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令和5年度

成功事例紹介
成功事例紹介

急成長するアジアで「安全」を売る仕事を

ヘルメットや安全帯など、産業用安全衛生保護具を開発・ 販売する谷沢製作所。国内市場の縮小が進む中、経済成長 著しいインドネシアで新たな市場開拓に挑む。

株式会社 谷沢製作所

代表取締役社長 谷澤和彦

海外拠点設置戦略支援

市場規模が拡大するアジアに活路を見出す

労働者の生命と安全を守る保護具のメーカーとして、日本全国に営業所を展開する谷沢製作所。2023年からヘルメットの製造工場の設立を目的に、インドネシアへの進出を計画している。将来的に、日本の人口が減少し、工事や製造案件も少なくなっていく可能性を踏まえ、経済成長が目覚ましく、人口の増加に伴ってインフラなどの投資が活発化していくインドネシアで新たな事業の柱を立てようという狙いだ。

この海外事業展開の話は、トップダウンではなく、取締役たちから上がってきたという。提案を受け、谷澤和彦社長は「これから日本市場は縮小していくと社員にも常々言ってきた。成長しているアジアで事業展開しない手はない」とGOサインを出した。

公社の支援でトラブルも乗り越えられた

海外展開を考えるにあたっては、これまでも他の案件で支援を受けていた東京都中小企業公社に相談した。1年目は市場の規模や事業の可能性を調査。生産パートナーの開拓や、販売先の候補を確認した。現地調査を行い、日系企業のパートナーでは生産コストが合わないと、現地のローカル企業と連携することにした。

ヘルメットを手にする谷澤社長

2年目にはローカル企業の開拓や、生産パートナー候補の発掘に取り組んだ。商慣習の違いなどから、交渉は苦戦したものの、候補企業の発掘を行うことに成功。工場設立に向けて、コンサルタントの発掘や、現地人材の確保に取り組んだ。現在は6月の工場操業に向けて、組織づくりや販路開拓を進めている。

「我々には経験も知見も人脈もなかったが、現地の情報や企業、人材について教えてもらい、安心して進めることができた。また、現地でトラブルはつきものだが、頼れるところがあるのは心強かった。公社の支援がなければやらなかったと思う」(谷澤社長)

自社の強みを海外で生かすために

課題は、労働現場での安全に対する意識の違いだ。労働者の安全が重視され、高品質の身体防護具を身につける日本に対し、インドネシアのヘルメットは、雑貨に近い扱いの安価なものだ。谷澤社長は、「向こうと同じような商品を、同様に安く売るのでは意味がない。我々は単にモノを売るのではなく、安全を売っている。その意識を浸透させるのは難しいが、いずれアジアも必ずその方向に向かう」と考えている。1年目の調査段階で、長期的に見れば現場作業で安全性が求められる方向性は間違っていないと確信できたこともあり、その足取りに迷いはない。

海外での事業運営は苦労も多いが、「人口が増加し、日本から距離も近く、経済成長を続けるアジアを黙って見ていていいのか。自社の事業で培ってきたものがあるなら、アジアにも目を向けたほうがいい」と谷澤社長。自社の力を発揮するために、技術を持つ現地のパートナー企業と組み、互いの強みを生かしながら安全や防災面で貢献していくことが目標だ。

我が社の海外事業展開ストーリー

事業計画は現地の情報や状況に基づき柔軟に判断

「当初は、自社製品であるヘルメットとフルボディハーネスをミックスした事業計画を策定していました。しかし、日系の金属加工業者や現地の卸売業者等から得た情報では、フルハーネスは安価な中国製品との競合が予測され、難しいと判断。自社の強みであるヘルメットに集中して市場展開を図ることにしました」

工場の設置場所は、コストや現地でのフォロー体制を総合的に考えて決定

「工場の設置場所は最大の難点でした。当社が海外慣れしていないこともあり、現地で日本企業をフォローできる体制と負担できるコストをすり合わせて現実的な折り合いをつけ、結果として中小企業向けレンタル工場に決定しました。設備についても、投資を最小にするために、協力外注を最大限活用する方針を定めて導入計画を進めています」

情報は複数人で集め、複数のソースに確認して正確さを確保

「日本と現地とでは聞いた情報が異なっていたり、現地で聞く情報でも、日本人から聞いたか現地の人から聞いたかによって違いがありました。『百聞は一見に如かず』、自分で確かめたものがすべてと考え、同じテーマを複数のソースに確認したり、情報収集を複数人で行っ て意見を合わせておくことで、正確な情報を集めることができたと考えています」

人材の確保には慎重さが肝要

「現地での人材採用にあたっては、公社から人材派遣業者をいくつか紹介してもらいました。面接なども行いましたが、外国人人材の採用の経験も少なく、インドネシア拠点の運営において必要な人材像の特定は難しかったです。現地の規則(法律)で人事のポジションは現地人材と定まっていることもあり、選定は慎重に行いました」

収支計画は長期的な視点で考え、 無理をしないこと

「計画策定の最初は夢想的になりがちなものですが、我々は早い段階からコストに関しては厳しい認識を持っていました。ただ、当社の既存業態がかなり長い単位でしか変化しないという特徴があるため、短期間での投資回収ではなく、長期的に現地経済に浸透することの意義を社内でも理解してもらえました。おかげであまり無理な調整をせずにすんでいます」

現地販売店にて