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中小企業人的資本経営支援事業 事例紹介

近江商人がルーツの400年企業が実践する「任せる」人材育成

メルクロス株式会社

代表取締役社長 西川 哲史 氏
代表取締役社長 西川 哲史 氏

<会社概要>

  • 設立:1941年
  • 所在地:東京都中央区日本橋3-3-9
  • 資本金:1億円
  • 従業員数:112名
  • 事業紹介:
    1585年創業、440年の歴史を持つ。近江商人をルーツに持ち、時代の変化に合わせて事業領域を拡大してきた。現在は砂糖などの食品原材料を主力に、ホームライフ、インテリアなど「豊かな暮らしのためのビジネスコーディネーター」として7事業を展開する「商社」2025年には創業の地・近江八幡で旧本社の一般公開を行う440周年記念イベントを開催するなど、歴史や文化を地域に知ってもらうことにも力を入れている。
  • URL:http://www.mercros.co.jp/別タブで開く
代表取締役社長 西川 哲史 氏
代表取締役社長 西川 哲史 氏

代表取締役社長の西川哲史氏にお話を伺いました

同社の前身である西川庄六商店は、安土桃山時代の1585年に現在の滋賀県近江八幡市で畳表や蚊帳の行商から商いを始めた。のれんに掲げられた屋号紋は「大|(ぼうだい)」。1700年代には当時貴重品だった琉球黒糖の取り扱いを始め、砂糖の需要拡大の波にのるとともに、薩摩藩とのつながりを強めながら事業を拡大。400年以上の時代を繋いだ現代も常に時代の変化を捉えながら商材を変化させ、食品、ホームライフ、インテリアといった7つの事業でビジネスを展開している。
17代目となる西川社長は、2016年に入社し、営業から、取締役を経て2024年に社長となった。
西川社長が重視するのは「任せる」ことによる人材育成である。若手社員に裁量権を持たせ、失敗も含めて経験させる。その背景には、昭和の時代から「少数精鋭主義」の考え方が記録として残っていたのをヒントにしたという。

屋号「大|(ぼうだい)」が刻まれた瓦
屋号「大|(ぼうだい)」が刻まれた瓦
砂糖を中心とした食品商材は江戸時代から続く事業
砂糖を中心とした食品商材は江戸時代から続く事業

近江商人のDNAを「共通言語」にしたブランドブック

現在の社名である「メルクロス」は、商業の神メルクリウスと、商社としてさまざまなものを“ つなぐ(クロス)”という意味が込められた。社員公募によって決まったこの社名には、社員の発想を尊重する風土が表れている。
そんな同社が人材育成の軸としているのが、近江商人から受け継いだ「先義後利栄(義を先にし、利を後にすれば栄える)」「好富施其徳義(富を好しとし、その徳を施せ)」と、2018年に作成したコーポレートブランドブックだ。先代社長リードのもと、各部署から選抜した約10名のプロジェクトチームが2年をかけ、社員へのヒアリングを重ねながら制作した。
この取り組みによって、自分たちが取引先や、社会に提供してきた価値を言語化でき、家訓を現代の言葉にすることで行動指針ができた。そこには「ビジネスにおけるあらゆる機会や場や人をつなげる架け橋となって、お客様の成長に貢献する存在になる」という事業価値を実現するための方法が、以下の4つに集約されている。

  1. 信頼の架け橋:安心、安全、品質をお届けする
  2. ビジネスチャンスの架け橋:企業と企業をつなげるプラットフォームを提供する
  3. 新しいマーケットの架け橋:消費者と企業をつなげる企画開発提案
  4. やりたいこと実現への架け橋:企業をあらゆるソリューションでつなげる

時代に合わせて表現は変わっても、創業以来400年以上、同社が大切にしてきた考え方は一貫している。もともと顧客向けの営業資料として制作したコーポレートブランドブックは、現在では新入社員研修用のテキストとして、また採用活動にも活用の幅を広げている。

コーポレートブランドブックの一部
コーポレートブランドブックの一部

若手主導で採用や新人育成を推進

多くの中小企業と同じく、同社でも採用活動には苦戦している。10年前は1回の説明会で50名ほど集まったが、今はそうはいかないという。
そんな中、同社は採用に置いて「量」ではなく「質」を重視している。採用前の会社説明会では前述したコーポレートブランドブックを活用し、経営理念を丁寧に伝えることで、理念に共感する人材との出会いを大切にしている。
さらに注目すべきは、採用チームが20代・30代の若手社員で構成されている点だ。OJTや研修で経営理念を伝える機会を設けているため、理念が若手にも深く浸透しており、「会社の顔」である採用活動を安心して任せられるという。
また同社では、新人育成にチューターとメンターという2人のサポート役を導入している。チューターは部署の先輩として実務を指導し、別部署の先輩が担当するメンターは仕事以外の相談に応じる仕組みだ。メンターは新人が相談しやすいことを重視し、年齢の近いメンバーから人事部の若手社員が候補を推薦。最終的に社長が承認する形で任命されるという。

失敗は学びと成長の機会〜「任せる」文化と声掛けが自律性を育む~

こうして同社の社員が自律的に動けるのは、全社に根付く「任せる」文化の存在が大きい。社員一人ひとりに裁量権を持たせ、やり方は本人に任せる。そこには「失敗も含めて経験してもらうことが学びと成長につながる」という、西川社長が大切にする「見守る」姿勢がある。
「一番大事なのは、上の人が下の人の面倒を見ることを言葉でしっかり伝えること。長く続く企業は多くがボトムアップ型ですから、社員の行動指針をはっきりさせることが私の役割だと思っています」と西川社長は語る。
案件を受注できそうな場面では、「みんなの知識を使っても良いから、自分1人で決めてきなよ!」と声をかけて背中を押す。チャット、対面、電話、伝わればどんな方法でも構わない。「頑張ろう!」「発注につなげよう!」こうした声かけの積み重ねが社員に安心感を与え、自律性を育んでいるのだろう。
しかし、任せるだけでその後を追わないわけではもちろんない。同社では、裁量権を持たせてやり方は本人に任せるが、成果はしっかりと数字で確認する。そうした自由と責任のバランスがあるからこそ、社員は裁量を発揮できるのだ。
さらに、同社の評価制度はいたってシンプル。営業中心の会社ということもあり、基本は成果主義で、目標達成度が評価に直結する。一方で期末賞与は全員一律で、昇給のタイミングで差をつけている。賞与には、西川社長直筆のメッセージが添えられるのも特徴だ。
「ヒトやモノをつなげる我々の商売では、関係者同士で意見が対立することがあります。その際、自分が心穏やかに、しなやかに振る舞うことで、物事がすんなり収まることが多い。これが大切だと実感しています」

社員の打合せ風景
社員の打合せ風景

AI時代に必要なのは「人間力」

食品原材料の調達コストが上昇し、市場環境が厳しさを増す中、同社は新たな事業展開を見据えた過渡期にある。単純な実務がどんどんAIに置き換わる時代だからこそ、西川社長は「人間力」を伸ばすことが重要だと語った。その具体的な要素として、次の3つを挙げた。

  1. 好奇心を持つこと
  2. ピンチを面白がれること
  3. 文化が違う国とも、互いのニーズをまとめ上げられること

何事にも好奇心を持ち、ピンチの状況でもポジティブに捉えられること、さらに文化や考え方の異なる相手とも、互いの立場を理解しながら合意形成ができる力。これこそが、変化の激しい時代における課題解決に欠かせない人間力だ。
創業440年を超える歴史の中で培ってきた柔軟な行動力は、これからも同社の未来を支え続けるだろう。

工芸品商材のイメージ
工芸品商材のイメージ

社員一人ひとりの挑戦が未来を切り拓く

同社の創業家の家訓である「先義後利 好富施其徳義」は、「先ずお客様の課題を解決を優先すれば、儲かり栄え、自分達だけではなく関りを持つ人達も潤うような仕組みを作りましょう」ということを意味する。商社業で一番大切なのは人脈である。同社では社員一人ひとりが人間力を磨き、ヒトやモノをつなぎ、新たなソリューション創出の場を作る架け橋になることを目指して、挑戦を続けていた。社員一人ひとりが裁量を持って挑戦し、AI時代にも通用する「人間力」を磨く姿勢が、メルクロスの持続的成長を支えているのだろう。今後も、社員の挑戦と創意工夫から生まれる新たな価値に注目していきたい。

取材協力:米澤 智子(ワンパーパス株式会社)
※本記事は、2025年10月時点の情報です。