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中小企業人的資本経営支援事業 事例紹介

補聴器のイメージを変え、メガネのような身近なものにするのが人生の使命
~「従業員の幸せ」に向き合う、社員が主役の理念経営〜

株式会社リードビジョン

代表取締役 清水 大輔 氏
代表取締役 清水 大輔 氏

<会社概要>

  • 設立:2002年
  • 所在地:東京都品川区上大崎2丁目14-9 目黒東誠ビル7F
  • 資本金:5,000万円
  • 従業員数:58名
  • 事業紹介:
    補聴器や聴覚関連機器を扱う、小型補聴器専門店「ヒヤリングストア」を展開している。首都圏を中心に14店舗(フランチャイズ2店舗含む)を運営し、経験豊富なスタッフによるカウンセリング・フィッティング・アフターサポートまで一貫して対応。補聴器を通じて、日々の快適なコミュニケーションを支え、よりアクティブな人生を送れるようサポートしている。
  • URL:https://www.hearing-store.com/別タブで開く
代表取締役 清水 大輔 氏
代表取締役 清水 大輔 氏

代表取締役の清水大輔氏にお話を伺いました

株式会社リードビジョンの社名の由来は、LEAD(導く)、VISION(自己実現)を合わせた造語で2つの意味があるという。一つは「お客様への責任」として、顧客の自己実現を導くこと。もう一つは「業界における責任」として、ビジョン実現のため業界を先導する、という思いが込められている。

ビジョン/企業理念


全従業員の物心両面の幸福を追求し、
一、補聴器のイメージをより自然なものにする。
一、快適なコミュニケーションで人々の幸せに貢献する。

創業の背景には、清水社長自身が補聴器ユーザーであることが関係している。清水社長は、小学5年生の頃に耳の病気を発症し、難聴に。再発性の病気だったためその後、何度も手術を繰り返すが聴力の低下は続き、27歳の時に補聴器ユーザーとなった。
同社は清水社長の経験を通じ、「補聴器を必要とする人が自然に使える環境をつくりたい」という思いから生まれた企業だ。その理由は、補聴器の普及率。メガネは「ファッションアイテム」のイメージがあるのに、補聴器は「つけるのが恥ずかしい」というイメージが根強いものとなっている。補聴器への抵抗感は未だ高く、補聴器の普及率が約15%(※)であることにも、その傾向が表れている。
「補聴器ユーザーだからこそ、補聴器のイメージ改善に人生を尽くそう」と決意し、31歳のとき、清水社長の生まれ故郷である富山から家族で上京。「補聴器をメガネのように、当たり前のツールにしたい」という思いを元に、装着しても目立ちにくい小型補聴器専門店として、2013年、目黒に「ヒヤリングストア」1号店をオープンした。
※一般社団法人日本補聴器工業会JapanTrak 2022 調査報告より

主力商品である小型補聴器
主力商品である小型補聴器

「従業員の幸せ」という発想から生まれた企業理念

企業理念を実現させるには、従業員がこの会社で良かった、幸せだと思えなければ顧客に最高のサービスを提供することはできない。そう考えた清水社長は、「全従業員の物心両面の幸福の追求」を企業理念の冒頭に掲げ、人材育成や社内コミュニケーション、社会貢献に注力している。そうした取り組みが評価され、2023年に「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞 審査委員会特別賞を受賞した。
企業理念を掲げ、人材育成に注力している現在の姿からは想像しにくいが、以前の同社は人材定着と組織運営に大きな課題を抱えていた。創業当初は中途採用が中心で、同業出身者から全く異業種の未経験者まで、多様なバックグラウンドを持つ人材が集まっていた。
明確なルールが無かったことから前職で身につけた価値観や仕事の進め方がそのまま持ち込まれ、社員の判断基準はバラバラ。「朝礼や会議では社長と社員の衝突や口論が絶えなかった」と清水社長は振り返る。人が入っては辞めていく状態が続き、社内の空気はギスギスしたものになっていった。
清水社長自身も「なぜ自分の考えが理解されないのか」と悩み、原因を周囲に求めてしまう時期があったという。補聴器のイメージを変えるという志を持って富山から上京・出店したものの、組織は思うように機能しない。事業の社会的意義と、現場で起きている現実との間に大きなギャップが生じていたのである。
そんな清水社長にとって、ひいては同社にとって大きな転機となったのは、京セラ創業者の稲盛和夫氏が主催していた、経営者向け勉強会への参加だ。そこでの学びを受け、「どれほど立派な企業理念があっても、そこで働く従業員が幸せだと思えなければ実現しない」という考えに行きつく。
「補聴器のイメージをより自然なものにする」「快適なコミュニケーションを提供し、人々の幸せに貢献する」といった創業時からの企業理念に加え、「全従業員の物心両面の幸福を追求する」という一文が冒頭に加えられた。
また、同社のフィロソフィーが生まれたのもこの頃である。フィロソフィーとは、企業の目標達成に向けて、従業員一人ひとりが守るべき行動指標や考え方が記されたものだ。「経営の心」「より良い仕事をする」「困難に打ち勝つ」など9つの章から成る、全74項目の「リードビジョンフィロソフィー」は、京セラフィロソフィーを参考につくられた。

リードビジョンフィロソフィー -私たちの経営哲学(74項目)-

第1章 経営の心
第2章 心を高める
第3章 より良い仕事をする
第4章 正しい判断をする
第5章 新しいことを成し遂げる
第6章 困難に打ち勝つ
第7章 人生を考える
第8章 リードビジョンでは一人ひとりが経営者
第9章 日々の仕事を進めるにあたって
清水社長と店舗スタッフ
清水社長と店舗スタッフ

企業理念を浸透させるための仕組みづくり

企業理念を浸透させるため、清水社長が最初に取り組んだのが、稲盛氏の著書の輪読会だ。「働くことの目的や意義を学んでほしい」という思いから、全員が揃う朝礼で実施した。ところが、一部の社員からは反発を受け、退職者が出た。
その一方で、清水社長の取り組みに共感する社員もいた。「時間をかけて学ぶべきでは」という声に応えるため、勉強会のために定休日を1日増やし、全員が学びに向き合える時間を設けた。その甲斐もあり、回を重ねるごとに現場の空気がポジティブなものになっていったという。会社を去った社員の中には、売上に大きく貢献していた者も含まれていたが、社員一丸となって努力したことで、前年を超える売上を記録した。
定休日を利用した勉強会は現在も継続している。日中はしっかりと学び、17時頃からは食事会のスタートだ。席順は目的によってあらかじめ決めてあり、店舗を横断した親睦や、フィロソフィーに関する議論を通じ、組織全体の一体感を高めている。
勉強会の実施と同時に、同社では採用と育成のあり方も大きく見直された。「フィロソフィーや企業理念を浸透させたいなら、大変でも新卒採用をがんばった方が良い」という先輩経営者からのアドバイスを参考に、2016年から新卒採用をスタート。その後、同社は業績が厳しい年であっても新卒採用を途切れさせることなく続けてきた。
新卒社員に対しては、入社後2年間、月2回・各2時間の社長勉強会を実施し、働く目的や同社のフィロソフィーについて集中的に学ぶ機会を提供。中途採用者向けにも別枠で勉強会を設け、入社時期にかかわらず価値観を共有している。
企業理念の浸透を目指す取り組みは、人事制度や評価制度とも連動している。等級ごとに重点的に身につけるべきフィロソフィーを定め、評価表の中に組み込むことで、「どのような行動が評価されるのか」を明確にした。一般社員や若手の段階ではフィロソフィーの実践比重を高くし、店長以上の役職では業績を重視するなど、役割に応じたバランスを設計しているのも同社の特徴だ。

リードビジョンフィロソフィー勉強会の様子
リードビジョンフィロソフィー勉強会の様子
リードビジョンフィロソフィー勉強会の様子

補聴器業界の未来に向けて

同社の取り組みは、創業当時の課題であった離職率の改善につながっている。新卒第一期生は全員残っており、近年は転居などやむをえない事情以外で離職する人はほとんどいないという。新卒の志望動機の1位が、「従業員同士の仲が良さそうだから」というのも納得の結果だ。
今後について清水社長は、補聴器事業そのものの拡大だけでなく、業界全体の社会的認知向上にも貢献していきたいと語る。2025年は東京2025デフリンピックが開催された。これを契機に、難聴や補聴器に対する理解が進むことが期待される一方で、「一過性の盛り上がりで終わらせないためには、地道な普及啓発活動を続けることが重要」との認識を示している。同社としても、メガネのように補聴器をつけることがあたりまえの社会の実現を目指していく考えである。
同時に、「この会社で働いてよかった」と従業員が心から思える組織づくりを、今後も追求していくとしている。最終的な目標は、従業員が自らの家族に対しても「うちは良い会社だから、一緒に働いてみないか」と勧めたくなるような会社にすることだと、清水社長は語る。

「人への投資」によって実現した専門性と信頼

同社における理念経営の取り組みは、企業理念の言語化と制度設計のみならず、それらを「継続する意志」によって組織文化として根づかせた点に特徴がある。補聴器という専門性の高い領域において、従業員一人ひとりが専門職として誇りを持ち、利用者の生活に寄り添う姿勢を維持できるのは、理念の浸透と人材育成に時間を投資し続けた姿勢があってこそだ、という点がリードビジョンから学ぶことができる。

取材協力:米澤 智子(ワンパーパス株式会社)
※本記事は、2025年11月時点の情報です。