事例集

●事例01

宇宙への夢と道を持たせるロケット事業
第3回東京シニアビジネスグランプリ 最優秀賞
 
株式会社ロケットリンクテクノロジー
森田 泰弘さん

代表者インタビュー

事業内容を教えてください。
「低融点熱可塑性推進薬(LTP)」を実装したロケット開発をメイン事業とし、そのスピンオフとして宇宙を応用した教育にも貢献する事業を展開しています。近年小型衛星の需要が急増し、その市場は爆発的に成長しようとしています。低コストで多数の小型衛星を打ち上げ、地球観測やインターネット通信のためのネットワークを構築しようというわけです。このような状況の中で最大の課題は、供給側のロケットが大幅に不足しているということです。このままでは宇宙利用の停滞を招いてしまいます。そこで登場するのが、弊社独自の「低融点熱可塑性推進薬(LTP)」です。これを使えば、これまでより低コスト・短期間でロケットを大量生産することができます。小型衛星に高頻度な打ち上げ機会を提供することで、宇宙利用の発展に貢献できます。
教育活動では、モデルロケットを通じて理科の楽しさを感じてもらうことで、青少年少女の理科教育の促進に貢献したいと考えています。いまのところモデルロケットのエンジンを販売しているのはアメリカの企業のみです。世界的に見てもこの企業しかないため、商品の供給が不安定なことや価格が高いなどの課題があります。その中でも日本では年間2万発以上のモデルロケットが打ち上げられています。そこで、弊社の「低融点熱可塑性推進薬(LTP)」を活用してエンジンを国産化することで、モデルロケットを打ち上げている全国の教育関係者がエンジンの安定供給や低コスト化などの恩恵を享受できると考えています。ひいては理科教育の促進にも繋がるでしょう。こうして、ロケット開発と子供達の教育が新しい固体燃料の開発という観点で繋がっていくのです。
起業した時の経緯を教えてください。
現職のJAXAで「低融点熱可塑性推進薬(LTP)」の開発に何十年と携わってきました。JAXAでは国の予算を使って開発を進めていきます。国の予算は規模が大きいので大きなロケット開発に挑戦することができます。一方で絶対に失敗できないという制約もあります。そうなると、リスクを考え大きな挑戦はできません。その中でも未来を拓くような開発に取り組んでイプシロンロケットではロケットを簡単に発射させる仕組みを開発することができました。次の段階で必要なのは、ロケットを簡単に作る仕組みです。
その重要なピースが新しい「低融点熱可塑性推進薬(LTP)」です。従来1か月かかっていた作業を2~3日で完成させることができるので、ロケットを簡単に作るための決定打になります。このエンジンをイプシロンロケットにいきなり使用するとなると、敷居の高いことになるでしょう。まずは小さなロケットで実績を作るのが得策です。その考えから小型のロケットを開発し、そのロケットに新しいエンジン「低融点熱可塑性推進薬(LTP)」を使って、いち早く飛ばしてみようと考え起業に至りました。
起業で苦労したことはありましたか。
JAXAでは予算を獲得してくれる別部署のメンバーがいましたので、私はロケット開発に専念することができました。現在は会社を作って自分が社長になって何が変わったかというと、技術的な観点でロケットを開発する以外に資金調達や資金管理、人材確保など、これまで経験してこなかった業務もしなければならず、これはロケット開発より難しいと感じています。今まで自分が如何に恵まれていたのかがよくわかりましたね。
子どもの頃からの夢「ロケット」に魅了されて現在もロケットの仕事をされているのですか。
原点はSFの「サンダーバード」です。サンダーバードのようにすぐさま飛んでいけるロケットを作りたいというのが小さな頃からの夢でした。その形ある成果がイプシロンロケットですが、もう少し発展させたいという強い思いが今回の起業のモチベーションに繋がっています。自分が好きなことをやっているからこそ、青少年少女に夢の大切さをわかってもらえると思っています。これからもロケット開発を大いに楽しんで皆さんに夢を与えたいと考えています。
シニア世代の方に起業のポイントなどを教えてください。
最近では、若い人たちが積極的に起業に挑戦する場面が増えています。一方で、シニアの人たちはどうなのかと考えた場合、若い世代に比べるとリスクを取りたがらない傾向が強いと感じています。若いときは未来には希望しかないからどんどん挑戦できるのに比べ、シニアには制限時間が見えてくることも要因だと思います。定年してから起業を考えても、後30年くらいは大きなことに挑戦できるのはないかと思います。私も会社を作ったときに、残り30年くらいは暴れられるのではないかと考えました。シニアの方にアドバイスするなら、これまでの人生で得た知識や経験は先に繋がることもあるのではないかということです。それが逆に足かせになる場合もありえますが、若手とは違うシニアらしい起業の方法もあるでしょう。今の時代は「50、60歳」でもまだまだ若い。どんどん挑戦しましょう!
東京シニアビジネスグランプリに応募した動機やセミナー・ファイナルでの経験はいかがでしたか。
TOKYO創業ステーションでプランコンサルティングの特訓を受けたのが出発点です。一人で起業の勉強するのではなくプランコンサルタントに師事して3か月間学ぶことができたのは幸運でした。起業に関しては素人なので、初歩的なことから高次元のことまで大変勉強になりました。プランコンサルタントから「東京シニアビジネスグランプリ」を勧められ、自分自身成長した実感があったので腕試しをしてみたいという思いで応募しました。また、ファイナリストになったことで異業種の方たちと交流を持て、自分にはない他の方たちの考え方に触れることもできました。最優秀賞に選ばれたことは非常にうれしかったですし、ここまで起業について教えてくれた方々には感謝の気持ちでいっぱいです。
今後の事業プランをお書きください。
ロケット産業はまだまだとても小さな世界です。ロケットを作ること自体が特殊なことになってしまっていて、大手のメーカーしか作れない、JAXAのような大きな組織しか開発できない、そういう業界なのです。これからはそうではなく、弊社のような新興の民間企業が先頭に立ってロケット開発を進める時代です。宇宙への敷居を下げ、宇宙とは縁遠いと思われていた中小企業をも惹きつけ、宇宙を誰でも挑戦できる活躍の場にしたい。ロケット開発の裾野を広げ、新たな仲間を増やしていくことがよいロケット開発につながるのです。我が国が誇りとするモノづくり力の総動員です。だから、人と人、会社と会社とのネットワークをどんどん広げていきたいですね。その中で「東京シニアビジネスグランプリ」を通して異業種の皆さんと知り合えたのは幸運で、その方々を通してさらに異次元のネットワークを広げていければ最高だと考えています。

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