事例集

●事例07

水銀フリーによるオゾン濃度測定装置
第2回東京シニアビジネスグランプリ ファイナリスト
 
光テック株式会社
代表取締役 菅野裕靖さん

代表者インタビュー

事業内容と起業に至る経緯をお聞かせください。
当社ではオゾン濃度測定装置の製造・販売と、めっき加工処理を行っています。私は大学卒業後、京都の大手電機メーカーに就職してビデオヘッドの設計を行っていました。9年ほど勤めた頃、バブルが崩壊し、将来のことを考え祖父が興した「有限会社光電鍍工業所」への転職を決めました。めっき加工専門の町工場です。当時は父が社長を務めており、兄と数人の職人が働いていました。
転職はしたものの、私は以前からめっき加工業に危機感を覚えていました。最盛期は都内に3,000を超える同業者がおり、まさに東京の地場産業ともいえる業種でしたが、私が入社した頃には1,000社ほどになっており、職人の高齢化も進んでいました。受注が減少傾向にあるめっき加工だけでは、生き残ることは難しいのではと感じていたのです。そこでオゾン測定装置の研究開発に取り組み、事業として確立しようとした矢先の2019年、父と兄が相次いで急死してしまいました。私にとって会社を辞める以上の大転換期でした。
当時、私は58歳。引退することも考えましたが、祖父や父、兄が情熱を傾けた「ものづくり」を自分もしてみたいという熱意を強くもてるようになり、取り組み続けてきたオゾン濃度測定装置の製造・販売を行う「光テック株式会社」を設立しました。
御社のオゾン濃度測定装置の特徴を教えていただけますか。
最も大きな特徴は、水銀ランプを使用していないことです。オゾン測定は、もともと環境測定という名で呼ばれていました。高度経済成長時代に問題になっていた光化学スモッグは、自動車の排気ガスなどが光反応で発生するオゾンが一因です。1973年から各自治体が常にオゾン濃度を測定しています。現在、市場で使用されているオゾン濃度測定には水銀ランプが使用されていますが、水銀が有害なのはご存じのことと思います。人体への毒性が強いために、植物連鎖による野生生物への影響も指摘されています。いずれは水銀フリーの製品が求められる時代になると考え、LEDを利用したオゾン濃度測定器の研究開発に取り組みました。
このアイデアが生まれたのは、2008年に「京都環境ナノクラスター」という文科省のプロジェクトに参加したことがきっかけでした。当時、LEDの応用分野は照明機器関連が主流で、鍍金加工業者は私だけでしたが、LEDを活用した水銀フリーのオゾン濃度測定装置を有名企業も参加する中でプレゼンしたところ私だけが採用されたのです。製品化までは10年を要しましたが、ようやく水銀フリーのLED式オゾン濃度測定装置を完成させることができました。
起業してから現在まで、想定外の問題はありましたか。
LED式オゾン濃度測定装置の製造、販売会社として起業したので、めっき加工は行わないつもりでいたのですが、光電鍍工業所時代のクライアントから、他に頼むところがないからと発注の相談が来るのです。会社を清算したとはいえ、機械設備もそのままですし、私もめっき加工を手伝っていましたので、懇意にしていたかつてのクライアントから頼まれると断ることはできません。東京シニアビジネスグランプリに応募した頃は、測定装置の研究開発をしながら、めっき加工もするという、かなり忙しい日々を過ごしていました。
今後の事業展開プランを教えてください。
現在販売しているLEDオゾン濃度測定装置を一歩進めた新製品を開発し、環境省の環境技術実証事業(ETV事業)に一時採択されています。
実証されれば信頼できる企業として認められることになりますから、国内の自治体に導入を提案しやすくなります。最終目標は全国への普及です。また、海外展開も視野に入れています。特に中国やアジア圏は、かつての日本と同様に光化学スモッグが問題になっていますから、ビジネスチャンスだと思います。公社には海外販路開拓の支援もあると聞いていますので、一度相談にいこうと考えています。
★起業を考えているシニア世代の方にメッセージをお願いします。
私の場合、父や兄が亡くなり突然の起業となったので、様々な人に相談したり、頼ったりしたこともありましたが、東京シニアビジネスコンテストの申請書作成時は私の思いや自身の言葉で事業を伝えることを優先することにしました。自身の言葉で作成しないと仮に書類審査を通過しても、面接審査の際に自分の言葉で答えられないのではないでしょうか。結局、誰にも相談せず、自分ひとりの考えだけで書類を仕上げ、コンテストにエントリーしました。
ビジネスコンテストで最終的にプレゼンするのは自分自身です。自分らしく事業を進めるためには、文章が完璧でなくても思いを込めた自分の言葉で伝えることが重要だと、私は思っています。
シニア世代はモチベーションさえ高ければ事業に挑戦できます。是非、経験豊富なシニア世代の方に起業を目指してほしいと思います。

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