事例集

●事例05

NFTと虹彩アート活用のバーチャル墓地
第2回東京シニアビジネスグランプリ ファイナリスト
 
株式会社víz PRiZMA
代表取締役 柿田京子さん

代表者インタビュー

事業内容と特徴を教えてください。
víz PRiZMAでは、エンディング領域のサービスを提供しています。人生の後半に差し掛かると、終活から始まり、お墓、お葬式、遺品整理など、様々な悩みや問題に直面します。「自分の人生の終わりについて考えるなんて…」と、何となく暗い気分になってしまいがちですが、私たちが提供するのはエンディングを明るくするサービスです。
事業内容は大きく分けて3つあります。
1つ目は「虹彩アート」のワークショップです。アーティストとともに、ご自身の人生を色で表現した絵に虹彩を掛け合わせ、デジタルアートを作成します。虹彩は瞳のドーナツ状の部分で、刻まれている模様が一人ひとり違うため、唯一無二のアート作品になるのが特徴です。
2つ目は「バーチャル空間」の設置です。インターネット上にあるプライベート空間で、作品を展示するギャラリーとデータを保管できるタイムカプセルがあります。ワークショップで創ったアート作品や遺影、遺品などをデータ化して収蔵し、いつでも、どこからでもアクセスできる祈りの場としました。データはすべてブロックチェーンという技術で守りますので、改ざんや劣化もなく未来に託すことができます。
3つ目は「コミュニティ」活動です。これは、生きている今の時間を芸術とともに豊かに過ごしていただくための、会員様同士の交流やネットワーキングの場です。こちらはまだ完全に立ち上がってはいませんが、私たちにはアーティストのネットワークがありますので、美術や音楽など芸術の領域を中心とした展示、セミナー、ワークショップなどを開催し、交流の場にしたいと考えています。
起業のエピソードや、現在に至る経緯をお話ください。
起業というテーマは、20代の頃から持ち続けていました。というのも大学時代に留学したアメリカでは、周囲の学生がどんどん起業していたからです。「アメリカって、すごい国だな」と横目で見ていましたが、実は15年ほど前、起業を考えたこともありました。もともと芸術に興味があったのでアート系で起業しようと思いましたが、日本ではアートに価値を感じてお金を払う方がまだ非常に少ない時代でした。私はフルタイムの正社員をしながら、幼い3人の子育てをしていましたので、時間的にも経済的にも難しいと思い断念しました。ですから頭の片隅には、ずっと「起業」があったのです。
子どもが成人し、気が付けば50代になっていた私に、起業を促す大きな変化が訪れます。私が勤めている会社では新型コロナウイルスの影響で働き方が激変し、ほぼ全員がフルフレックスのテレワークになりました。
まさに夢に見た起業のチャンスが到来したと感じていた頃、一歩踏み出すきっかけを作ってくれたのはアーティスト仲間です。私は2019年度に、東京芸術大学の社会人に向けたオープンカレッジに通っていました。そこで出会ったアーティスト達が起業しようというのです。私はけっこう慎重派なので起業するには早い、もう少し様子を見て、機が熟してから会社を法人化したいと思っていました。けれども周りの仲間たちに「一緒にやろうよ~」と言われ、背中を押されたというか、巻き込まれた感じで、2021年の1月に「each tone」という合同会社を創業しました。「藝術の力を社会へ」を理念として、ビジネスをアートプロジェクトとして活動していますが、その中の1つを事業化したのがvíz PRiZMAです。
ビジネスプランを考えたきっかけを聞かせてください。
家族のお墓問題です。父の出身地は三重県伊勢市の田舎で、先祖代々の土地は長男が継ぎます。父は三男なのでお墓がありません。それでは子どもたちが困るだろうと思ったらしく、大金を払って東京のお墓を購入しようとしていました。私は嫁いだ身ですから、実家のお墓は守れません。弟は地方在住です。私たちは「東京にお墓があっても逆に困るだけ」と父に説明し、思いとどまってもらいました。
今では父の実家もお墓を守る人がいません。地元には家族、親族が残っていないからです。このようなお墓の問題は、どこの家にもあると思います。実際、田舎の先祖代々のお墓には滅多に行けず、少子化で墓守もいない。その結果、お墓を片付けてしまう「墓じまい」が増加しています。
でも大切な人をいつまでも想いたいという気持ちは変わりません。亡くなった人を偲びたい、祈りたい。その気持ちはあるのにお墓は守れない。このミスマッチをどうすればいいかという問題意識がきっかけでした。場所を問わずアクセスできる。そして時代を問わず継承できる。そういうものが作れたらいいし、技術的には作れるはずだという話を仲間としていて、まず導き出したのがバーチャル空間のお墓でした。そこから派生して、現在のサービス提供に至ったわけです。
東京シニアビジネスグランプリのファイナリストになり、事業に役立っていることはありますか。
応募に際して事業計画書を作成し、実際にプレゼンテーションを行ったことは、自分の頭の中を整理するのに非常に良い機会になったと思います。PR TIMESなどにプレスリリースを出していますが、以前よりヒット率も向上してきました。語り方、伝え方が上達して、理解してもらえる人が増えたのだと、とても感謝しています。
また、意外なところからもアプローチをいただくようになりました。例えば地方のお寺です。お問い合わせがあったのは、熊本県、島根県、新潟県の若い副住職の方々。「地元は過疎地なので、このままだと自分が住職になる頃には、お寺に遺骨しかなくなる」という危機感を持っていました。それが過疎地の現実です。そこで、「これじゃいかん!」と思ったのでしょう。お墓や遺骨を大切に思う都会にいるご家族と繋がっていたい。そのために自分のお寺でバーチャル空間を持って、いつでもバーチャルでお参りができるサービスを提供すれば、檀家さんとご縁が切れることなく繋がっていけると若い副住職の方々は考えたようです。つまり「あなたの菩提寺はここですから、東京に居ても、たとえ海外に行っても、お参りしたければいつでもきますよ」というわけです。
お寺と連携するということは、お寺を救うことにも繋がると考え、各都道府県との連携にも取り組み始めています。現代のお寺には宗派を超えたネットワークがあるそうです。宗派ではなく、存続の危機感でより強く繋がっているのです。そのような状況もあって、早ければ来年中には全国のお寺と連携できるようになると思います。
★シニア世代の方に創業のポイントなどを教えてください。
ベンチャー企業では、協力して助けてもらう相手が、学生だったり、20代だったりすることがあります。ですから、今までの人生を全部リセットする感覚の方が良いと思います。これまでの仕事と同じ領域で起業するとしても、勤めていた会社の感覚を持ち込んだらアウト。やはりゼロベースでスタートするのが良いです。素直に自分ができないことはできないと認めて教えていただく。相手が若くてもリスペクトして感謝する。そういう気持ちがないと生き残れないと思います。逆にその気持ちがあれば、どんなことにも挑戦できるのではないでしょうか。

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