海外展示会に出展予定の方必見!展示品・サンプルの持ち込み方

海外展示会へ出展する時、比較的小さな商品であれば、展示品やサンプルを
『ハンドキャリー(=機内持ち込みや預け荷物)』
とすることで、輸送費用の削減や輸送中の紛失や破損トラブルを回避できやすくなります。
一方、ハンドキャリーといえども、通関が必要な正式な輸出行為ですので、適切な準備と対応が求められます。
今回は、展示会出展時における展示品やサンプルのハンドキャリーについて、その方法と通関手続きの注意点を整理します。
通関とは
通関とは、貨物を輸出入する際に、法令順守を税関が確認し、許可を与える手続きで、関税法第67条に規定されています。原則として所定の書式により税関に申告します。
日本出国時のハンドキャリーの通関方法
ハンドキャリーで海外に展示品やサンプルを持ち出す場合、大きく分けて「旅具通関」と「業務通関」の2種類があります。
「旅具通関」とは
旅具通関は、出張者が自身の手荷物として機内持ち込みや、チェックイン・バゲッジとして空港カウンターで預ける貨物について、一定の範囲を定めて簡易な通関手続きを認める制度です。
対象は携帯品、職業用具、無償のサンプルや商品見本、宣伝用物品などであり、以下の要件を満たす必要があります。
- 無償であること(No Commercial Value)
- 総額が60万円相当以下であること(商業貨物の場合は30万円以下)
申告の流れ
申告は出張者が携行して申告・通関することが基本です。出国時に税関へ口頭申告することも可能ですが、証拠書類が残らないため、ビジネス目的で持ち出す場合は書面による申告をおすすめします。
その際には、税関様式C第5340号「輸出・輸入託送品(携帯品・別送品)申告書」を2部作成し、空港の税関窓口に提出します。
⚠税関職員による現物確認が求められることもあるため、貨物は提示しやすいように梱包しておきましょう。
併せて、インボイス(「No Commercial Value」「For Customs Purpose Only」「For Exhibition Only」「Not for sale」などと明記したもの)や、カタログ、商品リスト(写真付き一覧など)を準備しておくと、通関手続きがより円滑に進みます。
※インボイスは無償であっても、価格の記載が必要です。販売するとした場合の価格を書きます。
旅具通関が終わると、申告書の1通に税関印のある控えが返却されるので、必ず保管しておきます。これは帰国時の課税防止の観点で重要となります。
(参照:税関『7203 携帯品・別送品の税関への申告手続』)
海外に持ち出した貨物を再び日本に持ち帰る場合
日本に戻る際、持ち帰るサンプルが日本の空港で輸入と誤解され、関税や消費税が課されることがあります。これを避けるには①「持ち出す個々の貨物の製造番号を控える」か、製造番号が無い場合は②「タグをつける」、または③「色・サイズ・特徴」なども前記の商品リストに記載」しておくと安心です。
現地で配布し持ち帰らない場合
現地で配布し持ち帰らないカタログ類も、旅具通関の対象として、税関様式C第5340号「輸出・輸入託送品(携帯品・別送品)申告書による申告を行うことが望ましいです。口頭申告だけで済むケースもありますが、とくに数量が多い場合や、税関職員からの確認を求められる可能性がある場合には、事前に書類を整えておくことで通関が円滑になります。
カタログ類は商品サンプルとは別にインボイスを作成し、「For Free Distribution」または「No Commercial Value」と書きます。その際、1部あたりの参考価格として数円から数十円程度の金額を記載するのが一般的です。
なお、装丁や数量、参考価格としての単価などにより、「業務通関」を求められる場合もあります。
「業務通関」とは
「業務通関」は、法律上の用語ではありませんが、商業貨物と同様に扱われる通常の輸出通関手続きであり、次のような場合に行います。
- サンプルの総額が60万円を超える場合
- 現地での販売を目的としてハンドキャリーする場合
- 旅具通関を利用しない場合
など
このような場合には、出国前に貨物を保税地域(保税蔵置場など)に搬入し、通関業者を通じて正式な輸出申告を行ったうえで、ハンドキャリーで運びます。
現地で有償販売を行う場合
なお、現地で有償販売を行う場合には、インボイスの記載に留意するほか、販売国において付加価値税や販売税などの納税義務が発生する可能性があります。展示会場での販売に関する規制や必要な手続きについては、展示会の主催者や現地当局に事前にご確認ください。
現地に到着したら…

(1) 荷物の引き取りについて
チェックイン・バゲッジとして預けた貨物が、サイズや重量、形状の関係でコンベアに流れず、空港スタッフによりコンベア脇に置かれている場合があります。荷物がなかなか出てこない場合は、コンベア周辺を確認するようにしましょう。
(2) 税関での申告と書類の準備
ハンドキャリーであっても、外国に持ち込む行為は「輸入」に該当します。入国時には税関の「申告貨物あり」レーンに並び、適切な申告を行う必要があります。税関での確認をスムーズに行うため、以下の書類を手元に用意しておくと安心です。
- インボイス(“No Commercial Value”などの記載があるもの)
- パッキングリスト
- 商品カタログや説明書
- 展示会の招待状や出展証明書
(3) 関税・付加価値税に注意しましょう
税関職員の判断により、輸入関税や付加価値税(VAT)の納付を求められることがあります。クレジットカード対応が一般的ですが、念のため空港で現金を両替できるよう準備しておくことをおすすめします。
国によっては「一時輸入制度」や「保証金制度」が利用でき、帰国時に税金の還付を受けられる場合もあります。
展示会用の見本品やサンプルについては、一定額まで免税扱いとなる制度を設けている国もあります。展示会の主催者や現地の税関に事前に問い合わせておくと安心です。
貨物に関する注意事項
-
①搭乗する航空機の座席クラス(エコノミー、ビジネスなど)によって、機内持ち込み手荷物や預け入れ手荷物の数量・重量制限がありますので、事前に航空会社の規定を確認しておくことが重要です。
- ②段ボール箱に入れて持ち出す場合、海外の空港では手荒に扱われることが多いため、頑丈な段ボール箱を使用するか、キャリーケースに入れると安心です。また、必要に応じてガムテープなど再封用の資材も持参するとよいでしょう。
- ③ハンドキャリーしようとする貨物が、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づく輸出規制の対象となる場合には、経済産業大臣の輸出許可が必要です。リスト規制対象外貨物である場合は、「該非判定書」や「非該当証明書」を事前に用意しておくとよいでしょう。
日本に帰国したら…
- (1)旅具通関した見本やサンプルを現地で配布し、日本に持ち帰るものが一切ない場合は、帰国時は無申告レーン(グリーンレーン)を通過して入国します。
-
(2)持ち帰るサンプルや見本の量が多かったり、デモ機のようなものについては、申告レーンに進み、その旨申告します。
海外で購入し日本に持ち込むものと税関職員が判断すると、関税や消費税に支払いを求められる可能性があります。その場合は、出国時と同一の貨物であることを証明するため、写真付きリストやインボイスの控え、税関様式C第5340号「輸出・輸入託送品(携帯品・別送品)申告書(税関印のある控え)などを提示します。 再輸入であることが確認できれば、関税・消費税が免除される可能性があります。
ATAカルネについて
ATAカルネ(通関手帳)は、一時的な輸出入を簡素化する制度で、展示会出品物や職業用機材などを一時的に海外に持ち出す場合に有効な手段となります。関税や付加価値税を免除されるなど手続きの負担を軽減できます。
ただし、利用にあたっては次のような制限があります。
- 発給国に再び持ち帰ることが前提であり、現地での販売は認められていません。
- 使用により著しく摩耗・消耗する物品(試供品、食品サンプルなど)には適していません。
- 紛失や、現地での申告漏れ・発給国への返送が行われなかった場合には、担保金の没収や関税・税金の支払いが発生することがあります。
- ATAカルネの具体的な利用可否や対象用途は、カルネ条約の批准状況および各国の国内運用によって異なります。
制度の詳細は、ATAカルネ発給・保証機関である 日本商事仲裁協会(JCAA)にご確認ください。国によりカルネの利用に制限がある場合もあるので、注意が必要です。
さいごに
ハンドキャリーは便利な方法ですが、展示品の内容や目的に応じて、旅具通関か業務通関を選び、必要に応じてATAカルネも活用しましょう。
事前の確認と書類の準備が展示会成功の鍵です。

海外取引の相談はこちら

「この国の場合は他に何を気を付ければいいんだろう?」
「そもそも○○ってなに?」
など、気になったことがあればお気軽に「海外ワンストップ相談」までご相談ください!
アドバイザーの資格を持つ専門家が無料でお答えいたします。
※事前予約制


著者:三上 彰久(みかみ あきひさ)
AIBA認定貿易アドバイザー。
中小企業診断士の資格を持つ。
大学卒業後、総合商社に就職。産業機械部門にて国内営業、輸入内販、海外営業に従事。シンガポール駐在から帰国後は医療機器メーカーに転職し、海外マーケティングを担当。その後団体職員として国際渉外に従事。
