中小企業人的資本経営支援事業 事例紹介
理念経営でAIに代替されない人間力を育む
グローバルビジネスソリューション株式会社

<会社概要>
設立:2006年
所在地:東京都墨田区錦糸1丁目2-1 アルカセントラル14階
資本金:1,350万円
従業員数:82名
事業紹介:
システム・エンジニアリング・サービス(以下、SES)事業を中心に、人材育成事業、Web制作事業の3つの事業を展開している。直近では、地域の医療の質と効率向上に貢献するドラッグインフォメーションシステム(クラウド型医薬品データベース)や、中小企業向けSaaS型経営情報の一括管理システム(ERP)導入サービスの開発にも取り組む。また、事業を拡大する傍ら、子ども食堂や、障害者雇用促進法に定められた企業との連携等、社会問題の解決にも貢献している。
URL:https://gb-sol.com/

代表取締役の前山真希氏にお話を伺いました
グローバルビジネスソリューション株式会社は、2006年に「SES」および教育機関向けのシステム開発を事業として創業した。「SES」とは、社員として雇用するエンジニアが、顧客企業に常駐して技術を提供するビジネスである。派遣社員として短期雇用で働くエンジニアが急速に増える中で、長期的な視点に立って「エンジニアの人生を支えたい。」との思いがあった。
その後、前山社長は「SES」以外にも事業を拡大すると共に、経営理念の象徴に「笑顔」を掲げ、社員、お客様、更には社会に笑顔を広げるという思いを大切にして、事業活動を進めている。そのため、人材育成や社内コミュニケーションに積極的に取り組んでおり、2024年には同社の人を大切する経営が評価されて、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞 審査委員会特別賞を受賞した。

「理念経営」の推進
同社の経営理念は「豊かさの創出~笑顔の絶えない未来を~」である。
前山社長はこの経営理念を経営の中心にしたいと、「理念経営」を進めることにした。
経営理念に合わせて人事評価制度や採用活動の見直しなどを精力的に推進したが、ある社員の「自分たちがどこに向かうのか、わからなくて困ります。」との発言から、自分が進めていた理念経営が社員には十分に伝わっていなかったことに気づく。
「確かに、自分たちが描く理念経営とは何か、それに沿って進むとどんな未来があるのか、言語化しなければ伝わらないと気づきました。」前山社長はそう振り返る。
この気づきを基に、2020年度から「経営計画書」の発行を始めた。経営計画書は、同社の理念・ビジョンを達成するための、いわば羅針盤である。中期経営計画から全社方針、各部門の施策、働く姿勢に至るまで、前山社長の頭の中にある考えと思いが徹底的に言語化されている。その量は40ページにも及び、毎年テーマを設定して見直している。4回目となる2024年度のテーマは「自立と自律」だ。
経営計画書は冊子として全社員に配布する他、毎年創立月に全社で集まる社員会、通称「誕生祭」で、「みんなでいい会社を作るんだ。『豊かさの創出』や『笑顔』を広げていくんだ。一緒にやってもらいたい。」という思いを持って前山社長から発表している。その他にも、読み合わせや、ワークショップ、管理職と一般職の1on1ミーティングなどを通じて、経営理念の浸透が図られている。
加えて、前山社長は「経営計画書に書いたことは叶う。」と、その効力を語る。「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の受賞も、過去に目標のひとつとして書いていたという。単なる憧れに終わらせることなく、具体的な目標として掲げ、そこに向かって着実に前進する道を示す、まさに経営計画書は同社にとって羅針盤と言えるだろう。

人の心を大切にする人材育成
経営計画書の中には「人間力」というページがある。「当社は『人間力の高い技術者集団』として、技術力だけでなく、人間力も重要だと考えています。」と語る前山社長。背景には、人の心を大切にする経営がしたいという思いがあった。
「キャリアプランを考えるなら、表には見えない『心』の部分も忘れてはいけません。」社長就任当時、社員のキャリアプランについて考える中で出会ったキャリアコンサルタントからのこの言葉が、心に響いたという。前山社長自身が、過去に多忙な仕事で心身の状態を崩した経験があったことも影響しているのかもしれない。
同社における人間力とは、強さ、思いやり、セルフマネジメントから成り、それらを培うための育成プログラムを整備している。傾聴力研修やメンタルケア研修など多岐にわたるが、特に同社らしさが際立つのが、「笑顔研修」だ。当社の経営理念の象徴でもある「笑顔」をテーマに、専門家を招き、血流が良くなる、パフォーマンスが出しやすくなるなど、様々な笑顔の効能を全3回に分けて学んだという。
研修の他、社員のキャリア形成にも注力する同社は、専門家によるキャリアカウンセリングも設けている。前山社長によれば、数年前に社員のキャリア育成のために任意で「キャリアプランニングシート」を導入したところ、作成した社員はそうでない社員に比べ、著しく成長が見られたという。この経験から、今後は全社員に広げていく予定だ。

コミュニケーションが育む組織文化
普段、オフィスにいる社員の姿はごくわずかである。「SES」という事業の特性上、社員はそれぞれ異なる顧客企業に駐在し、社員同士が顔を合わせる機会は極めて少ない。
そのため、社員同士のコミュニケーションの場を積極的に作っている。例えば、社員同士でご飯を一緒に食べる「おなかま会」。「お仲間」と「同じ釜(の飯を食べる)」という意味の「おなかま」をかけて名づけられた。特に、直接会う機会を大切に考えており、前山社長も集まりにはできるだけ参加して一人ひとりに声をかけているという。
「人間の幸せは良い人間関係の中で生きていくこと、という研究があるそうです。人は誰も完璧ではないからこそ、社会があり、会社がある。私はその思いから、協力しあえる温かい人間関係を当社の文化として育んでいます。」
また、同社では定期的に社員の要望を吸い上げる機会も設けている。年に1度、参加希望者を募って行う「懇話会」だ。1回あたり6~8名程度のグループに分かれ、5、6回程度、計40名前後が参加して、前山社長と直接意見を交換できる。グループ内の年齢や性別、職種、役職は様々であり、あえて混在させた方が様々な人の意見が聞けると、社員には好評だという。「『役員や部長など、役職者との壁を感じない』これは、入社2年目の社員のコメントですね。」その場で聞いた要望は必ずしもすぐ実現できるとは限らないが、発言も含めて記録に残している。「まずは受け止める。会社として優先順位が高いこと、すぐにできることなど、できるだけ取り入れています。」と前山社長。
直近で社員の声をもとに実現したのが、2024年12月に始まった「ワンチャンス資格取得支援制度」だ。この制度は、資格試験の受験料を初回に限り、合格前でも補助するものである。通常は合格後に補助しているが、「受験料が高くてチャレンジしにくい。」という若手社員の要望を反映した。2024年5月に話を聞き、わずか半年で制度化している。
「人間力」がAIを超える付加価値を生む
同社のビジョンは「100年続く日本でいちばん笑顔の会社」。前山社長は、今後は単なるITサービスの提供にとどまらず、同社が培ってきた「人間力」を生かして、お客様の課題解決やビジョンを叶える支援に力を入れていきたいという。「今後、多くの手段的なものはAIに代替されます。ただ、本当にお客様のことを理解して、思い描く未来の実現を支援するには、人間だからこそ感じられて、提供できるものが付加価値になります。」
理念経営を基軸に人間力を育み、互いが支え合って進んでいく。人的資本経営の要素が詰まった同社の取り組みは、先が読みにくい時代だからこそ、より力を発揮するのではないだろうか。
取材協力:山田 美鈴
※本記事は、2024年12月時点の情報です。