2025.10.10
FDA登録って必須?アメリカへの食品輸出で知っておきたい基本ルール<前編>

2013年に「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されたのを覚えていますか?
これを機に世界各国から注目を集め始めた「和食」は一過性のブームを超えて、今や世界の食文化として定着しています。特にアメリカでは
日本食=ヘルシー
というイメージがすっかり定着しており、寿司やラーメンはもちろん、抹茶スイーツや味噌・納豆といった発酵食品まで健康志向の高まりとともに注目を集めていて、現地のスーパーやレストランで見かける機会がどんどん増えています。
こうした追い風の中で、日本の食品をアメリカに輸出したいと考える企業も増えていて、「海外ワンストップ相談窓口」にもよく相談がきます。
では実際には、どんな手続きや規制をクリアしなければならないのでしょうか。本コラムでは、アメリカ市場での食品輸出に必要な実務ステップを整理し、これから輸出を目指す方が最初の一歩を踏み出せるように解説していきます。
はじめに
アメリカでは1938年に「連邦食品・医薬品・化粧品法(Federal Food, Drug, and Cosmetic Act:FD&C法)」が制定され、食品・医薬品・化粧品等の安全規制の基本法として現在も効力を持っています。2011年にはそれを大幅に改正するかたちで「食品安全強化法(Food Safety Modernization Act: FSMA)」が制定され、予防管理や輸入者の責任強化などが追加されました。これらの法律に基づく具体的な規則は、連邦規則集(Code of Federal Regulations)のTitle21「Food and Drugs」にまとめられています。
アメリカ市場に食品を輸出するには、上記のようなFDA(米国食品医薬品局)の規制を理解し、必要な手続きを行い、書類を整える必要があります。今回は日本企業がアメリカ向けに食品を輸出するために必要な流れを解説します。なお、食品の種類によってはUSDA(米国農務省)や州規制が関与する場合もあるなど、実際には輸出する食品や事業者の規模によって、求められる確認項目、手順や書類などが異なりますので、ご注意ください。
💡基礎知識
米国食品医薬品局(FDA)
国民の健康を守る目的で作られた、アメリカ合衆国保健福祉省(DHHS)に属する機関。食品(ただし、肉類・家禽・卵製品は米国農務省〔USDA〕が管轄)、医薬品、化粧品、医療機器等の安全性および品質を監督し、医薬品や食品添加物等の承認審査ならびに規制の執行を行っている。
連邦食品・医薬品・化粧品法(Federal Food, Drug, and Cosmetic Act:FD&C法)
米国食品医薬品局(FDA)に、食品・医薬品・化粧品・医療機器の監督・規制権限を与える法律。
食品安全強化法(Food Safety Modernization Act: FSMA)
食品安全の考え方を改め、食品の製造・加工・保管・輸送などの各段階で発生する可能性がある危害を予防する義務を事業者に課す法律。特に輸入食品の安全確保にも力が入れられている。
輸入者(Importer)の開拓
アメリカ向けに食品を輸出する場合、商品の特性を理解した現地の輸入者(Importer)を選定することが重要です。輸入者は輸入通関の当事者となり、通常はFSVP(外国供給業者検証プログラム)の実施責任者ともなります。実務的には、アメリカの販売先や輸入商社が輸入者となるケースが多く見られます。
「食品安全計画」の策定
初めてアメリカに食品を輸出する場合は、まず、FSMA103条「Preventive Controls for Human Food : PCHF(人用食品に関する予防管理規則)」にしたがって、「食品安全計画」を策定するところから始めます。
「食品安全計画」の詳細は21 CFR Part 117サブパートC§ 117.126 Food safety plan.で定められており、ヒト向け食品を製造する事業者が、食品の安全性確保のために行うべき予防管理措置のことです。
食品安全計画はPCQI(予防管理有資格者)をリーダーとしたチームを設置して作成します。PCQIは、専門講座で資格を取得することが可能で、食品安全計画の整備と運用において重要な役割を担います。
「食品安全計画」に求められる要素
「食品安全計画」には、以下の要素が求められます。
- 危害分析(生物的危害、化学的危害、物理的危害の特定)
- 予防管理 (工程管理、アレルゲン管理、衛生管理)
- サプライチェーン管理
- リコール計画
- 是正措置
- 検証
食品安全計画は英語で用意
食品安全計画とそれに基づく日々の記録は英語で作成しておくのが基本です。21 CFR Part 117(PCHF)やFSVP規則では、英語で作成する旨の明記はありません。しかし、「食品安全計画」は、このあと説明する、「外国供給事業者検証プログラム(Foreign Supplier Verification Program: FSVP)」に際してアメリカの輸入者に提出する必要があるのと、FDAの査察時に英語で提示できないと「不備」と判断されることがあるからです。
フードディフェンス計画が必要な場合もある
過去3年間の平均年間売上が1,000万ドル超かつ適用除外条件に該当しない施設(21 CFR Part 121 )では、意図的な食品汚染を防ぐための「フードディフェンス計画」を作成、実施することが求められます。
計画の内容には、たとえば次のようなものがあります。
- 製造工程で不正混入の恐れがある箇所の特定と管理(立ち入り制限や監視カメラの設置など)
- 年1回以上の従業員向け訓練
- 来訪者の記録管理や工場立入の制限
- 緊急時の対応手順の整備
この計画は事前に提出する必要はありませんが、FDAの査察では提示を求められることがあります。常に英語で最新版を整え、記録を行い、保管しておくことが重要です。
FDAへの施設登録
アメリカ向けに食品を製造・加工・包装・保管する日本国内の工場は、FD&C法第415条(21 U.S.C. §350d)および21 CFR Part 1 Subpart Hに基づき、FDAに施設登録する必要があります。登録はオンラインで行い、以下の情報を提出します(§1.232)。
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1)施設の正式名称と所在地
- 2)製品カテゴリー(例:冷凍食品、飲料など)
- 3)米国内の代理人(U.S. Agent)の情報 (米国内に住所を有する個人または法人であること)
- 4)緊急連絡先
- 5)DUNSナンバー(Unique Facility Identifier, UFI)
U.S. AgentはFDAとの連絡窓口として機能し、輸入者が兼ねる場合も多く、施設登録時にオンラインで同意操作を行う必要があります。施設登録は偶数年の10月1日〜12月31日に更新する必要があり、更新を怠ると登録は無効となり輸入ができなくなります。
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To be continued in Part2

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著者:三上 彰久(みかみ あきひさ)
AIBA認定貿易アドバイザー。
中小企業診断士の資格を持つ。
大学卒業後、総合商社に就職。産業機械部門にて国内営業、輸入内販、海外営業に従事。シンガポール駐在から帰国後は医療機器メーカーに転職し、海外マーケティングを担当。その後団体職員として国際渉外に従事。

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