東京都のゼロエミッション(連載 第1回)
2024/08/01
はじめに:
地球温暖化、異常気象に端を発し、GHG(温室効果ガス:CO2が主体)の削減が重要かつ必須となり、その潮流が急速に拡大しています。世界的にはEUが率先して取り組んでおり、域外からは新たな輸出障壁にもなりつつあります。
日本もカーボンニュートラル(脱炭素)として、各種の脱炭素の方針、目標、施策等を公表し、経済活動や企業の経営、事業活動に大きな影響を与えており、中小企業としても他人事でなく、その対応が重要かつ避けて通れない状況になりつつあります。
本コラムでは、脱炭素の大きな潮流や動向を背景に、東京都が取り組んでいる施策や助成事業、特に中小企業の脱炭素施策、中小企業の抱える脱炭素テーマ、その対応や支援等について、主要なテーマを中心に連載の形態で発信していく予定です。
1.国の施策と状況
基本方針として、日本は2030年度のGHG(温室効果ガス)を46%削減(2013年度比)、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。実現には産業界・消費者・政府など国民各層が取り組むことが必要です。これを受けて、2023年にはGX(グリーントランスフォーメーション)の各種戦略や施策等が公表されました。
2017年度のGHG排出状況を見ると、日本全体で11億トン以上であり、中小企業が19%程度を占めています。これは直接排出分ですが、サプライチェーンや社会への影響を考えると中小企業の脱炭素も重要です。
(GHGは2021年度に11.7億トンと増加)

出所:経済産業省関東経済産業局「カーボンニュートラルと地域企業の対応<事業環境の変化と取組の方向性>」(令和6年5月)
https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/ene_koho/ondanka/data/kantocn_guidance.pdf
2.東京都の施策や取組、助成制度
東京都は、脱炭素の動向や重要性を鑑み、新たに2050年までに世界のCO2排出実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」の実現を目指すため、2019年12月に「ゼロエミッション東京戦略」を策定・公表し、行動の加速を後押しするマイルストーンとして、2030年までに温室効果ガス排出量を半減する「カーボンハーフ」を表明しました。
「ゼロエミッション東京戦略」では戦略の柱として、①エネルギー(再エネ、水素)、②都市インフラ(ゼロエミッションビル)、③都市インフラ(ZEV普及)、④資源・産業(3R,プラスチック・食品ロス対策等)、⑤気候変動対応(適応策)の5つのセクター及びゼロエミッションへの共感と協働を掲げています。また2030年に向けた主要目標として、ⅰ)都内温室効果ガス排出量50%削減、ⅱ)都内エネルギー消費量50%削減、再生可能エネルギーによる電力利用割合50%程度、としています。
東京都の部門別GHG排出量は、右のような構成と変化となっています。都内ではエネルギー多消費型産業は少ないですが、業務や運輸部門でも中小企業が関連し、家庭部門でも商品やサービス等により影響を及ぼしています。

参考:東京都環境局「ゼロエミッション東京戦略」
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/policy_others/zeroemission_tokyo/strategy
出所:東京都環境局「都内の最終エネルギー消費及び温室効果ガス排出量(2021年度速報値)」
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kankyo/zenpan-emissions_tokyo-files-2021sokuhou
東京都の施策と併せて、東京都中小企業振興公社では、中小企業の脱炭素に関する様々な施策や助成制度を展開していますが、特に中小企業向けの経営や事業面からサポートする「ゼロエミッション実現に向けた経営推進事業」を2022年度より立上げ、2024年度からは支援メニューをさらに充実しています。ここでは以下のようなスキームで、中小企業の脱炭素に関する相談から企業診断、ハンズオン支援と展開し、ゼロエミッションの戦略構想、ロードマップ策定、事業計画策定、助成制度活用、実行支援等、幅広く対応しています。
支援対象をゼロエミッションとしていますが、省エネルギー及び省資源等を経営や事業活動と併せて考慮した様々な脱炭素支援を目指しています。本事業では豊富な経験や知見を有する多数の専任マネージャーや各種専門家を揃えて、多様なゼロエミッションのニーズに対応しています。

3.中小企業の状況と支援
2016年の統計では東京都の企業数は41万社以上ですが、その98.8%(※1)は中小企業です。中小企業としても脱炭素の動向や重要性は認識していますが、企業として本格的な計画や取組みはまだこれからの状況ともいえます。
ただ、市場や顧客及び大手企業からのニーズやプレッシャーは高まりつつあり、中小企業の経営や事業に影響を及ぼし始めています。脱炭素の対応は先手を打って早めの対応をすることが、結果的に経営や事業への影響を少なくし、新たな事業展開や競争力向上、収益改善を含め新たな成長の機会にもなります。
東京商工会議所の2023年12月の「脱炭素・カーボンニュートラルへ向けた取り組みについて」の調査を見ると、中小企業の考え方や取り組みの状況は以下のように考えられます。
昨今の電気料金や燃料の高騰から、エネルギーコストが喫緊の課題である。脱炭素への認識や期待もあるが、現状ではどのような取り組みが自社に良いか分からない状況も少なくない。CO2削減については、約60%が手付かずであり具体的な活動はこれからの状況です。(※2)
参考:(※1)東京都産業労働局「東京の産業と雇用就業2023」
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/toukei/5c91b50d56efac18e04208cf28dc5c6d.pdf
参考:(※2)
出所:東京商工会議所 東商けいきょう 2023年10~12月期 集計結果
付帯資料 脱炭素・カーボンニュートラルへ向けた取り組みについて
https://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=1201759
脱炭素経営や事業に取組むことで、中小企業として以下のような施策とメリットが考えられます。
① 顧客や市場への訴求・PR
② 新たな製品開発と事業展開
③ 省エネ、エネルギーコスト削減
④ 省資源、リサイクル、廃棄物削減
⑤ 生産性向上、風土醸成、社会貢献
⑥ 資金調達、人材確保、連携先開拓

出所:東京商工会議所 東商けいきょう 2023年10~12月期 集計結果
付帯資料 脱炭素・カーボンニュートラルへ向けた取り組みについて
https://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=1201759
ただ脱炭素を単なる活動と捉えて自社の経営や事業から遊離すると、「コストや労力」が増えることになり、収益や生産性にも影響し従業員の賛同や理解も得られなくなります。あくまでも、自社及び関係先の経営や事業に取り込んで、社内一丸となって取り組み、優先順位や効果の検討を行い、できることや効果大のテーマから取り組むことも重要です。
本コラムでは脱炭素の施策や助成、動向等を注視しながら、商流やビジネスモデルとゼロエミテーマ、脱炭素の算定について、省エネ診断とコスト削減、再エネ(太陽光等)導入、輸送に関するゼロエミ、中小企業の事業活動とゼロエミ事例、循環型構造、省資源・3R、サーキュラーエコノミー、等について適宜紹介していきます。
【ゼロエミッション経営推進支援事務局より】
本コラムに掲載の「ゼロエミッション実現に向けた経営推進事業」では、省エネや脱炭素経営を目指す都内中小企業を支援しております。詳細は下記リンクをご覧ください。
執筆者
木島研二(きじまけんじ)
ゼロエミッション支援事業 統括マネージャー
脱炭素関連では、技術者としてパワー半導体、電力変換機器、省エネ鉄道装置(新幹線のぞみ用等)の技術開発や製品化、診断士として太陽光・メガソーラー、小型風力・洋上風力、バイオマス、原発解体、石炭・火力発電、自動車(EV、軽量化等)、新素材や環境関連テーマの調査・診断・評価、中小企業の診断・支援等を行ってきた。
(中小企業診断士、知財管理技能士、省エネエキスパート)