令和5年度


ベトナム人社員と共に 現地での事業展開に挑戦

金属部品の製造や工業用自動化システムの一貫製造を行う 河政工業。自社で育て上げたベトナム人社員と共に、満を持してベトナムでの拠点づくりに取り組む。
河政工業株式会社
代表取締役 中瀨 勲

海外拠点設置戦略支援
ベトナム人社員の成長が海外展開を後押し
河政工業が主力業務であるエンジニアリング事業で 海外進出を考え始めたのは 2013年、国内展示会への出展がきっかけだった。海外でも自動化システムのニーズがあると手ごたえを感じた中瀨社長は、その後、タイの現地企業と連携し、海外への販路を構築。2024年3月にベトナムに工場を設立した。
海外展開を決意した理由について、中瀨社長は「海外で生産するほうがコスト的に有利だし、会社のキャパシティも広がる。また、当社のベトナム人社員が、現地を任せられるほどに成長してきたこともあり、海外に出る良いタイミングと判断した」と語る。
公社の多様な支援を活用、ステップを踏んで海外へ
河政工業はこれまで、「海外販路開拓支援」「海外企業連携プロジェクト事業」など、東京都中小企業公社の事業を活用して、海外展示会への出展や現地での販路開拓などを進めてきた。こうしたステップを順当に踏んで、海外での自社製造拠点の設立へと至ったのである。
支援の開始は2022年秋。まずは、公社ハンズオン支援による専門家の指導を受けてビジネスプランを作成した。2023年2月には現地に出張し、当初の事業規模に見合う小さなスペースのレンタル工場を探索するため、工業団地内の日系およびローカルレンタル工場の訪問調査を実施。同時に、現地の精密加工部品業者を開拓するため、訪問調査や情報交換も行った。
支援2年目となる2023年6月には、再び現地に出張し、1年目に絞り込んだレンタル工場リストから候補工場を訪問調査。しかし、当初契約予定だったレンタル工場が土壇場でキャンセルに。急きょ、公社から日系不動産業者を紹介してもらい、他の工場を探して交渉することとなる。交渉は難航したが、中瀨社長が直接現地に飛んで直談判を行い、無事に契約が成立した。
その後、レンタル工場のリフォームを実施すると同時に、会社の登記を申請。現地の人材に面接を行うなど準備を進め、4月の事業開始が見えてきた。
「初めての海外拠点立ち上げとなると、ゼロから調べなければならないが、公社の支援のおかげで、会社設立までのスケジュールや必要書類、手続きなどをすべて最初に教えてもらえた。一緒になって進めてもらえたからこそ、設立できたと思う」(中瀨社長)

子会社を育てて、さらなる事業拡大を
自動機械の製作には、設計、加工、組み立て、ソフト、電気、調整などの工程があるが、ベトナム工場にはそのうち機械の加工と組み立ての部分だけを切り出して移管する。当面は、設計や調整などほかの業務を日本で実施し、日本国内に向けて販売するが、「いずれベトナムの会社がスキルをつけ、社員も増えれば、ベトナムで機械を完成させ、そこから海外への輸出も考えている」と中瀨社長。信頼できるベトナム人社員と手を携え、海外での事業拡大に向けて着実な歩みを進めている。
我が社の海外事業展開ストーリー
事業展開国は、ベトナム人社員に現地を任せたいという思いで決定
「当社にはベトナム人の社員が4人おり、そのうちの1人が入社7年目を迎えます。彼を雇用したとき、すでにベトナムへの事業展開計画は頭の中にありました。 彼が成長し、そろそろ現地を任せられそうなタイミングで公社から海外展開のお声がけをいただき、新たな展開へのチャレンジを決意しました」
海外展開はステップを踏んで公社の支援をフルコースで活用
「2013年に展示会でトルコの企業から声をかけられて以降、海外展開をずっと考えてきました。トルコは国内情勢により断念しましたが、その後、公社の海外販路開拓や海外企業連携支援などの支援を受け、海外展示会への出展、商談会への参加、現地企業とのマッチングなどをサポートしていただいた結果、海外への販路が開け、ベトナムに拠点を持つに至りました。公社の支援をフル活用してステップを上がってきた先に今があります」
レンタル工場はローカルに決定したが最初は日系で考えるのも一つの方法
「レンタル工場は日系だと安心ですが、賃料と運営費が高い。我々も当初は日系とローカルの両方で探しましたが、工場の規模や立地を考え、最終的に首都ハノイに近いローカル工場に決定しました。ベストな決定と思っていますが、交渉では苦労しました。工場の空き状況などのタイミングや条件にもよりますが、初の海外拠点であれば、日系工場で考えるのもありかなと思います」

海外での交渉では、契約書を一言一句確認し、裏付けを取る
「一番苦労したのはコミュニケーションです。ローカル工場のオーナーと気持ちが通じず、こちらが言っていることと、相手が言っていることが合っているのか、その確認が大変でした。言っていたことが簡単にひっくり返るので、交渉時には言葉だけをうのみにしないこと。契約書を交わすときは、これが今後のルールになると考え、内容を一言一句確認することが大事です」

海外展開するなら社長の意志がぶれないことが大事
「現地への出張は、2年目の実行支援で 2回までと決まっています。しかし、契約したはずの工場を貸してもらえないことになり、社長の私とベトナム人社員で急きょ単独で現地に飛び、公社のサポートも受けながら別の工場との契約にこぎつけました。ピンチのときには心が折れがちですが、やるぞと決めたらぶれないことです。社長が意志をしっかり持てば、会社はできていくと思います」