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2025.12.11

知らないと損する!貿易取引の基本「Incoterms(インコタームズ)」をやさしく解説

せっかく海外取引が成立したのに、思いがけない経費の請求が…
「え、運賃って、うちが払うの??価格に入れてなかった!!」

船で輸送中に商品が破損!
「保険の手続きはうちがやるの?」

中小企業の海外展開で気を付けなければいけないことの一つに取引条件があります。
これをしっかり確認しないまま契約すると経費が余計にかかったりトラブルの原因になります。

この記事では、貿易の現場でよく使用される「Incoterms(インコタームズ)」について、自社に最適な条件を選ぶにはどうするかを現場目線で解説します。

「Incoterms(インコタームズ)」ってなに?

言葉、習慣が違う国同士の貿易取引で責任分担を明確にするために国際商業会議所(ICC)が定めた国際ルールです。誰がどこまでの運賃や保険料を支払うかや輸出や輸入の通関を誰がするかなどが定められています。

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※国際商業会議所(ICC)のページ(外部サイト)に飛びます別タブで開く

よく使われる取引条件

現在の最新版は『Incoterms2020』で海上・水上輸送に限定された「FAS」「FOB」「CFR」「CIF」の4つと全輸送形態に適用出来る7つの合計11の貿易条件が定められています。

海上・水上輸送限定

※黄色が売主の義務、紫色が買主の義務

全輸送形態適用

※黄色が売主の義務、紫色が買主の義務

中でもよく使われる主要条件4つをご紹介します。

FCA:Free Carrier(運送人渡し)

※輸出通関は売主

FCAとは「売主が指定した場所で運送人に貨物を引き渡す」条件で、現代の物流にマッチした柔軟な使い方ができるのが特徴です。
売主は、売主が指定した場所で、買主が指定した運送人に貨物を引き渡すところまでの責任を負い、引き渡した瞬間にリスクが買主に移転します。引渡し場所は、合意次第で売主の工場、倉庫、港湾施設など柔軟に決められるため、「FOB」「CIF」に比べて「内陸輸送」を含めた現実的なオプションとして選ばれることが多いです。

メリット

港湾の倉庫に入れた時点で危険負担が移転し、海上保険でカバーされるため、国内保険でカバーされない天災(津波被害など)も補償対象になります。保険料はほとんど変わりません。
また、売り手としてはどこの国向けでも費用が一緒なので価格設定が一つで済みます。

デメリット

FOBでは売主負担であった船積費用(Terminal handling charge)などが買主の負担になるため、買手から嫌がられることがあります。

FOB:Free On Board(本船渡し)

FOBは「貨物が本船に積み込まれた時点でリスクが移転する」という条件です。長年にわたり使われてきた伝統的な取引条件で、現在でも海上輸送の実務で広く使われています。売主は輸出通関を行い、買主が指定した本船に貨物を積み込む(甲板上に置く)までの責任を負います。実際には航空貨物でも慣用的に使われています。

メリット

運賃・保険料・危険負担の全部が甲板に貨物を置いた習慣に切り替わる為、分かりやすいルールと言えるでしょう。また、買手としては海上運送・保険を自分で手配しており、何かあった場合にも自国のフォワーダーに確認でき、コミュニケーションが取り易いメリットがあります。また、FCAと同様にどこの国向けでも費用が一緒なので価格設定が一つで済みます。

デメリット

売手のデメリットとしては保険の補償範囲があります。港湾倉庫にある間は国内保険(輸出FOB保険)でカバーされますので、津波被害等の天災などは保証されませんので注意が必要です。
また、輸出売上はBL(船荷証券)基準で行うため、買主の海上輸送手配により時期がずれることがあります。(FCAも同様)

CIF:Cost, Insurance and Freight(運賃・保険料込み渡し)

CIFは、売主が「輸送費と最低限の保険を手配したうえで、指定の輸出港まで貨物を運ぶ」条件です。ただし、リスク自体はFOBと同じく「本船に積み込んだ時点」で買主に移ります。つまり売主は、輸送費と保険料を払うが、貨物が輸送中に破損などトラブルが発生した場合の責任は基本的に買主になる、というのが大きな特徴です。

メリット

売主が大企業の場合、海上運賃・保険料で有利なレートを得ていることが多く、トータルでコストダウンが出来る可能性があります。
また、売主が海上輸送手配を出来るので迅速な輸出が可能になります。また、海上保険は倉庫⇔倉庫になるので天災もカバーします。

デメリット

Incoterms2020で規定している保険条件はICC(C)(協会貨物約款)条件で、水濡れ、天災、盗難などはカバーしていません。必要に応じて売主と事前に協議し適切な保険条件に設定する必要があります。
また、事故が発生した場合、買主は売主が手配した海外の保険会社との交渉が必要な場合があります。

DDP(関税込持込渡し)

DDPとは、売主が買主の指定した場所まで貨物を届け、かつ輸入通関と関税・輸入諸経費まで含めて負担する条件です。すなわち、「売主がすべての責任・費用・リスクを背負う取引条件」ということです。
買主は荷物が届くのを待つだけで済みます。現在世界各国で普及しているネット通販で海外から自宅まで荷物を届けてもらうのがDDPの典型です。Incotermsの中でも最も、買主にとって負担が少ない条件と言えるでしょう。

メリット

DDPの最大のメリットは、やはり買主の手間を最小限にできるという点です。輸入通関を自分でする必要がなく、誰でもが簡単に輸入出来るので個人輸入には大変便利です。
また、製品不良発生時などに買主の負担なく部品や代替品を送ることが出来ます。

デメリット

輸入通関を売主が行い、関税・輸入消費税などを支払うので輸入地での納税者登録が必要になります。企業が大量に輸入する場合には仕入税額控除が出来ない為、経費負担が増加します。
また、国によってはDDP輸入が出来ない国もありますので注意が必要です。

ザクっとまとめると…

FCA FOB CIF DDP
リスクが移るタイミング 輸出地で買主の運送人に引き渡した時 輸出する船に積み込んだ時
輸出する船に積み込んだ時
輸出先で買主に引き渡した時(輸入通関後)
売主の責任 ~引渡、輸出通関 ~輸出通関・積込 ~輸出通関・積込・海上運賃・最低限の保険 全行程(輸出・運送・保険・輸入)
買主の責任 積込・海上運賃・保険・輸入通関~ 海上運賃・保険・輸入通関~ 輸入通関・輸入諸経費~ 積降
備考 ※海上輸送に限る ※海上輸送に限る
特徴 近年のコンテナ輸送には最適 よく使われる伝統的な条件 運賃と最低限の保険は売主が負担。リスク移転はFOBと同じ 特に個人が買う場合には最もラク。売主にとっては安心感を与えられるが、すべてを負担するのでリスクが最大

Incotermsで規定しないこと

Incotermsは売主と買主の荷物の受け渡しに特化したルールで、Incotermsだけで海外取引で定めるべき条件のすべてが決まるわけではありません。荷物の内容・価格、運賃・保険料の金額、契約の有無、所有権の移転時期、知的財産権や製造物責任、訴訟関連などがあります。必要に応じて売主と買主が協議して決めます。

Incotermsで規定されていないこと

  • 運賃・保険料等の金額
  • 売買契約があるか?有効か?
  • 取引対象物の内容(仕様・価格・適法性など)
  • 所有権の移転(時期・場所・条件など)
  • 代金(金額・支払時期、支払方法・通貨など)
  • 契約の履行・違反に関する措置
  • 不可抗力
  • 輸出禁止・輸入禁止
  • 知的財産関連
  • 製造物責任関連
  • 関税の賦課
  • 係争関連

など

まとめ

FCA, FOB、CIFなどはそれぞれの条件を理解した上で決めないと思わぬトラブルにつながります。
また、Incotermsでカバーされない項目も含めて相手と交渉することが大切です。

「具体的に自社のケースで考えてみたいな」

と思った方は、ぜひ一度ご相談ください

おまけ

海外と取引する時の価格は取引条件(輸送経費や保険費用の分担)により変わってきます。

FOB=品物代+国内輸送費+輸出申告費用+国内保険費用
CIF=品物代+国内輸送費+輸出申告費用+国内保険費用+海上輸送費+海上保険
DDP=品物代+国内輸送費+輸出申告費用+国内保険費用+海上輸送費+海上保険+輸入申告費用(含む関税・増値税)+先方国内輸送費

誰に責任があるかは事故後、サーベイヤーが原因を確認します。(輸送扱いが悪い? 梱包が悪い?)
船の責任で破損した場合、船会社の責任ですが、ヘーグ・ヴィスビー・ルールに従い、
一梱包.666.67 SDR=666.67 ×$1.47638=$984.26=145,060円
または1kg あたり2SDR=$2.95=435円 ($1=147円想定)

の大きい方までしか払いません。

>>なので必ず別途保険を掛けます。

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など、気になったことがあれば、お気軽に「海外ワンストップ相談」までご相談ください!
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お越しいただける日を楽しみにしております。

   

著者:栢野 健(かやの たけし)

1955年東京生まれ。AIBA認定貿易アドバイザー。現在はAIBA貿易アドバイザーの理事も務める。
その他CISTEC安全保障貿易管理士、AEO内部監査人などのスキルも持つ。
元は電気・電子エンジニアとして自動制御機器の設計を行っていた。Engineering Managerとして子会社を立ち上げた米国赴任経験を持ち、海外赴任後は海外営業・販売企画・企画管理等を経験。海外信用調査、与信債権管理、顧客取引審査において30年以上の実務経験を持つ。

※本記事は、個人の意見・見解です。また、本記事で紹介している情報は、執筆当時のものであり、閲覧時点では変更になっている場合がございます。