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中小企業人的資本経営支援事業 事例紹介

「家族と社員が安心して働ける会社」を社員全員で実践

エコアティア株式会社

代表取締役の多澤信城氏
代表取締役 多澤 信城 氏

<会社概要>
設立:2018年
所在地:東京都江戸川区西小岩1-20-8 丸昌西ビル3C
資本金:4,000万円
従業員数:8名
事業紹介:
建物の撤去、建て替えなどの際に、土壌中の有害物質による汚染状況を調査し、浄化計画の設計から施工までを一貫しておこなう環境コンサルティングが主な事業。土壌汚染対策法に基づく指定調査機関となっており、施工件数の7割が官公庁案件である。
URL:https://www.ecoatia.co.jp/別タブで開く

代表取締役の多澤信城氏
代表取締役 多澤 信城 氏

代表取締役の多澤信城氏にお話を伺いました

エコアティアは2018年設立、社員数8名の若く小さな企業だ。
「地球環境の改善を通じて、より豊かな生活環境を未来へ」を経営理念として掲げ、その「豊かな生活環境」には、「社員と家族が安心して働ける会社」であることや「子育て世代を応援する会社」であることも含まれている。その2つの実現は経営目標でもある。
その目標を実現するために実践してきた様々な施策が評価され、2023年には東京都から「ライフ・ワーク・バランス認定企業」に認定され、表彰を受けた。

東京ライフ・ワーク・バランス認定式
東京ライフ・ワーク・バランス認定式

「安心して働ける会社」であることを重視している背景には、2つの理由がある。
まず、多澤社長が会社勤めをしていた際に、長時間労働や、産休・育休後の職場復帰の高いハードル、不透明な人事評価など「安心して働けない」職場の現実に直面したからである。
そこから、「誰もが安心して働ける理想の会社を作りたい」と思ったことが、そもそも多澤社長が独立して起業した理由でもあった。
人材を重視するもう1つの背景として、知識集約型のビジネスモデルがある。エコアティアは、土木工事に必要な重機などは一切持たず、操作をする人材もいない。担当するのは、土壌汚染調査や汚染対策工事全体のコンサルティングやプランニング、そして現場のマネジメント業務であり、土木作業はすべて外部の協力会社に依頼している。そのため、担当する人材の知識や技能の質、経験の豊かさなどが事業成果に直結する。
質の高い人材に長く働いてもらうためには、安心して働ける会社であることは当然だとして、様々な人材施策に取り組むこととなった。

土木作業風景
土木作業風景

設立当初から就業規則や人事評価制度を整備

当社は、「安心して働ける会社づくり」のために、当初から就業規則などの社内規定を整備した。また、目標管理制度に基づいた人事評価制度も導入している。
就業規則などの社内規定が整備されていれば、社員の義務や権利が明確化される。また人事評価制度とあわせて、将来のキャリアパスや待遇を見通すことができる。
「社員が会社で働く最大の目的は、給与を得て生活を成り立たせることです。その権利や基準、また将来の見込みなどがはっきりしなければライフプランも立てられず、安心して働くことはできないでしょう。」
人事評価制度の整備は、社員のライフプラン設計を支えるという意味だけではない。
人事評価制度がない会社では、評価は主観的なものとなり、社員は評価者である上長や社長の顔色を常にうかがいながら働くようになってしまう。
逆に評価制度が整備されていれば、その制度により明示されている働き方をすればよい。安心して働ける会社づくりに、人事制度の整備は欠かせないと言える。

IT導入や無理な受注を避けることで残業時間短縮、柔軟な働き方を実現

社員や家族が安心できる会社になるには、規定や制度の整備以外にも、長時間労働を削減したり、柔軟な働き方が選べたりすることが大切である。そのために、大きく2つのアプローチを取ってきた。
ワークフローの見直しやIT導入による業務効率化と、無理な受注をしないことである。
業務効率化に関して、例えば管理現場には社員の自宅からの直行直帰を原則とした。ただし、行動は把握しなければならないため、全員のスケジュールを共有・管理できるように共通のスケジュール管理システムを導入した。
また、進捗管理や原価管理などの業務データもクラウドシステムを用いて、社内全員で共有をしている。そのため、顧客から会社に電話での問い合わせなどがあった際、電話を受けた業務の担当ではない、総務がその場で答えられる範囲が広く、案件担当者に連絡を取って折り返す手間が省ける。これは業務の効率化だけではなく、顧客満足度の向上にも寄与している。
さらに、業務日報の代わりにスケジュール機能を応用した「一言メモ」で社員各自の状況を共有したり、Web上での書類決裁ツールを導入することで、事務作業のためだけに出社しなければならないという状況を極力減らした。

目先の売上増より、長期で見て安心して働ける会社作りを重視

建設業では法定の現場人員配置があるため、人員数により受注の上限が決められる。ただし、残業を増やせば受注できる場合、多くの会社は残業を増やして受注しようとする。
しかし、エコアティアでは、そのような場合は受注しない。残業を増やしてまで売上を増やそうしないことを決めている。
「売上増も重要ですから、正直、経営者としては苦しい判断のときもあります。しかし、会社の将来を考えたとき、ここで無理をすることは決してプラスにならないと考えています。その判断は経営者にしかできません。」
この2つのアプローチでの取り組みにより、同社の月間の平均残業時間は、2020年に7.75時間だったのが2023年には2.71時間にまで減った。ほぼ残業なしといってよい。
また、条件付きでの在宅勤務も採り入れているが、子育て中の社員については、学校の長期休暇の時期には取得しやすくしている。その制度が設けられたことを契機に、契約社員から正社員に移行した社員もいた。
現在は柔軟な働き方をさらに推し進めるため、完全フレックスタイム制導入の準備を進めている。

利益目標の共有やプロジェクトの実施で、全員経営を目指す

同社では「全員経営」を掲げ、経営参画意識を高めてもらうための一環として、売上、原価、粗利益などの経営数値を月次ベースで社員全員に開示し、決算賞与を粗利益と連動させている。そのため、決算賞与がゼロの年もあれば、多額になる年もあるという。
最近では、社員も原価や粗利額に対する意識が高まった。建設業では工期の短縮が、原価削減と粗利増加に直結するため、工期を短縮するための現場改善やバックオフィス業務効率化への取り組みが増えているという。
さらに、これまで主に多澤社長や総務部が中心となって進めてきた働き方改革の取り組みについても、社内にテーマごとの改善プロジェクトチームを作り、ボトムアップでの社内改善が実施できる仕組みを整えた。
全員経営に取り組むのは、社員には、どこで働いても通用する自立した社会人となってほしいと考えているためでもある。業務の専門知識だけではなく、経営や法律に関する知識も幅広く身につけて、会社と対等な立場で交渉ができるようにもなってほしいという。
「仮に、将来うちの会社を辞めても、エコアティアで学んだことを生かして、社会のどこで活躍できる人材になってもらいたいですね。」

安心して働ける会社作りへ

これまでの様々な取り組みは、現場の社員が問題や課題を感じたときに、その都度、対策が検討されて導入されてきた。そのため、導入したが失敗して取りやめた施策もある。「トライ&エラー」ができる柔軟性が、組織を成長させている。

「安心して働ける会社を作るための“特効薬”はないので、社員が問題を感じたときにはそれをすぐに表明できることや、いわば“行き当たりばったり”でその都度対応するしかないと思います。ただしそれは「なんでもあり」という意味ではありません。その問題意識や対応策が、経営理念から外れていないことが大切です。」

今後も、常に経営理念に立ち返りながら、社員全員でその実現を目指している。

取材協力:椎原よしき
※本記事は、2024年8月時点の情報です。