トップ > ビジネスレポート > 現地ビジネスレポート:ベトナム‐半導体ハブとしてのベトナムの可能性
コラム:ビジネスレポート

半導体ハブとしてのベトナムの可能性

ベトナム2023.11.17

ベトナムの半導体産業は、1990年代以降の停滞期を経て、近年目覚しい発展を遂げており、さらなる市場拡大のポテンシャルも秘めています。 今回はベトナムの半導体産業が日本の中小企業においても参入のチャンスとなるなかで、ベトナム市場の強みや対処すべき課題について具体的にお伝えいたします。

半導体チップ
ベトナムのセミコンダクター企業のロゴ 

1.ベトナムの半導体市場の状況

現在までの歩み

ベトナム企業初の半導体工場「Z181」は1979年に開設されました。しかし、世界的な政情不安のあおりを受け、1990年代初頭に閉鎖しています。その後、ベトナム企業の半導体工場はなくなり、市場には、インテルやルネサスなどの設計や組み立て、テストを行う少数の外資系企業のみの状況が続きました。しかし、近年はアムコールやハナマイクロンのような多国籍企業による新規投資と、マーベル、サムスン、シノプシスのような既存大手の事業拡大により活気を取り戻しつつあります(表1)。さらに、国内からもViettelとFPTが参入しています。

現在の状況

前述のように状況は変わってきているものの、半導体製造におけるグローバル・サプライチェーンへのベトナムの寄与度はいまだに低いままです。その理由は、半導体製造の3つの基本工程のうち寄与度が高い順に、設計(50%)、前工程 (24%)、後工程(6%)となるなかで、ベトナムが主に担っているのは後工程であるからです。しかし、近年では設計への注目も高まりつつあります。

今後の予想

ベトナムは、将来的にサプライチェーンの中で価値を高めていくために必要な独自の強みを持っています。1つ目は、世界の電子機器輸出国トップ15にランクインしており、半導体のパッケージング拠点設置に理想的なロケーションであること。2つ目は、東南アジアは日本、中国、韓国の主要な半導体ハブへのアクセスに便利であること。3つ目は半導体製造に不可欠なレアアースの埋蔵量が世界第2位であることです。

それらを背景に、ベトナムの半導体産業は今後も成長を続けると予想されています。2022年の市場規模は47億9,000万ドルでしたが、2027年には64億5,000万ドルに達すると予想されており、ASEAN諸国の中でも最もホットな半導体市場となっています。また、ベトナムは対米半導体輸出でもアジア第3位となり、2023年2月の販売額は5億6,300万米ドルと、2022年から75%増加しています。

No. 企業名 事業内容 場所 投資額
(百万米ドル)
1 アムコール 韓国 製造工場の設立 2023 Bac Ninh 1,600
2 ハナマイクロン 韓国 パッケージングおよびテスト工場の設立 2023 Bac Giang 600
3 マーベル 米国 現拠点をGlobal Design Centerにアップグレード 2023 Ho Chi Minh N/A
4 サムスン 韓国 半導体部品の製造を開始 2023 Thai Nguyen 850
5 シノプシス 米国 eSiliconを買収し、4つの設計センターを開設 2020 Ho Chi Minh, Da Nang N/A
5 シノプシス 米国 トレーニングプログラムへの協力と資金提供 2022 N/A 20
6 インテル 米国 組立・テスト工場の設立 2010 Ho Chi Minh 1,000
6 インテル 米国 技術向上 2021 Ho Chi Minh 475
7 ルネサス 日本 設計センターを設立 2004 Ho Chi Minh 30

表1. ベトナムにおける主な半導体FDIプロジェクト例

2.中小企業の海外進出の可能性

半導体産業といえばハイテク大手企業のイメージが強くありますが、活況を呈するベトナムの市場では、中小企業が参入しやすい多様なビジネスチャンスが広がっています。

材料供給

日本企業は最先端の化学薬品や半導体製造装置のサプライヤーとして世界的に知られています。ベトナムの豊富な天然資源を踏まえると、中小企業でも製造業者の近くに製造拠点や販売拠点を設けることが可能です。

設計

設計は前工程や後工程と比較すると、製造設備を含めた拠点設立に係る資本障壁が低いため、中小企業にもチャンスがあります。カスタムメイドの製品やニッチな製品を提供することで、ハイテク大手企業に対抗することができ、AI/ML技術の導入により、研究開発コストを削減することも可能です。中小企業はベトナムへの設計委託や、現地の若い労働力を活かして設計拠点を立ち上げることもできます。

物流

半導体のサプライチェーンは煩雑で、製品も破損しやすいため、効率的で信頼性の高い物流システムが必要とされています。半導体向けロジスティクス市場も成長すると予測されていますが、現在のところ有力企業が存在しないため、中小企業にも参入のチャンスがあります。

3.ベトナム政府による優遇措置

ベトナムは、2045年までにデジタル国家になるという目標のもと、国家戦略「メイク・イン・ベトナム」を掲げています。先に述べた通り、多くの利点があるベトナムでの半導体チップの生産は国家戦略に沿っていると言えます。そのため、ベトナム政府は世界中の半導体に関わる大企業をベトナムに誘致し、ベトナム国内での研究開発拠点の設立や研究開発拠点の拡大を目指し、半導体産業にいくつかの優遇措置を与えています。特定の基準を満たす半導体関連企業は、土地、法人所得税、付加価値税、輸出入関税に関する法律に基づき、最高レベルの優遇措置を受けることができるほか、研修、研究、生産試験開発のための資金援助も受けられます。また、投資資金に関する追加条件を満たした企業は、税と地代がさらに減免されます。現行の優遇措置以外にも、ベトナム政府は国家イノベーションセンター(NIC)を設立し、ホーチミン、ハノイ、ダナンに3つのハイテクパークを設置しているほか、半導体エコシステムの拡大に備えて、半導体産業の開発戦略を策定しています。

Sai Gon Hi-teck Parkを受けから見た
Sai Gon Hi-teck Park

4.ベトナムの半導体産業が抱える課題

ベトナムの半導体産業には多くの優位性と政府の支援がある一方で、サプライチェーンにおいては大手、中小企業の双方が課題を抱えています。最たる課題は、専門的な職業訓練を受けている者が少なく、熟練労働者が不足していることです。現在、ベトナムの半導体技術者数は約5,000人といわれていますが、2028年には技術者の需要が20,000人に達すると予測されています。そのため、ベトナム政府は半導体設計企業の参入増加を契機に教育制度を改善する取り組みを進めており、世界的に人材不足の中、若年層の熟練労働者がベトナムの競争力となる可能性に期待しています。

ベトナムのインテルプロダクションの様子

もう1つの課題は、世界の半導体事情に起因しています。経済的逆風と地政学的緊張から電子機器への需要が低下しており、2023年の半導体市場は落ち込むことが見込まれています。市場の需給バランスが崩れ、供給過剰で飽和状態の製品もあれば、深刻な供給不足に陥っている製品もあります。ゆえに、半導体関連企業には、変動が激しく、急速に進化している市場に対応するための戦略的な成長計画が必要となっています。

加えて、中小企業はインフラやコスト面での課題にも直面しています。半導体は高価で、成熟しつつあり、競争の激しい産業であるため、市場における中小企業の役割が限定されてしまう可能性もあります。さらに、多国籍大企業からの投資が急増したことで、ベトナムにおける操業コストも増加しています。

このような課題はあるものの、ベトナムの半導体産業の将来的な需要は増加することが確実で、アジアにおける次の半導体ハブになる可能性を秘めています。中小企業が拡大するエコシステムに参入するチャンスも生まれていますので、この機会にベトナム進出を検討されてみてはいかがでしょうか。

Tokyo SME サポートデスクベトナムでは、都内中小企業の皆さまのベトナム展開を支援しています。 ご利用を心よりお待ちしております。

【執筆】 Tokyo SME サポートデスクベトナム受託事業者 B&Company株式会社

<ASEAN通信からの転載記事>

関連する支援

Tokyo SME サポートデスク ベトナム
ベトナムにおける海外ビジネス展開を現地からサポートします!