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コラム:ビジネスレポート

タイの廃棄物問題と日本の環境技術の優位性から見るビジネスチャンス

タイ 2024.8.14

タイ王国は輸入制限や制御政策の存在がなかったことから、他国から大量の廃棄物を受け入れる国の一つとされてきました。世界各国が増加する産業廃棄物の処理に課題を抱える中、工業化が進むタイもその例外ではなく、水質汚濁問題などの環境問題が深刻化しています。このような社会背景から、タイ政府は2025年1月1日以降、海外からのプラスチックスクラップの輸入を全面的に禁止(2024年12月31日までは事前許可制)とする方針を示し、Industry4.0や廃棄物管理の厳格化を国家として推し進める方向となっています。

タイの2021年度の廃棄物発生量は4,572万トン(*1)と日本の4億1,151トン(*2)と比較すると総量は低い状況です。しかし、日本の焼却施設は1,000件超と国際的に高水準である一方、タイでは焼却・埋立てを行わず屋外に投棄・積上するだけの「オープンダンプ」方式が最終処理方法の主流となっており、低水準な廃棄物処理環境が水汚染や火災、ゴミ飛散などの環境問題に繋がっています。

Tokyo SMEはこのようなタイ国の社会課題の解決への一手として、タイ国家戦略「BCG政策」の推進に取り組むタイ企業経営者を引率した日本企業の工場視察・ビジネスマッチングイベント「東京エコツアー」を開催し、日本の優れた廃棄物処理施設の処理プロセスやリサイクル技術のタイ国内への導入・普及促進活動を2023年より継続しています。

*1 タイにおける廃棄物発生量の推移(出所︓天然資源・環境省及び工業省工場局)
*2 令和4年度 産業廃棄物排出・処理状況調査報告書(環境省環境再生・資源循環局廃棄物規制課)

廃棄物の山
「Tokyo SME 東京エコツアー」セミナーの様子
「Tokyo SME 東京エコツアー」工場見学の様子

1.日・タイ間の廃棄物処理プロセスの相違点

タイの都市廃棄物管理は主に政府機関によって行われ、産業廃棄物の管理は民間企業により実施されます。工業省工業局(DIW)に登録された工場の生産過程で排出した廃棄物は全て産業廃棄物とみなされ、有害・非有害に区分した上で、産業廃棄物処理関連法令の1つである工場法の規制に従い産廃処理業者への委託または自社による適正処理を行う必要があります。処理に際しては産業廃棄物管理票(マニフェスト)を運用しDIWに廃棄物処理の進行・完了の報告義務があります。

一方、危険物指定がなくリサイクル目的で持ち出される廃棄物は申請不要であること、年間報告に関する手続きが煩雑であること等の要因が重なり、不法投棄が相次ぎ改善に向かっていません。併せて、廃棄物処理の平均単価が4千~150千THB/tと高額であること、産業廃棄物を許可なく排出した場合の罰金が200千THB程度と刑罰が軽いことも、抑止力が働きづらい要因となっています。2023年11月に施行された工場法通達「汚染者負担の原則」により廃棄物生成者へ責任範囲が拡大されたものの、日本のような事業主や消費者が廃棄時に直接費用負担をする法律・制度(家電リサイクル法など)は発展途上段階にあり、適正処理を促すための法律・ルールが機能していません。

また、日本では巨額の公的予算を投じた埋立処分場が存在し最新設備・処理技術の導入が行政主導で行われている一方、タイでは民間事者が産業廃棄物を有償で排出者から引き取った上で、処理やリサイクル事業を通じた”マネタイズ”が必要なことからも、両国の処理プロセスや不法投棄抑制に必要なアプローチが異なります。

2.日本の環境技術の優位性とビジネスチャンス

日・タイ間の廃棄物処理プロセスの相違点から、日本が公害問題等への対策の中で培った環境技術の優位性や、当該技術を活かしたビジネスチャンスが浮かび上がります。日本の静脈物流に関する法律・ルールやインフラ整備を契機に生まれたごみ・廃棄物の再資源化技術は、今後環境問題に向き合いつつ、マネタイズが必要なタイの処理業者にとって重要な先進事例となっており、BCG政策の推進に取り組むタイ企業経営者から高い関心を集めています。

「プラスチックの選別技術」、「PCボード・E-スクラップなどのリサイクル技術」、「商業施設・家庭用の食品廃棄物処理技術」などに関する日本の設備・技術の購入・導入ニーズが多く寄せられています。またタイでは、循環型エネルギーとして普及が進むEV車や太陽光パネルの設置増加が使用済みバッテリーや廃棄パネルの急増に繋がっており、有害物質の適正処理やリチウム・コバルトなどの希少金属の再資源化に資する環境技術は高い関心を集めています。

上記の背景を受けてTokyo SMEは、2023年から2年間に渡り2回、タイ工業連盟(FTI)環境部会を中心とする環境意識の高い企業経営者:約20名を引率し、東京近郊の優れた環境技術・製品を有する企業の工場見学会、日・タイ企業間の商談会「東京エコツアー」を開催しました。タイ企業の課題・ニーズを起点に日本の廃棄物処理プロセス・リサイクル技術をマッチングしたほか、最先端の環境技術を有する日本企業のプレゼンを実施し、スタートアップの最新技術や新たなビジネスモデルのタイ展開について議論を深めました。

工場見学や商談会では、タイ企業のニーズ(購入・導入)と日本企業のシーズ(販売・技術指導等)に関する活発な意見交換や条件交渉が行われ、計95件の面談が実現し現在も取引成立に向けた交渉が多数継続しています。

~株式会社TBM 横須賀工場見学会~

近赤外線を用いた汎用プラスチックと石灰石由来の環境配慮素材「LIMEX」の自動選別プロセスを見学

TBM横須賀工場での集合写真
工場内でシステムの説明を聞く参加者たち

~東京スーパーエコタウン 埋立処分場見学会~

東京23区最後の廃棄物埋立処分場。廃棄物処理・資源化や環境保全に向けた行政主導の取り組みを見学

廃棄物埋立処分場前での集合写真
会議室で取り組みの説明を受ける参加者たち

~株式会社エコアール 工場見学会~

使用済自動車の適正処理・再資源化プロセスを見学

施設前での集合写真
工場内での再資源化適正処理の様子

~日本発酵株式会社 豊洲市場見学会~

世界最大規模の中央卸売市場に導入されている“空気も水も汚さない”生ゴミ処理機「KIDシステム」を見学

施設内での集合写真
施設にて担当者の説明を聞く参加者たち

~NEW環境展 展示会視察(2023・2024)~

環境ビジネスの展開をテーマとした展示会を視察日本の環境技術の最新動向を見学しながらブース内での面談を実施

東京ビッグサイトでの集合写真
展示会の様子

~株式会社ゼロボード~

ESG関連データの集計・可視化クラウドを紹介。
今回のツアーを契機にタイ日系大手自動車部品メーカーとの取引が成立

ゼロボードの説明を聞く参加者たち

~fabula株式会社~

「100%食品廃棄物から作る新素材(特許技術)」をコア技術として、建材やコンシューマ商品の開発技術を紹介

fabulaが作る廃棄物由来の新素材の写真と担当者のプレゼンテーションの様子

~環境エネルギー株式会社~

「廃プラスチック油化技術(HiCOP方式)」を活用した廃プラスチックと油を循環するビジネスモデル“RE:OIL”を紹介

RE:OIlのロゴとその設備、およびその説明プレゼンの様子

~ビジネスマッチング商談会~

タイへの導入可能性に関する活発な議論が行われた

室内にて議論を交わす参加者たち
室内にて議論を交わす参加者たち

4.おわりに

タイの環境課題解決に繋がる日本企業の技術導入に向け、Tokyo SMEはタイ関係機関との更なる連携を図りニーズ情報を収集するとともに、今回のイベントで生まれた新たな連携を引き続き支援し、日・タイ間の協創を後押ししていきます。

日本企業のタイ進出や、タイにおけるパートナー探索など、ビジネスマッチング等の支援を希望の際は、都公社タイ事務所別タブで開くまでお気軽にご連絡ください。

【執筆】(公財)東京都中小企業振興公社 タイ事務所(Tokyo SME Support Center Thailand Branch Office)澤根 祐

<ASEAN通信からの転載記事>

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