中小企業人的資本経営支援事業 事例紹介
創業100年、100億円企業を目指して ~組織を巻き込む次世代リーダーの力~
平和食品工業株式会社

<会社概要>
設立:1931年
所在地:東京都世田谷区等々力4-6-1
資本金:5,000万円
従業員数:221名
事業紹介:
戦前からカレールーの製造販売をしてきた老舗の食品メーカー。現在は、カレールー以外にラーメンスープやシチュー、香辛料・調味料など、幅広いラインナップの業務用食品を取り揃えている。最近は、一般家庭用食品の開発にも力を入れており、「等々力伽哩(カレー)」は世田谷区公式の「世田谷みやげ」にも選定されている。
URL:https://www.heiwa-food.co.jp/

三代目代表取締役社長の森村荘太郎氏にお話を伺いました
業務用食品業界では、歴史ある業務用カレールーのほか、昭和中期に大ヒットしたラーメンスープなど、味に定評ある定番商品をいくつも抱えていることで知られている。業績に波はありつつも成長を続けており、コロナ禍の直前には売上高50億円に至っている。コロナ禍の影響で一時売上が落ちたものの、その後回復し、直近では62億円を超えた。
同社の発展の礎は、創業者から続く経営陣の堅実経営にある。着実に利益を残す経営により、地元の玉川税務署から何度も優良申告法人の表敬状を授与されている。

家族的経営を超えるためには全階層での育成が課題に
堅実経営で安定的に好業績を残す一方で、同社の経営幹部には危機感も生じていた。
「弊社は家族主義的で温和な社風で、社内での異動もほとんどなく、安心して働きやすい職場でした。しかし、業績向上へのチャレンジが強く求められることも少なかったので、長期的な視点から経営全体を見渡せるような経営幹部人材の育成が必要と感じていました。また、女性社員は裏方でのサポート役を任されることが多く、女性幹部の育成も課題でした。」(浜脇常務)
一方、事業環境を見渡せば、長期的には国内市場全体が縮小していく中で競争の激化が見込まれる。優良な定番商品を抱えているが、現状維持では将来安泰とも限らない。
さらに、近年は新卒採用が年々難しくなっている状況があった。
そのような背景を踏まえ、この10年ほど人材課題を強く意識するようになった。具体的には、経営幹部候補の育成、その土壌となる社員全体のボトムアップ、女性社員の活躍の場を広げることなどである。
多種多様な勉強会や研修などで人材を育成
10年ほど前から、全階層の社員に対して育成施策に取り組んできた。
まず、外部の研修会社と包括的に契約して、階層ごとに外部研修を受講させている。そのほか、生産管理、マーケティング、人事、法務、税務など、業務上必要な専門知識についての研修も実施されている。これらは、各階層、役職における必須のスキル修得を図るものだ。
更に、2か所の工場で月に1回程度の頻度で実施されている社内勉強会もある。こちらはパート社員が参加することもあり、例えば、ISO認証で求められる衛生管理などについて学ぶ。社内勉強会の特徴は、管理職社員が持ち回りで講師になること。それにより、社員の知識・スキルが向上するだけではなく、講師となる管理者の知識やコミュニケーションスキルの向上も図ることができる。
また、社員の自己啓発を促すため、通信教育会社と提携して、100種類程度の通信教育講座を受講できるメニューも用意している。社員自身が興味のある講座を受講し、修了(合格)すればその講座費用の半分を会社が負担する仕組みにしている。学習意欲が高く、いくつもの講座を受ける社員もいるという。
こういった多様な取り組みにより、階層ごとの社員の基本スキルが着実に向上した。それが、ここ数年の大幅な業績向上をもたらした一因になったと考えられている。
3年間にわたって、経営人材育成スクールに参加
経営幹部候補育成施策としては、2019年から2022年までの間で計6名の基幹人材を公社の経営人材育成スクール「経営人財NEXT20」に参加させた。
その目的は、経営に関する知見を広く学ばせ経営幹部としての素養を身につけることである。しかしそれにとどまらず、社外の人との交流を持たせて、社内視点だけではない視点や発想を得させることも目的にあった。それを後押ししたのは、森村社長自身の経験だ。
「私も昔、ある後継者育成講座に参加しました。講義での学びも大きかったですが、そこで知り合った他社の人たちとの交流が有意義で、現在でも付き合いが続いています。そういう面も含めて公社のスクールに参加する意義は高いと思っています。」(森村社長)
6名の参加者は、本社と工場、営業部門とバックオフィス部門など、組み合わせを考えながら幹部層が選定した。大崎次長は40代の中堅社員。参加当時は工場の課長だったが、2024年度から本社の総務部に次長として配属された。
「工場で若手を指導するときには、スクールで学んだバックキャスティングの考え方などが非常に有効でした。また、本社総務部配属になってから、これまでに経験のない他部門との調整業務が増えましたが、スクールで学んだフレームワークなどが役立っています。」(大崎次長)
スクールに参加した6名の中には、現在取締役に就いている人もいる。経営幹部人材を育成するという目的は、おおむね果たせたと森村社長は評価している。
「経営人財NEXT20」参加をきっかけに女性チームによる新商品を開発
「経営人財NEXT20」に2022年参加の小松崎部長は、かねてより女性が活躍できる場が少ないことに危惧を抱いていた。それ以前では、40名ほど在籍する女性社員は主に裏方として働いており、業務を主導する役割は担っていなかった。ちょうどその前年に就任した森村社長が、古い社内体質の転換、女性登用の推進を図っていたこともあって、小松崎部長はスクール講師からのアドバイスも受けて、女性の発想を活かした新製品開発を構想した。
まず、全社の女性従業員へのアンケート調査を実施し、本社と2か所の工場から部門を問わずに11名の女性社員を選抜して、新商品開発チームを結成した。当初は、全く異なる新商品を開発するつもりであったが、まずは早期に結果を出そうという意図から、すでに存在していた等々力伽哩(カレー)ブランドでの新商品開発に方向転換。そうして生まれたのが、「大人が食べる美味しい甘口カレー」をコンセプトとした「等々力甘伽哩」だった。
「男性の私が女性だけのチームをまとめあげるのには苦労もしましたが、社長や他部門長にも協力していただき新製品の発売にこぎ着けました。発売から半年ほどですが、期待以上に売れていて、いまはこのブランドをどうやって全国展開していくか構想しているところです。」(小松崎部長)
引き続き現在でも、複数の女性チームが新たな製品のアイディアを練りながら、全社の新製品開発会議で検討を重ねているという。

創業100年に向けての持続的な成長企業へ
森村社長は、就任にあたって「100年100億円」というスローガンを掲げ、創業100年となる2047年までに売上100億円を達成するという長期目標を設定した。そして各部門はその長期目標の達成に向けた具体的な方策の検討を開始することとなった。
「創業100年は、2047年とかなり先なので優しい目標だと思っていますが、目標数字を掲げたことで、社内が一丸となってそれを早期達成しようという気運が醸成されてきました。」
スクールに参加した6名が、各部門で中核人材になって推し進めている。
人材育成施策を充実させてきたが、優れた人材の採用や定着を図る上で、次の課題となっているのが、給与・勤務体系の改革や人事評価制度の整備だ。これらの課題についても、現在、公社の支援を受けながら検討を始めた。今後も持続的な成長を続け、創業100年に売上100億円の長期目標を達成するための人材基盤を着々と整えている。
取材協力:椎原よしき
※本記事は、2024年8月時点の情報です。