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2026年10月15日

「使い方が分からない」を突破する
~ 中小企業がFTA(自由貿易協定)で後手に回らないための3つの事前準備ステップ

—「FTAを使えば関税が安くなるらしい」—

知ってはいても漠然とした認識のまま、一歩を踏み出せずにいる経営者・実務担当者は多いのではないでしょうか。私は、これまで何度もFTAをテーマにセミナーを開催していますが、毎回盛況で、関心の高さを実感しています。

しかし、日本貿易振興機構(ジェトロ)が輸出実績のある企業を対象に実施した2024年の調査によると、日本と協定が発効している国へ輸出している企業のうち、実際にFTAを利用している割合は、大企業の71%に対し中小企業は58%に留まります。

利用に踏み切れない最大の理由は、「社内に専門人材がいない」、「手続きが煩雑そう」という壁です。心当たりはありませんか。

RCEPやCPTPPといった大型経済協定が定着した今、これらの活用を前提とした提案・商談は着実に広がりつつあります。
海外の販売先から「FTA対応ができないなら他社に切り替える」と求められてから慌てて調べ始めるような「後手」の対応では、相手に主導権を握られかねません。

今求められるのは、「先手」の準備です。最終目的地である「原産地証明書の発行」を自社の武器にするため、実務の入口を3つの手順でお伝えします。

筆者プロフィール

笠島 信幸 / 公社 プランマネージャー

金融業界出身(ベトナム20年、香港3年駐在)。ベトナムを中心に、ASEAN各国への販路開拓あるいは進出を検討する企業を数多くサポート。

>笠島プランマネージャーの経歴をもっと知る

目次

FTA/自由貿易協定とは?

『FTA(自由貿易協定)』とは、特定の国や地域間で、物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃することを目的として定められた協定のことです。

幅広い経済関係の強化を目指し、FTAの内容に加えて、投資・人の移動・知的財産の保護や競争政策におけるルール作り等、様々な分野での協力の要素を含む経済関係の強化を目的とした『EPA(経済連携協定)』を、日本でも当初から推進されています。

*参照:外務省HP『我が国の経済連携協定(EPA/FTA)等の取組』別タブで開く

ステップ1~まずはここから!「HSコードの特定」と「FTA税率の確認」

最初のステップは、自社商品に関税の優遇措置が適用されることによりどれだけコストが下がるのか、その「インパクト」の把握です。自社商品の材質や用途が分かっていれば、難しい書類は不要です。

カギを握るのは世界共通の分類番号である「HSコード」です。

①ネット検索でHSコードを絞り込む

最近ではGoogleなど一般の検索エンジンで

「製品名+HSコード」

と入力するだけで、HSコード(上位6桁)候補の絞り込みが可能です。

②相手国の関税率を確認し、どの協定を使うか選ぶ

コード候補が分かったら、相手国の関税率をチェックします。
ポイントは、「複数あるFTAの中から、自社に最も有利な協定はどれか」を比較して選ぶことです。

例えばベトナム向けなら、日越EPA、日ASEAN EPA、CPTPP、RCEPといった4つの選択肢があり、同一品目でも関税が異なることがあります。

おすすめのツールは、JETROが無料で提供している世界標準の関税データベース「World Tariff」です。 「輸出先(相手国)」を選び、特定した「HSコード」を入力すれば、その国の通常の関税率(MFN税率)と、各種協定を適用したときの「EPA税率」が一覧表示され、どれを使うべきかが一目でわかります。

▶【参考】World Tariff:https://www.jetro.go.jp/theme/export/tariff/別タブで開く

💡ここだけは注意!HSコードの落とし穴

「よし、HSコードはこれだ!」と特定できたとしても、そこで終わらせてはいけません。ここで絶対に押さえておくべき原則があります。

それは、HSコードの最終決定権は、輸入国側の税関にあるということです。

日本側で正しく特定したつもりでも、現地税関が「うちの国ではこのコードとして扱う」と判断すれば、それが優先されます。特にアジア圏では、コード相違による貨物差し止めのトラブルをよく耳にします。

また、数年後の事後検認(輸入国税関が後から行うチェック)で相違が指摘され、追徴関税・延滞金を請求された現地の輸入者から、その補償を求められるケースも実務では起きています。

🛡️対策

事前にバイヤー宛に「当社調べのHSコード」を提示して確認を依頼するのが効果的です。その合意を記録に残しておけば、責任の所在が明確となります。

なお、確実にリスクを避けるには、バイヤー経由、現地税関の「事前教示制度」(税関に事前に文書で公式見解を求める制度)を活用しましょう。

▶【参考】事前教示制度(東京税関HP):https://www.customs.go.jp/tokyo/zei/jizenkyoji.htm別タブで開く

ステップ2:自社製品は本当に「日本製」か?~原産地規則の判定

HSコードと協定が固まったら、次は「原産地規則」を満たしているかを客観的データで判定します。つまり「これは日本製です」と言えるかを判定するルールです。

「自社工場から出荷するから日本製」、そう思っていませんか?

残念ながら、それは貿易実務では通用しません。海外原材料や部品が含まれる場合、協定ごとに以下の3基準で判定します。

1.材料のHSコードが変わったか(関税分類変更基準/CTC)

輸入した原材料を国内で加工、HSコードが変わったことで日本製と認める基準です。
※要求される変更基準は協定ごとに異なり、「類(2桁)の変更(CC)」が必要なケースから、「項(4桁)の変更(CTH)」、「号(6桁)の変更(CTSH)」で済むケースまで様々です。

2.どれだけ付加価値を乗せたか(付加価値基準 / VA)

製品の価格のうち、日本国内で生じた価値(人件費や技術、国内部品など)が一定の割合(例:40%以上)を超えている場合に認められる基準です。

3.重要な工程を行ったか(加工工程基準 / SP)

「特定の紡績を行う」など、協定で定められた加工を日本国内で行っていれば認められる基準です。

いずれの協定/基準を使う場合も、将来の輸入国税関からの「検認(事後チェック)」に備え、「なぜ日本製と言えるのか」を客観的に証明する「証跡」を残しておくことが重要です。

▶【参考】EPAの概要と原産地規則(経産省): https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/boekikanri/download/gensanchi/eparo.pdf別タブで開く

ステップ3:原産地証明書を発行し、商談を有利に進める着地点を見つける

原産地規則をクリアしたらいよいよ「原産地証明書」発行~交渉のフェースです。

ここで改めて意識したいのは、関税負担の軽減という直接的な利益を享受するのは、買い手である海外バイヤーだという点です。

証明書の発行手続き・リスクを自社が一方的に負担するのではなく、「実利の獲得」と「リスク防衛」をセットで提示するのが定石です。

関連コラム>

原産地証明とは?主な役割や種類、必要な手続きを紹介

原産地証明書の基本的な役割や種類、発行手続きの流れを分かりやすく解説し、海外輸出をスムーズに進めるためのポイントをご紹介します

【実利の獲得】関税還元のメリットを提示し「単価アップ」や「発注増」の交渉を

「原産地証明書の発行により貴社の関税負担が年間〇〇㌦軽減されます。その分、取引単価への反映(値上げ)、或いは、発注数量の積み増しをお願いしたい」と提示し、発行の手間やリスクに見合う実利を確保します。

⚠️あわせて押さえたい「実務リスク」管理

  1. 1)【機密の防衛】製造原価情報など機密情報は安易に開示しない
    バイヤーや相手側指定のフォワーダーから「確認のため」と製造原価や仕入れ先の開示を求められても安易に渡してはいけません。常時相手側に渡すのは「原産地証明書」本体のみで十分です。
    将来、バイヤー等から「現地税関から事後検証が入ったので原価資料を出してほしい」と言われた場合でも、慌てる必要はありません。RCEPなどの主要協定では、輸出者が輸入国税関宛てに直接(または日本の商工会議所等を通じて)資料を提出できる仕組みがあります。「機密情報は当社から税関へ直接提出する」と対応することで、自社の機密データを確実に保護できます。
  2. 2)【物流の安全】もし古い商慣習の「FOB」で契約しているなら
    コンテナ輸送で今でも「FOB(本船渡し)」条件を使い続けているのであれば、リスク管理の見直しが必要です。コンテナ輸送でFOBを使うと、貨物を引き渡した後の港湾保管中のリスクまで輸出者側が負うことになります。ここは国際ルールで推奨されている「FCA(運送人渡し)」などへの変更を提案し、責任の切り分けを明確にしておきましょう。

おわりに:リスクを恐れず、FTAを戦略的に使ってみては?~まずは「主要輸出品目」から

冒頭に申し上げたセミナーへの関心の高さは、現場の課題認識の現れだと思います。あとはFTAを「面倒な手続き」ではなく、商談を優位に進めるための「営業戦略の武器」として使いこなすだけです。

まずは自社の「主要輸出品目」を1つピックアップし、関税率や原産地規則の確認から始めてみませんか?

海外バイヤーの要請に慌てる「後手」の対応から、自ら取引の価値を高める「提案型(先手)」へ。

その一歩が、貴社の貿易戦略を大きな転換点となるはずです。

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※注:

  1. 1.本コラムでは、読みやすさを優先し、投資やルール作り等を含む経済連携協定(EPA)を含めて「FTA」と総称しています。
  2. 2.また、原産地証明書の具体的発行手続きについては省略しておりますので、実務あたっては関連コラム『原産地証明とは?主な役割や種類、必要な手続きを紹介』をご確認ください。

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