トップ > 事業名から探す > 総合支援事業 > 中小企業人的資本経営支援事業 > 事例紹介 > 中小企業人的資本経営支援事業 事例紹介 石道鋼板株式会社

中小企業人的資本経営支援事業 事例紹介

自社製品から商社機能へ ~イノベーションを止めない次世代リーダー~

石道鋼板株式会社

取締役の石原佑太氏
取締役 石原 佑太 氏

<会社概要>
設立:1966年
所在地:東京都江戸川区松江4-25-17
資本金:1,000万円
従業員数:11名
事業紹介:
主力事業は、厚板鋼板のガス切断加工および卸売販売。顧客からの受注に応じて、極厚の鋼板を指定通りのサイズにカットして納品する。東京都内で、厚板鋼板をガス切断する技術を持つ工場は同社にしかない。2021年からは、自社オリジナル商品としてアウトドア用調理鉄板「MAJIN」を生産・販売し、BtoC事業を切り開いた。
URL:https://www.sekidou-kouhan.com/別タブで開く

取締役の石原佑太氏
取締役 石原 佑太 氏

三代目の後継が予定されている、取締役の石原佑太氏にお話を伺いました

石原取締役はもともと、上場大手のIT系企業で働いていた。そこで12年間勤めた後、家業の石道鋼板を承継することを決意。
2018年に石道鋼板に取締役として入社したが、その時点で同社はかなり厳しい経営状況に陥っていた。
「率直にいって、経営破綻してもおかしくない状況でした。」
主な問題は
①業績面では粗利率が低く、営業赤字
②財務面では、年商と同額程度の負債を抱えており、債務超過ぎりぎり
③取引先の一社依存率が高い。それにもかかわらず、新規顧客の開拓をしていない。
この状況に対し、強い危機意識のもと、全面的な経営刷新を図っていった。

工場風景
工場風景

社内コミュニケーションと業務改革

経営改善の初期から取り組んだのが、社内全体でのコミュニケーション強化だ。厳しい経営状況を社員はそもそも知らなかった。経営改善を進めるには社員の協力が不可欠であり、現況を正確に理解してもらうことが前提となる。一方、石原取締役は入ったばかりで社員の個性や特徴がわからない中で、現場で生じている問題や課題なども把握しなければならない。
そこで、現場とコミュニケーションを取り、情報共有を図ることを重要課題として、工場長とは毎週、その他の一般社員とは1~2か月ごとに、1on1面談を実施することにした。
面談の場では、業績・財務などの経営状況とともに、それに対する改善策などを説明して協力を要請した。
他方で、工場長はじめ各社員からは、業務工程、社内の人間関係、処遇など、現場視点で感じる問題や課題を丁寧にヒアリングしていった。
「現場社員は職人気質なので、不平不満のようなことを積極的に言うことはしません。そこで、言葉の節々から私が察知して、うまく話してもらうことを意識していました。」

現場改善を重ねて生産性を向上、黒字転換へ

石原取締役は社員の声もヒントにしながら、現場の業務を少しずつ改善していった。工場内の作業レイアウトや作業工程の変更など大きなものから、業務情報の伝達フローの一本化、作業時に必要なシールド一体型ヘルメットや高機能ブーツ、空調服の導入などの装備、備品の見直しまで多岐にわたった。
石原取締役自身には、工場での勤務や生産管理の経験はない。そういった現場改善の施策は、外部研修に加えて、多くの他社工場の見学をさせてもらいながら参考にしたという。
それらの施策により、同一工程の作業時間の短縮が実現し生産性が向上。同時に進めていた費用削減策の効果とあわせて、2020年度の決算では黒字転換を実現し、以後毎年黒字決算を続けている。さらに、以前は常態だった残業も、現在はほぼ無くなったという。

工場作業風景
工場作業風景

強みを活かした新たな事業ドメインの開拓

石原取締役は、既存事業の生産性向上や費用削減を進める一方で、新規事業への取り組みもスタートさせた。
経営上の大きな問題は粗利益率の低さだった。その改善のため、厚板切断という同社の強みを活かしつつ、高い利益が得られそうなBtoC領域への進出を考える。
まず試験的に、ネットオークションを使って一般個人への厚板販売を行ってみたところ、思った以上に反響があり、また高い利益を取れることがわかった。
そこで、本格的にBtoC領域への進出を考えたが、具体的なアイディアがまとまらない。その頃、たまたま知った公社の「新サービス創出スクール」に参加し、SWOT分析等を通じてアイディアを練り上げていき、最終的に極厚の調理用鉄板へとたどり着いた。
ポイントは、既存の技術で製造可能であり新たな設備投資などが必要ないこと、それでいて他社には模倣が困難な製品であることだ。
それまでの一般的なアウトドア調理用鉄板の厚さが3ミリ、「極厚」とされていた商品でも6ミリであったのに対して、同社の得意な切断技術を活かし、厚さを3倍以上の19ミリとする製品を開発した。公社からの紹介で東京都立産業技術研究センターによる試験を受けたところ、この厚みによる蓄熱性の高さが、肉を焼くのに適しているというエビデンスも得られた。そして2021年、「MAJIN」という商品名を付けて一般販売開始。商品価格は、十分な利益が取れる11,000円に設定した。

アウトドア調理用鉄板「MAJIN」
アウトドア調理用鉄板「MAJIN」

独自製品の開発をきっかけにビジネスが拡大

「MAJIN」は、2021年の発売開始から通算で約2,500枚を発売した。売上自体は、売上総額から見ると10%にも満たない金額だが、粗利率が高いため最終利益への貢献度は高い。また、他の受注加工製品と同様に基本的に受注生産としたため、製品在庫を抱える必要がなくキャッシュフローを圧迫しない。
利益やキャッシュの面で、確実に経営改善に寄与している「MAJIN」だが、それ以上に大きかったのが、独自商品の販売がもたらしたビジネスの広がりだという。
「下請けでの加工業務と違って、製品があることから展示会などへの出展もやりやすくなりました。“名刺代わり”として『MAJIN』の名が認知されたことで、他業界の企業さんを含めて、こんなことができないかといったお話を、沢山頂くようになったのです。」
「MAJIN」の販売後に同社とのアライアンスを求めてきた企業には、デパートにも出店している有名宝飾メーカーもあったという。それを含めて、現在いくつかの企業との提携案件が進行中だ。

ネットワークを活用して商社機能も

現在、「MAJIN」に続くアウトドア用製品の第2弾を開発中で、プロトタイプができている。その製品は、「MAJIN」と異なり、複数の部品を組み合わせた複雑な形状のものとなる予定だが、同社で製造するのではなく他の金属加工工場に製造を依頼している。製品開発において、自社の強みを活かせるものであれば自社で製造するが、そうでなければ自社内で完結することに全くこだわっていない。他社とのネットワークを積極的に活用していくことが重要だと考えている。
例えば、自社では引き受けられない引き合いがあったときにも、ネットワークを活用してそれに応えていくという方向だ。
「以前、引き合いがあった仕事を断っているのを見て、すごくもったいないと思っていました。その仕事をこなせるパートナー企業があれば、うちが窓口になって仕事を受けられます。いわば、商社的な機能を担えます。」

外部のネットワークを活用して更なる成長へ

町工場のような中小製造業では、自社の強みを核としながら、同業・他業種を問わないパートナーシップを築き協働することは、ほとんど行われていないという。石原取締役は、そこにこそブルーオーシャンが広がっていると感じている。

保有する経営資源の少ない中小企業だからこそ、外部のネットワークを活用して成長を図るという戦略だ。そのためには、積極的に外部研修や公的機関の支援サービスを活用していくことが欠かせない。

「弊社の将来ビジョンは、鉄鋼における『課題解決工場』です。鉄鋼に関してやってほしいことや、困りごとがあれば、うちに相談してもらえばパートナーも活用しながらなんでも解決できる、そんな存在を目指していきます。」

取材協力:椎原よしき
※本記事は、2024年7月時点の情報です。