トップ > ビジネスレポート > ベトナムにおける医療機器・設備の不足と医療分野への投資
コラム:ビジネスレポート

ベトナムにおける医療機器・設備の不足と医療分野への投資

ベトナム 2025.2.10

Manufacturing of high-tech medical devices in Saigon High Tech Parkで働くスタッフの様子
Manufacturing of high-tech medical devices in Saigon High Tech Park 出所:Bao thanh nien
医療現場で働くスタッフの様子
Rising demand for local healthcare security
出所: Khoa hoc pho thong

1.市場概要

ベトナムは高齢化が進み、医療支出が増えているため、進出先として魅力的な市場です。

高齢者の割合は2019年の11.9%から2023年には13.9%に増加し、2050年には総人口の4分の1を占めると予想されています。高齢化の進展は、医療へのニーズの高まりを意味し、高齢者の医療支出が増加しますが、ベトナムでは年齢を問わず、医療支出の増加が見られます。2020年から2022年にかけて、1人当たりの年間総支出が全国で約3%減少(都市部では約13%減少)しましたが、医療支出は約25%増加しています(153ドルから189ドルに増加)。

1人当たりの年間総支出と医療支出(2014-2022)。2014年、医療支出額119ドル、総支出額884ドル。2015年、医療支出額121ドル。2016年、医療支出額133ドル、総支出額1,009ドル。2017年、医療支出額148ドル。2018年、医療支出額162ドル、総支出額1,191ドル。2019年、医療支出額171ドル。2020年、医療支出額153ドル、総支出額1,353ドル。2021年、医療支出額168ドル。2022年、医療支出額189ドル、総支出額1,308ドル。
1人当たりの年間総支出と医療支出(2014-2022)
出所: WHO Global Health Expenditure Database, GSO, B&Companyʼs Synthesis

また、ベトナム政府は、国内のニーズに対応するため2021年から2025年にかけて、医療分野への中期的な投資資金(インフラ、施設、設備の整備のため)として約10億ドルを計上しています。それらの背景から、ベトナムの医療機器市場は近い将来、大幅に成長すると見られています。2023年末時点で市場規模は16.7億ドルで、アジア太平洋地域で8番目の規模となっており、年平均成長率は8%、2026年7年末には21億ドルに達すると予測されています。

しかし、ベトナムでは増加するニーズに医療機器の供給が追いついておらず、多くの課題に直面しています。2022年、保健省(MoH)は、中央レベルの病院の90%で医薬品と医療機器の不足が発生しており、特に救急医療、集中治療、循環器科、外科用機器が深刻であると述べています。国産品が少ないことが不足の一因となっていますが、現地で製造されている製品は所謂 “ローテク製品”であり、地場企業の技術レベルが低く、ハイテク分野への海外からの投資も少ないため“ハイテク製品”の不足が深刻です。このため、総供給量の90%を海外からの輸入に依存せざるを得ない状況となっています。また、ベトナムの複雑な規制も影響を及ぼしています。ベトナムでは、保健省のインフラ・医療機器局(IMDA)に製品を登録することが義務付けられていますが、認証手続きが遅く、2024年には申請11,300件のうち約3,000件が未処理のまま放置されている状態となり、供給網に混乱を招いています。

2.医療機器市場のシェア

ベトナムにおける医療機器の生産は外国企業によるものがほとんどです。2022年の医療機器製造業の売上高上位10社はすべて外国企業であり、業界全体の売上高の約75%を占めています。その中でも、日本企業はベトナムに積極的に進出し、主要メーカーとなっています。一方、地場企業は輸入製品や外国企業との競争において、大きな課題に直面しています。保健省によると、地場メーカーは主に中小零細企業であり、研究開発投資やハイテク技術を用いた生産能力に限りがあるようです。また、輸入製品の場合、海外メーカーは自国からの補助金を受けていることもありますが、地場メーカーの場合、原材料にかかるベトナムの高い輸入関税がかかるため、コスト削減が難しく、苦戦を強いられています。

医療機器の輸入では、ベトナムは主に中国、韓国、日本、ドイツ、米国から輸入に頼っており、2023年にはプラスチック製医療器具と医薬品(治療または予防に使用)の輸入総額の3分の2をそれらの国が占めています。日本は、医療針、ハイテク医療機器、歯科製品などの先進的な医療機器の供給国として大きく貢献しています。

主な医療機器メーカー(2022)

Sonova Operations Center Vietnam Co., Ltd.
国籍:スイス
所在地:Binh Duong
純収益 (10億VND):8,516

Terumo BCT Vietnam Co., Ltd.
国籍:日本
所在地:Dong Nai
純収益 (10億VND):4,633

Terumo Vietnam Co., Ltd.
国籍:日本
所在地:Ha Noi
純収益 (10億VND):4,181

Hoya Lens Vietnam Co., Ltd
国籍:日本
所在地:Binh Duong
純収益 (10億VND):3,337

Omron Healthcare Manufacturing Vietnam Co., Ltd.
国籍:日本
所在地:Binh Duong
純収益 (10億VND):2,896

B.Braun Vietnam Co., Ltd.
国籍:マレーシア
所在地:Ha Noi
純収益 (10億VND):2,811

Asahi Intecc Hanoi Co., Ltd.
国籍:日本
所在地:Ha Noi
純収益 (10億VND):1,830

Matsuya R&D (Vietnam) Co., Ltd
国籍:日本
所在地:Dong Nai
純収益 (10億VND):1,573

Mani Hanoi Co., Ltd.
国籍:日本
所在地:Thao Nguyen
純収益 (10億VND):1,292

Nikkiso Vietnam, Inc.
国籍:日本
所在地:Ho Chi Minh City
純収益 (10億VND):1,110

製品カテゴリー・生産国別の医療関連製品輸入状況(2023) 単位: % 
100%=64億ドル

製品カテゴリ—別グラフ。プラスチック製医療器具 37.7%。医薬品 28.5%。レンズ、プリズム、ミラー 4.9%、医療、歯科機器 3.4%。 医療針、カテーテル、カニューレ 2.7%、インプラント 2.3%、その他 20.5%
出所:Trade map, B&Companyʼs Synthesis
生産国別グラフ。 中国 32.1%。 韓国 10.3%。日本 7.8%。 ドイツ 6.5%。 アメリカ 5.8%。 その他 37.5%。

日本からの輸入額が多い医療機器(2023) 単位: %、百万ドル

医療針 52% 169百万ドル。X線用フィルム 47% 36百万ドル。電子診断装置 43% 35百万ドル。CTスキャン 24% 32百万ドル。歯・骨のフィラー 35% 24百万ドル。光学顕微鏡 27% 24百万ドル。筒状の金属針 26% 4百万ドル。心電計 33% 3百万ドル。歯科用ドリル 45% 2百万ドル。
出所:Trade map, B&Companyʼs Synthesis

3.ベトナムの医療機器分野への進出における事業機会と課題

ベトナムの医療機器市場は発展し続けており、日本企業にとっても輸出や現地製造による事業拡大の可能性があります。

輸出に関しては、日本は先進的な医療機器の主要供給国であり、複数の分野で市場シェアを独占しています。日本の機器は、中央レベルの公立病院や専門病院で広く利用されており、日本の医療機器に対するベトナムでも高い評価を受けています。また、ベトナムと日本が2008年に経済連携協定(VJEPA)を締結し、日本製品に0-25%の優遇関税が適用されるようになったことも有利に働いています。

日本政府から中央レベルの病院への医療機器の引き渡しの様子
出所: Vietnamplus

外国直接投資に関しては、政府は国内での医療機器の生産を促進するための環境整備をすすめています。先日、ホーチミン市は2030年に向けた製薬産業発展のための取り組みと2045年までのビジョンを発表しています。この取り組みは、医薬品および医療機器製造専門の産業クラスターを構築し、サプライチェーンを強化することで、外国からの投資を誘致することを目的としています。また、保健省は、国内で製造された医療機器の販売支援政策や枠組み策定、公立病院向けの入札規制を緩和するなどして国内生産を後押ししています。

ベトナムの医療機器市場には多くの可能性がある一方で、多くの課題・障壁もあります。まず第一に、政府は安全性確保のため、医療機器の販売・流通に厳しい規制を課しています。企業は、製品の分類に応じて、保健省のインフラ・医療機器局(IMDA)または各省の保健局に製品を登録することが義務付けられていますが、完了までに2~3年もかかることもあります。

次に、医療機器を輸入するには輸入ライセンスまたは販売許可(marketing authorization)が必要とあり、これらは在ベトナムの法人でなければ取得できません。そのため、日本企業はベトナムに拠点を設立するか、地場の代理店を通じて製品を販売する必要があります。

最後に、工場の設立、生産ライン整備に多額の先行投資が必要となります。さらに、研究開発や生産費用、上述の販売認可の取得など多くの時間と費用がかかってきます。事業を成功させるためにも、現地の課題、障壁をきちんと把握することが必要です。

ベトナムには多くの課題もありますが、日本企業にも事業機会が見込まれます。この機会にベトナム進出を検討されてみてはいかがでしょうか。

Tokyo SMEサポートデスクベトナムでは、都内中小企業の皆さまのベトナム展開を支援しています。ご利用を心よりお待ちしております。

【執筆】Tokyo SMEサポートデスクベトナム受託事業者 B&Company株式会社

<ASEAN通信からの転載記事>

関連する支援

Tokyo SMEサポートデスクベトナム