましょう。起業でポイントになるのは身の丈にあった事業計画です。シニア世代には、ネットワークと専門知識、経験があります。これを武器に自分のお小遣いでスタートさせれば良いのです。

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