事例集

●事例08

オンデマンド3Dスペーサーによる足補正
第1回東京シニアビジネスグランプリ ファイナリスト
 
株式会社ttco(ティティコ)
代表取締役 田村悦子さん

代表者インタビュー

事業の内容を教えてください。
靴を選ぶときに計測する足のポイントは、長さ、幅、甲まわり、爪先の形、かかとの5つがあります。このうち、長さは5ミリ単位でサイズ違いが販売されており、幅も3Eや4Eなどのバリエーションがあります。また、甲まわりは、スニーカーやビジネスシューズなどは靴ひもで調整することができます。ところが、かかと部分は見落とされがち。一般的な靴には、かかとサイズの設定はありません。ですから、「足幅が広めでかかとが小さい」タイプの人は、長さは合っているのに、かかと部分がパカパカしたり、靴擦れになったりします。さらに、足が靴の中で前滑りして、爪先が痛くなる原因にもなるのです。
弊社は、そうした「足と靴のミスマッチ問題」を解決する3Dスペーサーの開発・製造・販売を行っています。弊社の3Dスペーサーは、かかとに装着するだけで標準的な足型に補正するので、どんな靴でもフィットするのが特徴です。保湿もされますから、カサカサかかとになりにくいという副次効果もあります。
起業までの経緯やエピソードなどをお話しください。
若い頃から「起業したい」という志は持っていました。でも、結婚後はまず子育て。私の場合、会社に勤めながらの子育てでしたからゆっくり起業のことを考える余裕などありませんでした。そして、子どもが大学生になり子育ても一息、いよいよ起業の機会が巡ってきたのです。多くのビジネスプランを持っていましたが、「かかとの補正器具」に決めたのは自分が最も必要とするものだったからです。
私が若い頃のビジネスシーンでは「パンプスが当然のドレスコード」という時代。入社後はオフィス街を颯爽と闊歩するキャリアウーマンを目指し、ハイヒールを愛用していました。
そんな或る日、自慢のハイヒールが脱げてしまい大阪駅前の歩道橋から転げ落ちるという悲惨な体験をしたのです。私の足はかかとが小さいため、いつもかかと部分がパカパカで、靴擦れにも悩んでいました。絆創膏は必需品、それでも痛い。日々の辛さに耐えかねて、セミオーダーやオーダーメイドの靴を試しながら、自分の足にピッタリ合う靴を探し歩く日々を過ごしてきたのです。そして、スキーブーツを履いたときに、「私のかかとは標準より小さい」とはっきり認識しました。そこで、かかとを覆って補正する製品を試してみたものの、なかなか効果的なものがありません。「ないのなら自分で作ろう」、その思いが起業に繋がっていきました。
起業に向けてどのような準備をされましたか。
経営を学ぶために、ビジネスブレークスルー大学院大学でオールオンラインMBA(経営学修士)を取得し、社会人向けに平日の夜と土曜日に開講している大阪市立大学大学院都市ビジネス専攻にも通いました。さらに、奈良先端科学技術大学院大学GEIOTで、私のテーマに興味を持ってくださった理系の学生とチームを組める機会に恵まれ、プロジェクトベースでかかとの補正器具(3Dスペーサー)の研究開発スタートさせたのです。
その後、起業を目指す人がアイデアを検証して競い合う「スタートアップウィークエンド」というイベントにも参加。そこで3Dスペーサーの開発に貢献してくれることになるエンジニアの方と出会いました。経営について知るだけならインターネットで充分な情報を得られます。でも、大学院へ通ったり、イベントに参加することでしか得られないのが、共感と人脈です。人脈はベンチャー企業にとってかけがえのない大きな財産になります。>
起業してからの取り組みや手応えなどを教えてください。
当初、この3Dスペーサーは完全オーダーメイドを想定していました。ですから、3Dデータでかかとのサイズを測る専用アプリも開発したのです。しかし、クラウドファンディングでテストマーケティングを実施したところ、ワンサイズに絞ったほうが良いことが分かりましたので、現在の主力製品はワンサイズ展開に切り替えています。この方向転換により業績は少しずつ上向いており、手応えを感じています。
知名度アップを主な目的として様々なビジネスコンテストにも参加しました。そんな中、経済産業省中小企業庁の「ものづくり補助金」と公社の「東京シニアビジネスグランプリ」で採択されたのです。コンテストでいただいた審査員のアドバイスをもとに、国内特許と国際特許やシューフィッター資格も取得しました。東京シニアビジネスグランプリへの参加では、ビジネスプランの手応えを感じることができましたし、専門家の評価とアドバイスが聞ける貴重な機会になったと思います。
今後の展望や目標をお聞かせください。
3Dスペーサーの良さを理解していただくために、双方向ラジオ的な音声SNSで「Clubhouse」やZoomなど、いろんな取り組みを行っています。でも、一番確実な方法、それは実際に体感してもらうことです。現在、都内の複数の靴屋さんが3Dスペーサーを取り扱ってくれています。今後は、お客様に体感してもらえる店舗を各都道府県に設置していくのが目標です。また、多くの人に「靴の中の足を安定させることがいかに健康な身体につながることか」を伝えていきたいとも考えています。
★シニア世代で創業を考えている方にメッセージをお願いします。
シニア世代が起業する場合、「儲ける」を目標にしないほうが良いと思います。儲かる事業なら、他の人が先にやっているでしょう。そして利益だけを追求していると、何カ月も利益がでなければ挫折という形で事業継続を断念せざるを得なくなります。それよりも、「提供する製品やサービスが自分にとって必要とするものなのか」「人の役に立つのか」を基準に起業するほうが良いと思います。私の場合、もし事業的にダメでも、3Dスペーサーは自分の悩みを解決できる。ちょっと高いけれど、お金を払って買ったのだ。というくらい力を抜いて起業しました。
起業した当初は充分な利益が出ない場合が多いと思います。でも、自社の製品が社会に必要なものと信じていれば継続できます。それに仕事でワクワクできて毎日が楽しい。シニアの創業ではこの気持ちが最も大切なのではないでしょうか。

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