令和6年度


ベトナム人技術者と新たな市場開拓に挑む

1919 年に創業し、電力変換システムの基幹部品である変成器製品製造をメインに手がけるメーカー。自社で育成したベトナム人技術者と共に、ベトナムでの新たな市場展開を試みている。
<活用した支援:海外進出サポート支援>
東京精電株式会社
代表取締役社長 岩本千章

目 次:
- まずは現地に駐在員事務所を開設
- 2年余りの市場調査で手ごたえを得て
- 標準品では厳しい価格競争がネック
- 中小企業が海外に出るステップ
- 我が社の海外事業展開ストーリー
- まとめ
- 関連する支援
まずは現地に駐在員事務所を開設
東京本社と長野県上田市の工場を拠点に、変圧器、電源装置、試験機器、負荷装置、シャントなどの設計・製造・販売を手がける東京精電株式会社。設計から製造までの一貫生産体制を活かし、顧客のニーズに合わせた仕様にカスタマイズ設計で応える技術力が強みだ。ただ、近年は日本人学生の理系離れなどもあって、技術者の採用がむずかしくなっており、2012 年からベトナム人技術者の採用と育成に取り組んできた。2019年、その技術者の一人であるハオさんが、ベトナムに帰国することに。そこで、自社の商品知識もあり、設計もできる技術力を持つ彼を社長として、現地法人を立ち上げようという話が持ち上がり、公社の支援を活用することとなった。
しかし、現地での売上げの見通しが立たず、事業計画書の作成で難航。公社から「現地法人の前に、比較的設立が容易な駐在員事務所を立ち上げてはどうか」と助言を受け、2022 年1 月、ベトナムの首都ハノイにハオさんを駐在員として事務所を開設した。

2年余りの市場調査で手ごたえを得て
駐在員事務所では、販売など直接的な事業活動はできないが、市場調査という形での取引先への訪問は可能だ。そこで、日系商社に間に入ってもらい、新規顧客の開拓に向けて取引先への訪問やカタログ配布、メーカーへの技術提案などの活動を行ってきた。
事務所を構えて2 年余りたった今、岩本千章社長は「ベトナムの大手自動車メーカーへの技術提案や世界的に有名な重工メーカーへの試験設備の提案など、積極的に調査範囲を広げています。日系商社も当社のデモ機を購入してデモを行ってくれ、今ではローカルの会社にも少しずつ名前が知られるようになってきました」と手ごたえを感じている。
標準品では厳しい価格競争がネック
一方、ベトナムでの事業の大きな課題は価格競争だ。同社のメイン製品でもある変圧器は、台湾や中国からの輸入品や、現地のメーカー品とは「ゼロが一つ違う」といわれるほど価格差が大きい。そのため、変圧器のように大きな設備投資をしなくても作れる製品は、いずれ現地で生産できる体制を整えたいという。
こうした標準品の場合、価格勝負では太刀打ちできないため、「いかにプラスアルファの技術力で、ひとひねりある商品を提案できるか。当社はカスタマイズ設計が売りなので、そこで他社との差別化を図りたい」という。ハオさんは製品の設計からできる技術者で、ベトナム語で技術的な対話ができるのも強みだ。
中小企業が海外に出るステップ
駐在員事務所の期限は5 年間と決まっているため、次の展開も見すえている。現地法人を立ち上げる場合、資本金を相当額積む必要があるが、現状ではそれだけの売上げを立てるのは難しい。しかし、ベトナムの成長性は魅力的である。そのような折、ハオさんが自身の会社をベトナムで設立する計画があるという。「 ローカル会社ならば資本金は少額で手続きも簡便。今後、彼の会社に日本から投資をしようと考えています」。
「 当社のような中小企業が海外に打って出る場合、いきなり現地法人を立ち上げるのはハードルが高い。しかし、駐在員事務所であれば、無理なくステップが踏めます。公社の支援を受けて、こうした提案をいただけたのは本当に大きかったですね」と岩本社長。かつて、日本でともに徹夜しながら製品を作った仲間であるハオさんと、新たな市場開拓に挑んでいる。

我が社の海外事業展開ストーリー
ベトナム人雇用は、紹介してもらう仕組みを確保
「当社の監査役がベトナムで簿記を教えており、たまたまそこをシェアしている日本語学校が人材派遣も行っていました。コロナ禍でその学校が危機に陥ったとき、当社含め日本企業が数社集まって理事会を立ち上げて支えたのが縁となり、以来、優先的に人材を紹介してもらっています。技能実習生の場合は、日本語が全くできない場合もありますが、この派遣会社の人材であれば基礎的な日本語ができるので、大変助かっています」

技術を身に付けた人材の育成が強みに
「ベトナム人はまじめで国民性も日本に近いと感じます。ただ、待遇の良い会社があるとすぐに移ってしまう。ハオさんが当社で9 年働いてくれたのは、ゼロベースから技術を学べることに魅力を感じたからだそう。当社もベトナム語で説明できる優秀な技術者がいることは強みで、まさにウィンウィンの関係です」
熾烈な価格競争を乗り越えるために

「標準品の場合、価格では台湾や現地での生産品にかないませんが、安全面では日本メーカーに圧倒的な利があり、展示会では“ 感電ゼロ” を売り込み文句にしたことも。現地にはないカスタム品など、当社の強みを活かした勝負をしたいです」
時系列
2012年 ベトナム人技術者を2人採用
「当初から1 人は10 年たったら帰国して事業を始めたい希望があり、海外展開の可能性も考えていた
2022年 1月 ベトナム駐在所を設立
ベトナムを拠点にアジアでの市場調査の実施と新規顧客開拓を進める。
2025年 5月ごろ 駐在員が自身の会社を設立予定
まとめ
当公社の海外進出サポート事業では、タイ・ベトナム・インドネシアをはじめとするASEAN 現地での直接的・主体的なビジネス実行を目指す都内中小企業をサポートいたします。支援テーマは、営業・製造拠点の設置やサプライチェーンの見直しなど幅広く対応可能です。企業規模や成長ステージに合わせ、進出手法の検討から実施までトータルで支援します。(※直接貿易、間接貿易は当事業では対応していません)また、海外進出サポート事業のほか、海外販路開拓の支援や越境EC出品支援など、幅広い支援を行っております。
ご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。
お問い合わせ先:海外進出サポート事務局
TEL:03-5822-7241(代表)
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