トップ > ビジネスレポート > 現地ビジネスレポート:インドネシア‐健康問題とヘルスケア産業
コラム:ビジネスレポート

インドネシアの健康問題とヘルスケア産業

インドネシア 2024.2.19

大気汚染で曇っている、空から見たインドネシアの街の様子
工業化や深刻な交通渋滞が招く大気汚染
路肩に停車しているバイクとドライバー達
バイクやタクシーでの移動が引き起こす交通渋滞

1.インドネシアの健康問題

近年、インドネシアでは、急速な経済成長とともにライフスタイルが大きく変化しています。例えば、食生活においては外資企業の参入によりファストフードなどの外食産業が増加し、お米などの炭水化物に加えて塩分や脂質の多い食事も選択肢に加わるようになりました。また、経済の中心となる都心部に人口が集中し、その多くの人々の移動手段が車であることから、運動量が不足している人も多くいます。さらに、インドネシアでは工業化や深刻な交通渋滞が招く大気汚染の問題も出ています。こうしたことから、糖尿病、高血圧、肥満といった生活習慣病のみならず、がんや呼吸器疾患などの慢性疾患の罹患率が増加していると考えられます。

本稿では、こうした健康問題を抱えるインドネシアにおける、人々の健康意識やヘルスケア産業の現況と日本企業の参入可能性について概観していきます。

2.健康志向の高まり

インドネシアでは、国民の健康問題に対する関心や健康志向の高まりから、健康食品やヘルスケア製品への需要が高まっています。さらに、新型コロナウイルスの流行がその関心を高め、インドネシアにおけるヘルスケア支出は2019年から2020年にかけて11.61%増加しました。新型コロナウイルスの流行期以前の2018年から2019年にかけてその増加率は1.62%であり、新型コロナウイルスの流行期にヘルスケア支出が大幅に増加していることが分かります。さらに、インドネシアのヘルスケア支出は2020年以降も増加を続けており、新型コロナウイルスの流行期に高まった健康への関心は、現在においてもインドネシアの人々の意識に影響を与えていることが伺えます。インドネシアのヘルスケア市場は今後も成長を続けると予測されています。

3.中間所得層の増加と平均寿命の伸び

インドネシアの中間所得層の増加と平均寿命の伸びも、国民の健康問題への関心や健康志向を高めています。インドネシアでは中間所得層が大きく成長しており、その消費活動も2002年以降、毎年12%ずつ増加しています。中間所得層の消費活動の拡大は健康分野への支出の拡大にもつながり、中間所得層はその所得の7~9%を健康分野の支出に充てているという結果も示されています。平均寿命の伸びもインドネシアの人々の健康問題への関心を高めているといえます。2023年のインドネシアの平均寿命は72.32歳で、この数字は2000年から10.16%伸びています。

こうした中間所得層の増加や平均寿命の伸びに対して、インドネシア政府は医療保険制度のますますの充実や医療インフラのさらなる整備に向けた取り組みを求められています。

4.インドネシアの医療インフラ

医療インフラの整備は、インドネシアの優先的に取り組むべき課題の一つといえます。インドネシアでは、労働社会保障実施機関により2014年から「BPJS Kesehatan」という公的な医療保険制度が導入されました。BPJS Kesehatanは毎月保険料(月給の5%︓雇用主4%、労働者1%負担)を支払うことで病院での治療を無料で受けることができる制度です。これまでは病院に行くことができず民間療法で治療を行っていた人々も、BPJS Kesehatanにより病院での治療が受けられるようになりました。こうした医療制度の拡充にともない、インドネシア国内の病院数も増加傾向にあります。しかしながら、インドネシアの人口及び医療需要に対して、まだまだその数は不十分といえます。2021年のインドネシアの人口に対する病床数の比率は、1,000人あたり1.5床です。また、インドネシアの病院は、総合病院であってもいわゆる私立病院がその市場を独占している現状があります。

このような状況から、インドネシア政府は国内のヘルスケア産業に対する外資規制を緩和しました。病院やクリニックへの外資の出資比率はこれまで67%までの制限がありましたが、出資上限が撤廃され100%の出資が認められるようになりました。ただし、依然として病床数による外資規制が存在することには留意が必要です。外資規制の緩和によって、インドネシアのヘルスケア産業は外国企業にとって参入のチャンスが大きい分野となりました。

インドネシア国内では医療機器への需要も年々増加しています。2024年における医療機器分野の年間成長率は前年比で11.9%と推定されています。また、インドネシア保健省によると、国内の医療機器メーカーの市場シェアは、医療機器分野全体の25%であるという結果が報告されています。インドネシアでは医療機器の購入を輸入に大きく依存している現状があります。

5.日系企業のヘルスケア産業への参入可能性

インドネシアの政府機関は、ヘルスケア産業において外国企業との協力に非常に前向きです。特に、医薬品・医療機器分野を発展させるために、日本企業からの投資や業務提携を期待しています。また、すでに多くの日本企業がインドネシアの医薬品・医療機器分野に参入しており、インドネシア企業と提携して臨床研究所や特定疾患に対する医療センター病院を設立するなどの取り組みを行っています。日本の医療技術がインドネシアのヘルスケア産業を大きく支えていることが見てとれます。

棚に並べられているインドネシアのヘルスケア製品
インドネシアのヘルスケア製品
薬局のヘルスケア製品棚を見ている消費者
インドネシアのヘルスケア製品

6.医薬品・医療機器の輸入に関する規制

インドネシアでは国家医薬品食品監督庁の規則に基づき、インドネシア国内へ医薬品及び食品を輸入する際には流通許可証及び輸入証明書を取得する必要があります。取得にあたっては、インドネシアの法律に従って様々な安全要件を満たす必要があります。また、インドネシア政府は2023年に、医薬品、生物由来製品、医療機器のハラール認証に関する大統領規則を発出しました。この規則では、インドネシア国内に流通する医薬品、生物由来製品、医療機器にハラール認証を必要とすることを定めています。日本企業が、医薬品や医療機器の分野へ参入する際には、こうした規則や認証のプロセスを確認しておく必要があります。

インドネシアのヘルスケア産業は大きく成長しています。その市場規模の大きさと中間所得層の成長からも今後積極的に参入していくべき分野であると考えられます。上述したように、日本企業からの投資や業務提携が期待されていることもあり、ぜひこの機会に参入のチャンスを探ってみていただければと考えます。

Tokyo SME サポートデスクインドネシアでは、都内中小企業の皆さまのインドネシア展開を支援しています。ご利用を心よりお待ちしております。

【執筆】Tokyo SME サポートデスクインドネシア受託事業者 M&Pアジア株式会社

<ASEAN通信からの転載記事>

関連する支援

Tokyo SME サポートデスク インドネシア
インドネシアにおける海外ビジネス展開を現地からサポートします!