
インドネシアにおける予防医療とフィットネス需要の高まり
インドネシア 2025.3.13


1.インドネシア人の健康意識の向上
インドネシアでは近年健康意識の向上に伴い、予防医療とフィットネスの需要が急速に高まっています。経済成長や都市化の進展により、生活習慣病のリスクが増加しており、それに対する対策として運動習慣の見直しや健康診断の受診が促進されています。
2014年から導入されたインドネシアの国民健康保険制度は赤字が続いており、政府としても国民の健康を促進し、医療費による財政の圧迫を改善したいと考えています。
健康意識が向上する一方で、ライフスタイルや食習慣の変化により、インドネシアの肥満率は近年大幅に増加しています。インドネシア保健省のデータによると、2023年には18歳以上の成人の約23.4%が肥満とされています。この増加は急激で、2007年には成人の肥満率はわずか10.5%でしたが、2018年には21.8%に増加し、2023年にはさらに上昇しました。また、肥満の有病率は男性よりも女性の方が高い傾向にあります。2023年のデータでは、女性の肥満率は31.2%、男性は15.7%となっています。肥満は冠状動脈性心疾患、高血圧、糖尿病などの慢性疾患のリスクを高める可能性があります。そのため、健康的な食生活を心がけ、定期的に運動を行い、アクティブなライフスタイルを維持することが肥満の予防や関連する合併症を防ぐために重要です。
近年ではCar Free Day(カーフリーデー) という歩行者天国のイベントも毎週日曜日に各地で開催されており、この日は特定の道路が車両通行禁止となり、市民はウォーキング、ジョギング、サイクリングなどを楽しむことができます。大気汚染の削減に貢献しながら健康促進を行う目的で政府主導で行われています。
2.予防医療の重要性と現状
インドネシアでは糖尿病や高血圧などの生活習慣病が社会的な課題となっています。健康的な食事や運動習慣などの一次予防に対する意識は高まりを見せていますが、健康診断やがん検診、遺伝子検査などの二次予防については未だ国民の意識は低いままです。健康診断の受診率は2017年のデータでは定期的な健康診断の重要性を認識しているインドネシア国民は約20%にとどまっています。これに対し、インドネシア政府は健康診断やワクチン接種の普及等を進めており、2025年2月からは早期死亡を防ぐために全ての国民を対象に、誕生日に無料の健康診断を提供するプログラムを開始しました。このプログラムには3兆ルピア(約279億円)の予算が投じられ、血圧測定や心疾患・脳卒中リスクの評価、視力検査などが検査に含まれています。初年度の目標は1億人の受診とされています。この取り組みにより、国民の健康診断の受診率が大幅に向上し、早期疾病発見が可能になることで、インドネシア国民の平均寿命の延長が期待されています。
3.フィットネス市場の拡大
都市部を中心にジムやフィットネスクラブの利用者が増加しており、特に若年層を中心に運動習慣が広がっています。インドネシアのジム、健康・フィットネスクラブ市場は2023年には3億ドルにまで達しました。高所得者層向けの高級ジムから、手頃な価格のフィットネス施設まで、多様な選択肢が登場しています。
例えば、FIT HUBはインドネシア発のスタートアップで、2025年2月現在では25都市で100店舗以上のトレーニングジムを展開しています。月額は契約期間が長いほど安くなり、半年契約の場合、1ヶ月の会費は325,000ルピア(約3,000円)とリーズナブルな価格です。インドネシアではジムの会員費が高額で、質の高い施設へのアクセスが限られていることが大きな課題でしたが、低・中所得層でも利用しやすい価格設定を強みに、インドネシアにおける肥満率の増加に対応し、フィットネスの「民主化」を目指しています。

一方高価格帯のフィットネスクラブも拡大が進んでおり、ヨガやピラティスのクラスが急増しています。例えば、Pilates Rebarという富裕層華人の多いPIKエリアでスタートしたピラティススタジオは3年間で10店舗へ拡大しました。費用は12回で3,600,000ルピアで1レッスンあたり約3,000円ですが、会員はコンスタントに増えており、着実に店舗を増やしています。

また、オンラインフィットネスの浸透も進んでおり、YouTubeや専用アプリを活用したオンラインワークアウトも人気を集めています。
4.日本企業の対応と機会
インドネシアの予防医療とフィットネス市場の拡大に伴い、日本企業にも新たなビジネスチャンスが生まれています。日本の高度な医療技術や検診システムを活用し、健康診断や遠隔医療の分野での市場参入や、健康食品などの分野で日本企業の品質やブランド力を活かした展開、また、健康管理アプリやウェアラブルデバイスがインドネシア市場の需要増加に対応できる可能性があります。
また、フィットネス市場においては、人口あたりの施設数はまだ少なく、これまで都市部が中心だったフィットネス市場が地方にも広がっていくと予想されます。また、テクノロジーを活用した健康管理や、個人に最適化されたトレーニングプログラムの開発が進むことで、市場の多様化・拡大が期待されるほか、関連したスポーツウェアやフィットネス機器市場も期待されています。
このように医療技術やテクノロジーを活かすことで、日本企業にとっても市場参入の好機となるでしょう。なお、進出の際にはインドネシア企業と協力を行うことで、より効果的な市場展開が可能といえます。ぜひこの機 会に参入を検討されてはいかがでしょうか。
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【執筆】Tokyo SME サポートデスクインドネシア受託事業者 株式会社インドネシア総合研究所
<ASEAN通信からの転載記事>