中小企業人的資本経営支援事業 事例紹介
組織改革から若手採用まで ~組織を巻き込む経営と新手法~
株式会社利根川産業

<会社概要>
設立:1986年
所在地:東京都足立区入谷8-3-8
資本金:2,000万円
従業員数:114名
事業紹介:
一般廃棄物および産業廃棄物の収集運搬と、廃棄物のリサイクルを2本柱とする。主要顧客はスーパーマーケットで、東京23区および埼玉県南部を対象エリアとして、広域にわたり回収を行っている。高度なリサイクルには定評があり、自社工場内で、発泡スチロール、ペットボトル、廃プラスチックなどのリサイクル処理を行っている。
URL:https://www.tonegawa-s.co.jp/

二代目の後継が予定されている、取締役の利根川靖氏にお話を伺いました
利根川取締役は大学卒業後、いずれ同社に入社することを前提にスーパーマーケットチェーンに就職。5年間の勤務後、2006年に利根川産業に入社した。
入社後は、収集車を運転しての廃棄物収集業務、自社工場でのリサイクル業務、配車スケジュール調整など、社内のすべての現場業務を徹底的に身につけていく。その期間は、約10年間にも及んだ。
「二代目だからこそ、体を動かして汗をかいて、みんなと同じ現場仕事を覚えた経験がなければ、社員はついてきてくれないですよね。」
次期経営者としての視点から、社内を俯瞰して問題点を洗い出し、社内改革にも着手していったが、人材に関する大きなテーマとして、組織改革とリーダー育成、そして人材採用に取り組むことにした。

組織図が無く、リーダーの役割が曖昧
同社には、以前から部門はあったが、明確な階層型組織とはなっておらず、社長の下はほぼ全員が横並びの状態であった。部門ごとのリーダーが明確に定められていないため、日々の業務上では、チームの中で仕事ができる人がリーダー的なポジションを担うだけで、部門内での役割が曖昧になっていた。
また、新人の指導・育成担当者も決められていなかったことに加え、業務マニュアルが整備されていなかったので、社員間の業務能力のばらつきが大きかった。
結果として、成果を出せる社員とそうではない社員の差が大きくなり、成果を出せる社員ほど業務が集中して疲弊してしまう状況であった。
年々厳しくなる人材採用を実感
人材採用難も大きな問題であった。2010年以降、新規人材の採用が年々難しくなっていくことに利根川取締役は危機感を覚えていた。
実は、社員の定着率は悪くない。一度採用すれば、多くの社員は長く働いてくれるが、定年退職などの自然減はあるため採用は必要になる。廃棄物収集は労働集約型の業種であるため、社員減少は事業規模縮小につながりかねない。
また、社員が高齢化していることも問題であった。同社の業務は体力仕事の面も多いので、できれば若い世代を採用したい。若手を採るための採用力の強化は、喫緊の課題であった。
リーダーの育成と1on1面談を実施
組織改革面で、利根川取締役が第一歩として取り組んだのは、企業理念の再定義と社内への浸透だった。それによって、目指すべきゴール像を社内の全員に明確に提示した。
その上で、横並びだった社内組織を階層化して新たに組織図を作るとともに、チームリーダーのポジションを明確にした。
リーダー人材は、外部のリーダー研修への参加、全リーダーが集まる定期的なリーダーミーティングなどを通じて育成を図った。また、そのリーダーのもとで、目指すべきチーム像、チーム目標も明確にした。
さらに、コミュニケーション促進やメンバー自身の成長を促すため、原則として毎月1回、リーダーとチームメンバーとの1on1面談を行うこととした。
リーダー人材の成長に手応え
定期的な1on1面談の実施を通じて、チーム内のコミュニケーション促進やメンバーの成長支援が成し遂げられただけではなく、リーダー自身の自覚も育ってきたという。
それが表れているのがリーダーミーティングで、今では各部門リーダーが、自分の部門の課題解決だけではなく他部門の課題や、ひいては全社的な課題にも意識を向けて発言することが目立ってきた。
若手リーダーの中からは、次代の経営幹部候補となるような人材も育っており、承継後の経営体制を見据えた手応えを感じている。
SNS戦略による採用強化の取り組み
同社では2023年から、採用活動の一環としてSNS(インスタグラム、TikTok、YouTube、X(旧ツイッター)など)を活用している。その主な目的が、採用活動であり、それを実現するため、若手のパート社員から構成される広報部を新規設立した。
「若い人を採用するためのSNSでは、日頃からSNSを使い込んでいる若い人自身が情報発信をするべきです。私も一緒になって、ゼロから学んで取り組んでいきました。」
採用は大きな成果を実現
SNSで情報を発信しても、最初は閲覧回数もほとんど伸びなかった。しかし、試行錯誤を重ねて継続するうちに、100万再生を超える「バズ動画」を何本か発信することができ、それをきっかけにフォロワーが増えて、応募者の数だけではなく採用の間口が大きく広がったという。
廃棄物収集業は朝が早い業務のため、通常は自転車やバイクで通える近隣住民からの応募が大半だ。ところが、SNSを通じてほぼ全国から問い合わせがくるようになり、わざわざ同社の近所に引っ越してくる人もいるという。
2023年からスタートした採用SNSだが、それを入り口として採用された若手人材が、今では10人に上る。
働きやすい職場環境の実現を目指す
もともと社員の定着率は悪くなかったが、より長い間、健康で働いてもらうことができるよう、働きやすい職場環境の実現にも務めている。
その1つが、「業界一健康になれる会社」を掲げた健康経営への取り組みだ。2023年には、経済産業省から健康経営優良法人にも認定された。
また、2024年4月からドライバーなどの時間外労働時間が規制されることが分かっていたため、運輸業の働き方改革も見据えて、長時間労働の削減にも早めに着手した。
さらに、社員の会社に対する意識を捉えるために、2023年からエンゲージメントサーベイ調査を導入。その結果を社員に開示しながら、より良い会社の姿を模索している。

エンゲージメント調査では「会社への信頼」が高く評価される
様々な取り組みが奏功し、過去2回実施されたエンゲージメント調査では、「業務のシステム化」と並んで「経営への信頼」が、社員から高く評価された項目となった。利根川取締役の入社以後10数年をかけて、業務効率化や組織、人材面での改革を進めてきた成果であろう。
最初から意図していたわけではないが、例えば、効率的な業務環境整備が採用の際にもアピールポイントになるなど、改革の施策は相互に関連して効果をもたらすことがわかった。
「組織改善の施策には、それをすれば目に見えて良くなる“魔法のツール”はありません。優先度を決めてひとつひとつ地道に取り組んでいくしかありません。それを積み重ねてきて、少しずつ会社全体が良くなってきたというのが実感です。」
一致団結して成果を出せるチームへ
気候変動やSDGsが注目される中で、廃棄物リサイクル事業の成長ポテンシャルは高まっている。
しかし、その業務の多くは労働集約型であり、今後の成長は人材の質量にかかっている面が大きい。
「採用難の時代に、若い人が入社してくれるようになったのは、本当に有り難いことです。次は、すべての社員に、ビジョンや方向性を理解してもらい、一致団結して自律的に動きながら成果を出せるチームを作っていかなければなりません。それが次期経営者としての自分の責任だと考えています。」
取材協力:椎原よしき
※本記事は、2024年6月時点の情報です。