東京都発!「勝てる技術」を、タイの現場へ—現場主義フィジカルAI、進出の裏側
タイ 2026.9.30
タイの製造現場では労働力不足や品質向上へのニーズの高まりから、人工知能(AI)の存在感が増している。そうしたなか、日本企業の高度な技術力に注目が集まっている。現場主義AIを武器に、今年5月、バンコク駐在員事務所を構えたHutzper Inc.(以下、フツパー)もその好例だ。準備から半年足らずで事業を軌道に乗せた背景には、東京都中小企業振興公社(以下、Tokyo SME)タイ事務所の伴走型の支援があった。同所の手厚いサポート体制と、進出のリアルに迫る。
次世代ビジネスの波を事業化へ導くTokyo SMEの支援
東京企業の海外展開支援を手がけるTokyo SMEタイ事務所は今年度、「食品」「AI・デジタルトランスフォーメーション(DX)」「グリーントランスフォーメーション(GX)」を重点分野に据える。生産人口減少や脱炭素など、タイの社会課題解決に直結するテック企業の支援を強化する狙いだ。
特徴的なのは分野ごとに支援のアプローチを変えている点だ。AIやDX、GX分野では日系企業のコアな技術をソリューション化する実証実験(POC)のパートナー探しを支援。一方、食品分野では高付加価値化という現地ニーズに応える日本企業を紹介する。その取り組みの一環として多数のイベントを主催しており、今年7月にはタイの最新情報を届ける機会として「Tokyo SME BusinessWeek 2026」を開催した。
重点分野を軸に刷新したBusiness Week2026の成果
今年のビジネスウィーク(オンラインセミナー)は従来の実務相談型の内容から、次世代ビジネス動向へテーマを刷新。先述の重点分野を軸に、①バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済と環境政策、②AI・DXと進出企業の実践知、③人材採用と外資規制の実務、④アグリテック活用をテーマにオンラインセミナーを開催した。開会挨拶で、同所の清水翔太所長は「進出前の企業やスタートアップに向けて、次世代トレンドから日本企業の勝ち筋などタイビジネスの最新動向を届けたい」と意気込みを語った。
4日間の配信では、前年比約1.8倍となる300名が視聴。参加企業の関心の高さがうかがえただけでなく、配信を通じて具体的な経営相談へとステップを進める企業が相次いだ。「資源大国タイ×技術立国の日本」という同所のメッセージのもと、2日目に登壇したのが、フツパータイ駐在員事務所の染谷康貴CEOである。
フツパーのタイ進出を支えるタイ事務所の伴走支援とは
フツパーは、製造業向けの外観検査や人員配置、行動分析などのAIを展開する2020年創業のスタートアップだ。「PoCで終わらせない」を信条に、現場型フィジカルAIを主力事業とする。日本国内の顧客250社のうち、約8割を製造業が占める。
同社のタイ進出のきっかけは、2023年にTokyo SMEの支援を受けて出展した展示会「METALEX」での手応えだ。その後、2025年12月に東京証券取引所グロース市場上場を経て、2026年初頭から進出準備を開始。事務所開設前のタイ人スタッフ先行雇用など現地特有のルールも、同所の専門家のアドバイスを受けながら、オフィス契約や採用面接を行い、開設にこぎつけた。
現地で見えてきたのは日本の想定とは異なるニーズだ。人員配置AIは人手不足対策ではなく多人数管理の負担解消として、行動分析AIも効率化ではなく安全確保としての需要が高い。提案時に「マネジャーだけでなく、現場スタッフも聞きにくる熱量に感動した」と染谷氏は話す。一方で、通訳を介す商談は通常より時間がかかるというが、「タイではKNOW HOW(ノウハウ)よりKNOW WHO(誰を知っているか)が大事」と顧客との関係構築の重要性を強調する。
こうした商談機会もTokyo SMEタイ事務所の支援によって得られたものだ。今年1月に同所が開催した「日タイ企業交流会」で日系企業34社、6月にタイ国家イノベーション庁(NIA)が開催したスタートアップ・イノベーション関連イベント「SITE」でタイ企業16社の紹介を受け、「親身なサポートはスタートアップにとって心強い」と同氏は語る。
新たな顧客との接点を広げ、タイでの勝ち筋を見つける
現在、フツパーはタイに加え、ベトナムやチリの製造業とも取引の幅を広げているが、「最初の拠点であるタイで、しっかりと勝ち筋を見つける段階」と位置づける。今後は現地法人化に向けてBOI(タイ投資委員会)申請を視野に入れており、同所の支援を通じ、専門家やコンサルティング会社から助言を受けている。
さらに、Tokyo SMEが7月に東京で開催した「TOKYO ×THAILAND マッチング商談会」にも参加。同氏は「タイの食品企業とのマッチングをサポートしてもらい、食品製造の現場を知ることができた」と、新たな手応えを掴んでいる。
Tokyo SME Business Week 2026登壇者とテーマ
| DAY1︓BCG編 |
|---|
| タイのBCG経済と環境政策を解説。 また、日本企業の成功事例と法改正を紐解きます。 ・Ms.Sithee Tanboonteck/BOI(タイ投資委員会) ・梅山 研一氏/Green & Blue Planet Solutions Co., Ltd. |
| DAY2︓DX・AI編 |
| タイで加速するAI導入と日系企業の動向を解説。第2部では「現場主義AI」が製造現場にもたらす変化と活用の舞台裏を紹介。 ・吉越 廉朗氏/YAMADA Consulting & Spire (Thailand) Co., Ltd. ・染谷 康貴氏/Hutzper Inc. |
| DAY3︓タイ人材採用・法務戦略編 |
| 日本企業がタイ進出する際に欠かせない現場の労働市場と外資規制の要点を解説。 ・小田原 靖氏/PERSONNEL CONSULTANT MANPOWER(THAILA)N CDO., LTD. ・千葉 広康氏/One Asia Lawyers(Thailand)Co.,Ltd. |
| DAY4︓TIRI・技術動向セミナー ~アグリ技術編~ |
| アジアモンスーン地域の農業課題に対し、日本の先端技術をどう活用するかを深堀り。 金森 紀仁氏/国立研究開発法人国際農林水産業研究センター東南アジア連絡拠点 渡辺 茂幸氏/東京都立産業技術研究センター バンコク支所 |
セミナーのアーカイブ動画はこちらよりご視聴いただけます。
https://thai.tokyo-sme.com/business_info/movie/
自走まで一貫したTokyo SMEの支援体制
進出前の市場調査や戦略・戦術アドバイス、進出準備、マッチング商談、成約まで—企業が自走できる体制を築くまで伴走する。これは日本側とタイ側の両拠点が連携するTokyo SMEならではの強みである。タイ現地の商習慣を踏まえたローカライズ支援や、弁護士、会計士など専門家への無料相談も実施し、同所開設以来、経営相談は3,570件、ビジネスマッチングは6,121件にのぼる。フツパーのように初進出となる企業にとってこのような「伴走者」の存在は頼もしい。
東京都内に事業所を構える中小企業であれば、業種を問わず、すでに海外進出している企業も支援対象となる。日本の「勝てる技術」をタイ市場にフィットさせ、共に成長を目指す。同所の支援は、両国のビジネス協業の機会を加速させていく。
【執筆】(公財)東京都中小企業振興公社 タイ事務所(Tokyo SME Support Center Thailand Branch Office)