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中小企業人的資本経営支援事業 事例紹介

「愛ある経営」とは、理想ではなく実現できる

株式会社ワイズ・インフィニティ

代表取締役社長 山下 奈々子 氏
代表取締役社長 山下 奈々子 氏

<会社概要>
設立:2000年
所在地:東京都港区赤坂2-10-9 ラウンドクロス赤坂2階
資本金:1,000万円
従業員数:17名
事業紹介:
海外映画の字幕、海外テレビ番組の吹き替え、文書の翻訳などを行う。
英語のほか、中国語、韓国語、フランス語、ロシア語など、多くの言語に対応しているのが強み。
映画、ドラマ、企業動画などの映像翻訳は、年間3,600本以上にのぼる。
通訳事業、翻訳者養成講座などの教育事業、出版事業なども手掛けている。
URL:https://wiseinfinity.com/別タブで開く

代表取締役社長 山下 奈々子 氏
代表取締役社長 山下 奈々子 氏

代表取締役社長の山下奈々子氏にお話を伺いました

山下社長はもともとフリーランスとして活躍後、2000年に会社を設立した。創業当初は、個人の仕事をそのまま拡大しているような感覚も残っていた。しかし、2004年に正社員を採用し、その社員が結婚して子どもができた時に、社員の家族も意識したことで、経営者としての責務を強く自覚するように変わったという。
それから熱心に経営者としての勉強に取り組み、会社にとってもっとも大切なものは「人=社員」であり、社員とその家族の幸せを最優先に考え、実現していくことが、経営者としての最大の責務だという境地にたどり着いた。以後、様々な人材施策への取り組みを進める。
同社では経営理念として「『愛ある経営』の実践」が掲げられている。
「私はクリスチャンで、マザーテレサを尊敬していますが、彼女が『愛の反対は無関心』といっています。そこで、いろいろなことに関心を持って、広く世の中に貢献したいということから、この理念を掲げました。」
「愛ある経営」の理念は、顧客をはじめすべてのステークホルダーに向けられているものであり、そこには当然社員も含まれる。この創業当初からの理念があったからこそ、社員とその家族の幸せを最優先にするという考え方に至り、具体的な取り組みが行われていった。

年2回のライフプラン面談で、将来の目標を考える

社員とその家族を幸せにするためには、社員への理解が欠かせないと考えており、年に2回、全社員との「ライフプラン面談」を実施している。
面談前に、社員には、半年後、1年後、5年後、10年後などの中長期的な将来における自分の「ありたい姿」と「そのための行動計画」を、仕事とプライベートのそれぞれでシートに記載してもらう。それを見ながら、社長と社員が話し合う。
シートは、第一にはその社員がどんなことを考えているかを知り、コミュニケーションの素材とすることが目的だ。だから、例えば、前回の面談で書かれていた「行動計画」がまったく実行されていなくても、とがめるようなことはしない。中には「3年後には転職したい」と書いてくる社員もいるというが、それでもよいと考えている。
「私が社員を知るきっかけになると同時に、社員自身には、中長期的なビジョンを持つことや、そこから逆算して考えることの大切さに気付いてもらえれば十分です。」

山下社長と社員の1on1面談
山下社長と社員の1on1面談

会社や上長が社員を理解する

ライフプラン面談は、直接的な成果を求めるものではないが、社員に対する理解が着実に深まる。
同時に、社員にとっても社長に対して、直接自分の気持ちを伝えられる場として、エンゲージメントを高める機会になっている。上長には直接言いにくいことでも、社長になら話せるということもある。
さらに、面談の場で社員から出された意見が、福利厚生施策に反映されることもあったという。居心地がよく働きやすい会社を作るためのツールとしてもライフプラン面談は役立っている。

ガラス張りの業績数値で社員と会社が相互に理解を深める

同社では、業績数値や経営情報を可能な限り社内で公表している。まず、月次決算は、営業利益までの業績数値を開示している。
また、毎年度の期初には、社員全員に加えて、メインバンクの担当者、顧問税理士までが一堂に介する経営計画発表会を開催し、前年度の業績数値や今年度の目標数値がまとめられた「経営計画書」を配布している。その場では、その目標数値をどう実現していくかなど、社員全員が今期に向けた決意表明をしていく。
さらに、社員の賞与は公表された利益金額に連動して増減する仕組みとするなど、経営の透明性を高めている。

社員の経営参画意識が向上

経営数値を透明化し、利益に賞与を連動させることにはリスクも危惧される。例えば、業績不振時に退職する社員が出るかもしれない。しかし、それについては気にしていないと山下社長は言う。
「ピンチの時こそ『みんなで頑張ってチームを盛り上げよう』と考えるような社員でなければ、私たちの経営理念にはそぐわないでしょう。」
実際に、月次の業績発表で売上が低迷した時期には、「最近売上が落ちているので、新規営業に力を入れますね」などと、社員から打開策が提案されるという。

業務を属人化させない仕組み作り

同社では、社員がチームの一員として働き、チーム全体の成果に貢献するという点を重視している。「個人の成果を追求したいならフリーランスで働けばよいのです。」これは、山下社長自身が長年フリーランス翻訳者として働いてきた経験に基づく実感だ。
チームとして業務を遂行するため、属人化をなるべく避ける業務フロー作りにも力を入れている。その端的な例が、課長以上の役職者を除いた一般社員には個人のメールアドレスを発行せず、全員が部門ごとの共通メールアドレスを利用することだろう。クライアントとのメールでのやりとりの内容を、社員全員が把握している。
また、全社員の業務日報も、社内システム上に公開され、全社員が他の社員の日報を読むことができる。
さらに、オンラインで参加するリモートメンバーも含めた「ランチミーティング」や、部門をまたいだ参加者が集まって自由な話をする「シャッフルミーティング」などを定期的に開催し、相互の業務に対する理解を促進している。
「極論すれば、うちには『スタープレイヤー』はいらないのです。全員の力で、チームとしての成果を上げていくことが理想です。」

社内ミーティング風景
社内ミーティング風景

属人化防止はメリット

業務の属人化防止は、会社にも社員にもメリットをもたらす。
会社にとっては、何らかの事情で特定の社員が不在になっても、業務が停止してしまうリスクが防げる。
社員にとっては有給休暇をいつでも遠慮なく取得することができるし、家族が病気になったなどの理由による遅刻や早退もしやすい。実際、社員全員が出勤している日のほうが少ないというが、それで業務が滞ることはないという。リモート勤務も早期から採り入れられて、すべての社員が、自分らしい働き方を実現できている。
例えば、小さなお子さんや介護が必要な家族がいる、あるいは、本人に病気や障害などがあるなど、不規則な勤務形態を取らざるをえない事情を抱えた人でも、採用しやすくなる。
実際、精神障害を持つ人も働いているが、すでに8年以上勤務し、貴重な戦力となっており、ダイバーシティは自然に実現されている。

ブレない軸があるからこそ、チャレンジできる組織

AIの急速な普及により、今後、翻訳業務や原稿作成業務の多くで、人間がすべき業務は縮小すると言われている。その動向をもちろん注意深く見ている。

「理念として掲げている『愛ある経営』は、言い換えると、お客様が困っていることや必要としていることをお客様の身になって考え、サービスを提供することです。いまは、そのサービスの中心が翻訳ですが、本質から外れなければ翻訳以外のサービスでもいいのです。その可能性はいくらでもあると思います。」

実際、同社では2年前に、社員の発案によって出版事業が起ち上がった。現在は、10点以上の書籍を刊行して、新規事業を生み出す風土が出来ている。

取材協力:椎原よしき
※本記事は、2024年7月時点の情報です。