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中小企業人的資本経営支援事業 事例紹介

社員を経営の当事者に~数字と対話で進める黒字化への道~

株式会社シンシ

代表取締役社長 髙島 健二 氏
代表取締役社長 髙島 健二 氏

<会社概要>

  • 設立:1952年
  • 所在地:東京都大田区下丸子2‑17‑4
  • 資本金:3,000万円
  • 従業員数:62名
  • 事業紹介:
    創業者が戦時中に軍用機の風防ガラス製作に携わる中でアクリル樹脂と出会い、アクリル樹脂を中心とした樹脂成型加工業として創業。以来、プラスチック板加工のパイオニアとして高い技術力を基盤に事業を展開している。特に水族館の大型アクリル水槽では国内シェア約6割を誇り、全国の著名施設に製品を納入。成形から加工、検査、梱包、納品まで自社で完結する一貫生産体制により、リードタイム短縮とコスト削減を実現している。
  • URL:https://www.shinshi-kk.com/別タブで開く
代表取締役社長 髙島 健二 氏
代表取締役社長 髙島 健二 氏

代表取締役社長の髙島健二氏、取締役の寺末美央氏、総務部の石丸花歩氏にお話を伺いました

株式会社シンシは、70年以上の歴史を持つアクリル樹脂・プラスチック加工の老舗企業だ。同社の経営理念は「全社員のより豊かで安定した生活を追求するとともに、法を遵守しフェアな企業活動を通じ、新技術・開発に努め、お客様の要望に応え魅力ある製品・サービスを提供し、長期安定的な成長・拡大を目指す」だ。
五代目である髙島社長は、営業部長として2021年に入社。同社の当時の状況を、「新型コロナウイルス終息後もウクライナ情勢による円安とエネルギー高騰が追い打ちをかけ、収益率が厳しい状況が続いていた」と振り返る。高い技術力と実績を積み上げたものの、それが足かせとなり、時代の変化に対応できない企業風土が形成されつつあったことも課題だったという。
このままでは会社の存続が危ぶまれるという危機感から、髙島社長を中心として、同社は「人的資本経営」の側面から改革を推し進めてきた。

日本最大級の球体水槽「AQUA TERRA」(©átoa)
日本最大級の球体水槽「AQUA TERRA」(©átoa)

「経営人財育成スクールNEXT」との出会い

改革の転機となったのは、(公財)東京都中小企業振興公社(以下、「公社」)が主催する「経営人財育成スクールNEXT(以下、「NEXT」)」への参加だ。同社で総務を担当する寺末取締役は、以前から公社の支援により、賃金テーブルや評価制度の見直しに取り組んできた。
しかし執行役員就任後、新たな課題に直面する。寺末取締役はこれまで、営業事務や生産管理などの経験はあるものの、髙島社長をはじめとした経営者と同じテーブルで会話をする際に、自身の知識不足を痛感する場面が増えたという。「経営幹部として人材育成にどう取り組むべきか学びたい」という思いを受け、髙島社長に参加を直談判。髙島社長は寺末取締役を含む執行役員2名をNEXTの組織マネジメントコースに送り出した。同コースは、プロジェクト推進に必要なリーダーシップや組織を巻き込むスキルを学び、実際にプロジェクトを実行しながら組織力の向上を目指すものだ。

学びを実践に〜若手社員向け経営勉強会を立ち上げ

「NEXTでは学んだことを実践し、社長に報告し、また次に進むことができる。このサイクルが非常に良かった」と寺末取締役は振り返る。同社はベテラン社員の高齢化による技術継承や離職と言った組織課題も顕在化していたため、若手社員の育成が急務になっていた。
そこで、寺末取締役はNEXTで学んだことを生かし、営業・製造部門の係長や主任クラスを対象に、管理職と同じ視点で経営を考える勉強会「次世代プロジェクト」を立ち上げ、営業利益や部門別採算、製品別の赤字状況などの経営数字を具体的に開示することに挑戦した。
受注生産が多い同社では従来受け身的な体質があったが、世の中のスピードに対応するには能動的な取り組みが不可欠だ。最初は見慣れない数字に戸惑う社員の声もあったが、「どの部門がいくら赤字か、どの製品が何%赤字か、それを改善すれば何百万円の黒字が出るか」と具体的な数字に加えてプラスのイメージを伝えることで理解を促した。
髙島社長は常日頃から「数字で語れ」という姿勢を徹底しており、NEXTでの学びを通じて寺末取締役自身もその意識を高め、社内全体に「数字で考える文化」が徐々に根付きつつあるという。

若手プロジェクトが製造・営業一貫で収益改善を実現

先述の「次世代プロジェクト」では、営業と製造の両部門からメンバーを集め、不採算の得意先や製品を洗い出し、何ができるかを定期的に話し合った。すると、「仕事のやり方を変えて、一人でできるようにした」「作り方を工夫してロスを減らした」といった小さな変化が次々と生まれたのだ。営業部門による粘り強い値上げ交渉も功を奏して、部門間の取り組みが一気に採算改善につながった。
結果、同社は2024年には黒字化を達成。2025年も黒字化を見込んでいる。「価格改定と生産効率向上により、約5~6%の利益向上を実現できました。営業利益まで具体的な数字を社員に開示したことで、一人ひとりにコスト意識が芽生えたことが大きかったですね」と、寺末取締役は成果を振り返る。

北関東工場の加工風景
北関東工場の加工風景

若手育成の仕組み化と新卒採用がもたらした効果

次に取り組んだのは人材育成の仕組み化だ。寺末取締役は次世代プロジェクトのメンバーと協力して、若手を早く一人前に育てる「5年計画」というロードマップを策定。年次ごとに習得すべきスキルを細かく設定し、評価制度と連動させることで、評価のためだけの制度ではなく、戦力として会社を強くする仕組みとした。以前は一人前になるまで10年かかる部署もあり、スキルマップも単なる羅列にとどまっていたが、難易度や取得年数を整理し、体系化を実現した。
この仕組みが整ったことで、採用面でも効果が表れた。新卒採用を受け入れている近隣高校の教師たちから、「同社のキャリアパスが見えやすくなり、安心して生徒を送り出せる」と評価を受けたのだ。また新卒採用を毎年続けて実施してほしいという学校からの要望を受け、「技術継承の観点からも、新卒採用を絶対に毎年行うよう社長にお願いし、快諾してもらえました」と寺末取締役。「総務だけが頑張っていても人材育成は進みません。社長の後押しがあってこそ、組織全体で育成が推進できました」と振り返る。
さらに毎年新卒が入社することで、先輩社員の意識にも大きな変化が起きた。「どうやって仕事を教えようか」「気持ちよく働いてもらえるよう、職場環境を整えよう」といった声があがり、写真を撮ってマニュアルを作成するなど、新人を迎え入れるための活動が自然に広がったのだ。
人に教える過程で自らも学び直し、曖昧だった知識を確認・整理する。このプロセスが習慣化することで、記録が組織の財産として蓄積されるようになり、会社全体の育成力向上にもつながった。

若手主体の採用活動でリアルな魅力を伝える

公社主催のワークショップによる他社との交流も貴重な学びの場だった。特に「入社時点でのミスマッチを減らす採用」に取り組む企業の事例は印象的で、寺末取締役は「入社後の離職を減らすのではなく、入口でマッチする人材をどう採用するかに注力している企業の取り組みは、とても参考になりました」と述べた。
この学びを踏まえ、同社では学校の教師と定期的に会って会社の実態を正確に伝えるとともに、若手社員が採用説明会に参加し、リアルな働き方を高校生に伝える取り組みを進めている。入社1年目にして、説明会運営の中心的な役割を担うのが、総務部の石丸花歩氏だ。
「高校生向けの説明会では、当社の仕事内容や働くうえでの魅力を生徒さんにどうわかりやすく伝えるか、という点を工夫しています」と石丸氏は述べる。現場の仕事は、製造部の若手社員が自ら語る方法を取っている。
さらに、救急車のランプカバーなど高校生でも同社の製品を身近に感じられるような製品を会場に持ち込む。「プラスチック製造業」と聞くだけではなかなかイメージが湧かなくても、高校生が知っている製品を見て、手に取ってもらうことで興味を持ってもらえるという。「『こんなにすごいものを作ってるんだ』と生徒さんにおっしゃっていただけると、縁の下の力持ちとして社会に貢献している当社の魅力が伝わり、嬉しいですね」と石丸氏は笑顔で話した。
説明会後のアンケートでは、「社員さん同士のやりとりを見て、楽しそうな会社だと思った」という回答が多く寄せられる。こうして若手を採用活動の前面に立たせることで、社員の成長と採用の効果を同時に高めている。

高校での進路説明会の様子
高校での進路説明会の様子

「主体的に考える」企業風土改革への挑戦は続く

髙島社長は、同社の最大の課題は、70年以上続いた企業風土を変えることだと強調する。「創業者が業界の発展に貢献して仕事が増えた成功体験が、逆に変革を阻む要因になってしまった。ここで企業風土を変えない限り、成長拡大はありません。中長期な視点で社員を重視した改革を進めていきたい」と言葉に力を込めた。
そのために重視しているのが、経営者自らが現場に入ること。「社長室に座っているのではなく、現場に降りて社員と語り、問題課題を共有し、一緒に考える。現場主義が大事」だという。
10年後の姿について尋ねると、髙島社長は力強く答えた。「新しい商品を自らメーカー機能を兼ね備えた会社になり、収益力が上がる企業になっていると想像しています。失敗を恐れず、社員が同じ目標に向かって進む会社になっていると期待しているし、そこへ向かっていきたいと考えています」

写真左より:総務部 石丸 氏、髙島社長、寺末取締役
写真左より:総務部 石丸 氏、髙島社長、寺末取締役

数字と対話が生む、社員主体の経営改革

同社が行ってきた施策に共通するのは、社員一人ひとりを経営の当事者として巻き込み、考える機会を提供し続けたことだ。「中小企業はなかなか自社で人材を育てられない。だからこそ、外部セミナーに参加して、改善改革を進めていくことが大事だと思っています」と髙島社長は述べた。これまでの成功体験に囚われず、収益改善、技術継承、人材定着、生産性向上といった多くの中小企業が直面する課題に着実に対応している姿は、他の中小企業にも学びになる面が多いのではないだろうか。

取材協力:米澤 智子(ワンパーパス株式会社)
※本記事は、2025年11月時点の情報です。