中小企業人的資本経営支援事業 事例紹介
衰退する傘業界に一石を投じた女性活躍や職人育成の取り組み
株式会社小宮商店

<会社概要>
設立:1930年
所在地:東京都中央区東日本橋3-9-7
資本金:300万円
従業員数:18名
事業紹介:
山梨の伝統織物「甲州織」の生地を使った洋傘を中心に、製造・販売を行い、職人が一本一本丁寧に作り上げる洋傘が人気を博している。職人が作る「東京洋傘」は東京都の伝統工芸品に認定されている。2016年からは女性活躍推進への取り組みを開始。その後、ライフ・ワーク・バランス推進、職人の後継者育成にも力を入れている。
URL:https://www.komiyakasa.jp/

執行役員 経営企画室長の伊藤裕子氏にお話を伺いました
創業は1930年。戦前から長い歴史を持つ小宮商店に、伊藤室長は、祖母と母親の老老介護を支えるために保険会社を退職後、介護の合間に「何か仕事をしたい」と考え、2013年に経理のパートとして入社した。2015年からは正社員となり経理に加えて人事も担当するようになる。そして2016年には、女性活躍推進の取り組みを始め、経理部部長、かつ同社女性初の管理職となった。
伊藤室長の入社当時、小宮商店が行っていたのは卸売と催事販売のみであった。経営は厳しい状態であり、小宮社長と相談し、入社翌年の2014年に小売店舗を始めることとなった。
小売店舗開設にあたっては、社内には人材がいなかったため、百貨店勤務経験とデザインの知識を持つ20代の女性社員を採用。彼女にはホームページの改修やSNSでの情報発信だけでなく、店舗づくりを一から任せ、若い女性向けの商品開発やブランディング強化も担ってもらった。その結果、小売店舗の売上が大きく伸びたという。
また、こうした実力のある女性社員たちが、結婚や出産を理由に退職を余儀なくされることがないよう、「柔軟な仕組みさえあれば、長く働き続けられる」と考え、女性活躍推進にも力を注ぐようになった。

社内勉強会やアンケートの実施により社員の意識が変化
伊藤室長は2016年、自ら志願して「東京都女性活躍推進人材研修」に参加した。この研修は、非常に多くの学びがあったという。そこで得た知見を社内でも共有したいと考え、独自の資料を作成して社内勉強会を実施するようになった。この社内勉強会では、人口問題や男女の役割分担に関する先入観などを取り上げ、具体的な数字やデータを用いて解説を行った。年配の社員からも「時代はこういうふうに変わってきているんだね」といった声が上がるなど、好意的に受け止められたという。
同時に社内無記名アンケートを実施し、会社の良いところや改善してほしいところについて、社員全員から意見を募った。その結果をベースに社長と話し合い、「改善できること」「できないこと」「できない理由」を速やかに社内へフィードバックしていった。この積み重ねにより、「社員同士の信頼感が育まれたのではないか」と振り返る。
更に、「女性が長く働き続けるためには、家庭でのパートナー同士の会話やサポートが大切です。同時に、社内でも女性活躍推進に対する理解があってこそ、女性が会社で仕事を続けやすくなるのだと思います。」とも語る。
さらに、2018年頃に小宮社長が女性活躍推進の研修に一緒に参加。小宮社長自身が研修で得られる熱量や時代の空気感を直接感じることで、経営トップとして社内にメッセージを発信してもらうことができた。その結果、女性活躍推進の取り組みは、一段と進んだ。

誰が不在になっても業務が回る複数担当制や技能継承の取り組み
女性活躍推進を進める過程で、「複数担当制」を導入した。かつては、担当者本人にしかわからない業務が多く、担当者が不在になると他の社員が業務を引き継ぐことができなかった。その結果、ロスが多く、会社全体での商品企画も難しかったという。
こうした業務の属人化を解消し、有給休暇を取得しやすい体制を整えるため、ひとつの業務に対して二番手・三番手の担当者を決め、メイン担当者と近い業務を覚えてもらう仕組みを作った。つまり、社員が一人二役や一人三役をこなせるようにすることで、誰かが不在でも業務が滞らない体制を築いたのである。
あわせて、職人の後継者育成にも力を入れ出した。洋傘製作の工程の動画を作成し、パスワード管理によって社内関係者のみが閲覧できるようにした。更に、ベテラン職人の知識を若手社員が引き出し、マニュアル化する取り組みも実施。また、若手社員がベテラン社員から学んだ洋傘製作の歴史や技術を、会社のホームページやブログで発信する活動も行っている。「弊社では20代~70代の従業員が働いていますが、若手がベテラン社員から聞く経験談や老舗の歴史の話しにリスペクトを持ってインタビューしている場面を見かけます。」と伊藤室長は語る。
次の施策としては、女性の採用および管理職登用の推進が挙げられる。伊藤室長自身が同社初の女性管理職として登用されたことで、女性管理職のロールモデルとなった。ほかにも、結婚・出産・育児をしながら働く女性社員のロールモデルが生まれている。これらを含め、ホームページやSNS、厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」などを活用し、女性活躍推進の取り組みを積極的に公表してきた。こうした情報発信により、同社の姿勢や具体的な取り組みが、更に社内外へと浸透している。
女性活躍と職人育成の取り組みが評価され、ライフ・ワーク・バランス認定企業に
これらの取り組みによって、職人の後継者不足が解消されつつある。
当初、職人の後継者は皆無だったが、女性活躍推進の取り組みによって、職人を志望する女性の応募が急増した。伊藤室長が入社した2013年当時、職人は70代後半の男性2名しかいなかったが、その後、女性だけでなく男性の職人も増え、現在は14名となっている。更に、2024年には小宮商店の職人採用を目的とする後継者インターンを初めて募集したところ、90名もの応募があり、2回のインターンシップを経て2名が入社を果たした。
また、さまざまな賞の受賞や認定を獲得した。2020年に女性活躍推進法に基づく認定制度「えるぼし」の認定取得や「東京都女性活躍推進大賞」では最高位の「大賞」を受賞し、外部からの高い評価を得た。
女性活躍推進の取り組みは、男女を問わず働きやすい環境を整えるためのライフ・ワーク・バランス推進の取り組みへと移行しており、2021年に「東京ライフ・ワーク・バランス認定企業」にも選ばれた。更に、2023年には技能者の育成と技能継承の取り組みの成果を表彰する「東京都中小企業技能人材育成大賞知事賞」奨励賞を受賞した。

業界の未来を見据え、日本製洋傘の技術を継承
課題や今後更に取り組みたいことを問うと、「品質を落とさずに作り続けていく。」伊藤室長はしばらく考えた末にこう答えた。2024年には後継者インターンを募集して2名が入社。近年は外国人観光客の日本製洋傘への人気が高まっている。その需要に応えるためにも、洋傘職人を更に育成し、日本製洋傘の技術を継承していく必要がある。
「現在、日本製洋傘のシェアは、国内流通傘全体の0.5%以下となっているため、当社だけが発展しても、生地屋さんなどの関連企業が続けられなければ結局は終わってしまう。業界全体をどう拡大できるか、いつも考えています。」
小宮商店を変革してきた立役者の視線は、すでに自社の枠を越え、傘業界全体の未来を見据えている。
取材協力:本村 公一
※本記事は、2024年11月時点の情報です。