事例集

●事例08

AIを用いた企業の健康診断プラットフォームの構築
第2回東京シニアビジネスグランプリ ファイナリスト
 
藤田正典さん

代表者インタビュー

事業内容とプランを発案した経緯を教えてください。
事業の柱はメカニズム・デザインを応用したプラットフォームによる企業診断の提供です。このプラットフォームは、RPA(業務の自動処理)による経営診断結果や、AIによる経営強化情報などの提供が可能なため、経営者や経営コンサルタントの業務効率化を図り経営課題の解決に注力することができます。クライアント企業の収益向上とともにアカデミアの研究成果向上はもちろん、産学連携の推進、ひいてはビジネス・エコシステムの形成へとつながります。
私は総合商社でベンチャー企業の立ち上げに携わってきたのですが、なかでも大学や国立研究所のようなアカデミアな研究機関に興味を持ちました。そのため社会人大学院で経営学や技術経営、情報システムなどを学び、修士、博士の学位を取得。現在は副業として複数の大学にて学生や社会人に経営学やスタートアップ、AIビジネスなどの講義を行っています。もちろん、会社の許可は得ています。
この経験からわかったことは、大学にはビジネスに生かせるたくさんの知財があるのに、ほとんど活用されていないという現実でした。商社マンの私から見れば、大学はまさに宝の山なのです。「経営学者の研究成果を、論文として発表するだけではもったいない」。ビジネスとして展開できるのではないかと考えました。そして辿り着いたのが、経営学の先生方と中小企業やベンチャー企業を結びつけるプラットフォームです。
この事業は、地方銀行や信用金庫、商工会議所、そして中小企業やスタートアップ企業を支援する経営コンサルタントを主なターゲットにしています。これらの組織に集まっている中小企業やスタートアップ企業から提供されたデータを、経営学者やAI技術者が分析し、客観的な企業診断情報を提供します。ここでポイントになるのが匿名加工という企業名を出さずに、様々な情報分析ができる技術です。個人は特定できないけれど、属性などの情報は分析できるので、例えば医療業界では導入が進んでいる技術です。この技術を企業のデータベースに適用して「健康診断」をすることで、現在の経営状態、あるいは成長や失敗のキーポイントが明確になって経営支援のヒントになります。
なぜ、起業しようと考えたのでしょうか。
若い頃から起業したいという思いはありました。80年代はニューメディア・ブームで、新しい通信会社や携帯電話のような新しい通信事業が次々と誕生した時代でした。その頃、私は青臭い学生で、通信分野のベンチャー企業を興したいと考えていました。大手の通信・IT企業が手掛けていない革新的な事業を自分で展開したかったのです。当時、商社は多くの通信事業に参入していました。そこで、商社に入社したというわけです。
ところが現実は残酷なもの。入社後は繊維関連の部署に配属となり産業用コートの販売をしていました。幸いなことに、社内転職制度を利用して情報産業の部隊に転職することができました。そこでベンチャー企業の立ち上げや、様々な業界のDX化業務に携わることになります。ITバブルが到来し多忙な毎日を送っていたのですが、2000年をピークに衰退し下降の一途をたどることとなりました。私がいた情報産業部隊は消滅します。自分の中に「このままで終わりたくない!」という思いが、マグマのように溜まっていくのがわかりました。
そこで私はエネルギーの発散場所を、アカデミアに求めたわけです。社会人大学院には、一風変わった人が多くて面白く刺激にもなりました。そこで感じたのは、経済が停滞する日本が活力を取り戻すために、起業家を支援する仕組みづくりが必要だということです。当時は退職して起業に踏み切る決心ができませんでしたが、シニアになり子育ても一段落しました。いよいよ、若い頃からやりたかったこと、そしてやらねばならないと思っていたことを実行するときが来たと思い、起業を決意しました。現在はまだ企画段階ですが、今年度中の起業に向けて準備を進めています。
東京シニアビジネスグランプリに応募した動機を教えていただけますか。
私が特任教授をしていた大学では、社会人向けのスタートアッププログラムがありました。受講生がグループを作って実践的な授業をしていたのですが、それはあくまでも教育の一環なので、起業へのモチベーションを高めるためにビジネスコンテストへの応募を推奨していました。受講生に「東京シニアビジネスグランプリ」を紹介し、受講生のビジネスプラン作りの参考に公社に資料を受け取りに行ったのが、そもそものきっかけです。応募のフォーマットを使用し、授業の中で教えることにしました。すると、受講生のうち数名がビジネスコンテストに応募することになりました。でも私自身はビジコンに応募したことがありません。そんな教授が受講生にビジコンへの応募を推奨するのもおかしな話です。そこで、いずれ事業化したいと思っていたビジネスモデルを基に、受講生に混じってコンテストに応募しました。
公社を利用された感想をお聞かせください。
申し訳ないと思うほど手厚い支援をしていただけるというのが、率直な感想です。TOKYO創業ステーションの1階にあるStartup Hub Tokyoにはコンシェルジュ起業相談があり、さまざまな相談に乗ってくれます。「プランはあるけれど、どうしたら良いかわからない」という人でも、とにかく一歩踏み出すことができると感じました。また、一対一でプラン作成に伴走してくれるプランコンサルティングも役立ちました。しかもこれらは無料です。受講生には「無料なのだから、とにかく行ってみなさい。何もわからなくても、やる気になるから」と言ったくらいです。
情報交換をしたり知識を身につけたりするのは、座学での授業が良いでしょう。しかし事業を立ち上げるのなら、実践がいちばんです。TOKYO創業ステーションを利用しないのはもったいないと思います。
★起業を考えているシニア世代の方にメッセージをお願いします。
シニアで起業を考えている方は、実現するための経験と知識を持っているはずです。老後をゆっくり自宅で日向ぼっこをして過ごしたい、あるいはゴルフ三昧の毎日を送りたいという人は、それはそれで良いと思います。けれども、もっとやりたいことがある、力を発揮したいと感じているなら、躊躇することなく、チャレンジしてください。家族の生活を支え、子どもの養育の責任を果たして、自分の思いを実現できるタイミングを迎えているのがシニア世代です。
私が目指しているのは、ビジネスの経験とアカデミアの知識という両輪を生かした産学連携です。世の中がもっと素敵になるために、人々がもっとハッピーになるために、そして子どもたちにも誇れるようなものを残したいと、このプランの事業化を考えました。やりたいことが自由にできて、健康な毎日を過ごしていますから、今が一番幸せです。

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