2026.1.9
【海外展開の落とし穴】リチウムイオン電池製品を輸出する際の航空・海上輸送の留意点と最新規制
携帯型扇風機からスマートフォンやモバイルバッテリー、更には電動工具や電気自動車など、リチウムイオン電池は生活のいたるところで使われています。その一方で誤使用・損傷・過充電等がなされた場合は発火しやすく、電車内での発火や、ゴミ処理施設の火災といったトラブルも報告されています。
では、リチウムイオンを使用した製品を海外に輸出する際には、どのような留意点があるのでしょうか。
※なお、リチウム系電池には、一次電池と呼ばれるボタン電池に代表される、使い切り型の「リチウム(金属)電池」と、二次電池と呼ばれる充電式電池「リチウムイオン電池」がありますが、ここでは後者の「リチウムイオン電池」について説明します。
目次
はじめに
リチウムイオン電池では、まずワット時定格量(Wh) という単位に注目します。 これは、Wh=定格容量(mAh)×公称電圧(V)÷1,000 により求められ、Whにより扱いが異なります。筆者の手元にあるノートパソコンの予備交換用バッテリーパックには5900mAh、7.2Vという表示があり計算上42.48Whとなります。
Wh=5900【定格容量(mAh)】×7.2【公称電圧(V)】÷1,000=42.48Wh
バッテリーには43Whと切り上げた数字が印字されていますが、交差などを考慮して丸い数字で切り上げていると思われます。
リチウムイオン電池は危険物(Dangerous Goods)として、国際連合の勧告に基づき、国際的な航空輸送(IATA/ICAO)や海上輸送(IMO/IMDG Code)で厳格に規制されています。
1. 航空輸送
1.1 旅客機の場合
スマートフォンの外付け充電器(モバイルバッテリー)や、リチウムイオン電池を内蔵したノートパソコンやタブレットを海外出張に持ってゆくことがあると思います。
リチウムイオン電池の機内持ち込みについては、国連の専門機関であるICAOが定める『ICAO Technical Instructions for the Safe Transport of Dangerous Goods by Air』に基づき、民間航空会社の業界団体であるIATAが定めた『IATA Dangerous Goods Regulations(IATA DGR:航空危険物規則)』“Provisions for Dangerous Goods Carried by Passengers or Crew”に規定されており、毎年更新されます。また、各航空会社独自の定めもありますので、搭乗前に利用する航空会社のホームページを参照して確認しておくことが重要です。
ICAO (International Civil Aviation Organization / 国際民間航空機関)
国際民間航空が安全かつ整然と発達するように、また、国際航空運送業務が機会均等主義に基づいて健全かつ経済的に運営されるように各国の協力を図ることを目的として、1944年に採択された国際民間航空条約(通称シカゴ条約)に基づき設置された国連専門機関。国際航空運送業務やハイジャック対策をはじめとするテロ対策等のための条約の作成、国際航空運送の安全・保安等に関する国際標準・勧告方式やガイドラインの作成等を行っている。
参照:外務省HP『国際民間航空機関(ICAO)』
IATA (International Air Transport Association/国際航空運送協会)
航空安全の促進や利用者利便の向上のために国際的な業界団体として設立された。各関係機関に対して航空産業の発展、航空安全の促進、環境問題への対策等の政策提言を行う。
参照:国土交通省HP『国際航空運送協会(IATA)の概要』
(1) リチウムイオン電池単体(モバイルバッテリーや交換用バッテリーパックなど)
-
貨物室預かりの手荷物の中に入れてチェックインバゲッジとすることはできません。
筆者は以前、貨物室預かりの手荷物にノートパソコンの予備バッテリーパックを入れたままカバンを預けてしまったことがありましたが、場内アナウンスで呼び出されて、カバンから取り出す様に求められました。 -
客室に携帯して機内持ち込みする場合は、
・ワット時定格量が100Wh以下のもの:機内持ち込み可能。IATAの規定では最大20個までとされています。
・ワット時定格量が100Whを超え160Wh以下のもの:2個まで機内持ち込みできます。
・ワット時定格量が160Whを超えるもの:機内持ち込み、チェックインバゲッジとも不可。
参考資料:令和7年7月1日 国土交通省プレスリリース『モバイルバッテリーを収納棚に入れないで!』
(2) リチウムイオン電池を内蔵した機器(ノートパソコンやタブレットなど)
-
貨物室預かりの手荷物の中にノートパソコンなどを入れてチェックインバゲッジとすることは可能ですが、電源を切り、PCケースに入れたり衣類などで巻いたりして損傷から保護することが求められます。ただしリチウムイオンバッテリーは160Wh以下です。
参考資料:政府広報オンライン『飛行機へ持ち込めないもの(2025年版) お出かけ前に確認を!』 -
機内客室に携帯して持ち込みする場合
ノートパソコンを客室に持ち込むことは可能ですが、使用しているリチウムイオン電池は160Wh以下です。
1-2. 航空貨物扱い
(国際クーリエ便ではなく、フォワーダーを通じて航空会社に出荷する形態)
(1) リチウムイオン電池の2つの切り口
リチウムイオン電池を航空貨物として運ぶ場合は、IATA危険物規則(DGR)に基づく梱包・表示・申告が必要です。IATA DGRは厳格化される傾向があり、実際の輸送手続きを行う際は、必ず最新版および利用する航空会社独自の規定を確認してください。
ややこしいのは、一口にリチウムイオン電池と言っても、下記で説明する「電池の構造上の分類」と「UN番号による区分」の2つの切り口によって、適用される規制や緩和規定が細かく異なり、扱いが非常に複雑になる点です。
📒電池の構造上の分類
この記事では一口に「リチウムイオン電池」と総称して説明していますが、IATA危険物規則(DGR)では一つの電池の外装容器の中身が単一の「セル」(Cell)、外装容器内に複数のセルが組み込まれて一つの「バッテリー」となっているものを(Battery)としています。
📒電池の運ばれる状況による区分:
リチウムイオン電池が運ばれる際に、電池単品でなのか、機器に内蔵・装着されているのかによって、異なるUN番号田適用されます。UN番号とは、危険品を国際輸送する際に、危険品の識別に使用するために用いられる、国連が定めた規定Recommendations on the TRANSPORT OF DANGEROUS GOODS Model Regulations に基づく4桁の番号のことです。
- UN3480:他機器への充電用のモバイルバッテリー(Powerbank)、ノートパソコンの交換用バッテリーパックなど(Spare battery)や、 機器に内蔵・装着されていない状態にあるリチウムイオン電池単品。
- UN3481:ノートパソコンやタブレットなどに内蔵・装着又は同梱されている状態にあるリチウムイオン電池
(2) 梱包
航空輸送の危険物輸送における梱包方法を統一的に定めた国際規則としてPacking Instruction(PI)があります。これは前述のIATA DGR 第5部(Packing Instructions)に定められています。
・UN3480
UN3480 (リチウムイオン電池単品)に適用されるのはPI 965という梱包規則で、Section IAとSection IBの2つのセクションがあります。(PIにはSectionと呼ばれる細分類があり、適用条件によって表示・梱包要件が変わります。実務では利用航空会社の規定と最新版IATA DGRで必ず確認してください。)
📝Section IA
ワット時定格量100Wh超(セルの場合20Wh超)のリチウムイオン電池に適用されます。
この場合、1梱包当たり35Kgまで。旅客機での輸送はできません。
UN規格容器(国連の定めた性能基準を満たした、危険物輸送用の容器)が必須で、 Class 9(Lithium Battery)ラベル、旅客機では輸送できない旨の Cargo Aircraft Only(CAO)ラベルを貼付する必要があります。
運送時は、定格設計容量の30%を超えない充電状態(SoC, State of Charge)でなければならないとされています。
📝Section IB
Section IBは比較的少量のリチウムイオン電池の輸送に適用されます。
100Wh以下(セルの場合20Wh以下)のリチウムイオン電池に適用され、1梱包あたりの正味質量は10kg まで。旅客機での輸送はできません。UN規格容器(国連の定めた性能基準を満たした、危険物輸送用の容器)は必須ではありません。
Class 9(Lithium Battery)ラベル、旅客機では輸送できない旨の Cargo Aircraft Only(CAO)ラベル、「リチウムイオンバッテリーマーク」の貼り付けが必要です。
運送時は、定格設計容量の30%を超えない充電状態(SoC, State of Charge)でなければならないとされています。
・UN3481
UN3481はノートパソコンやタブレットなどに内蔵・装着又は同梱されている状態にあるリチウムイオン電池ですが、それが使用される機器との関係でPI966とPI967の2つの梱包規定があります。
PI966
機器と同梱されるリチウムイオン電池に適用される梱包規定はPI966です。
PI966
機器と同梱されるリチウムイオン電池に適用される梱包規定はPI966です。
📝Section I
Section I は、Section II で定められた数量・Wh定格量・梱包条件のいずれかを満たさない場合に適用されます
。
1梱包当たり旅客機の場合5Kgまで、貨物機の場合35Kgまでです。
UN規格容器(国連の定めた性能基準を満たした、危険物輸送用の容器)が必須です。Class 9(Lithium Battery)ラベルの貼り付けが求められます。2026年1月からは定格設計容量の30%を超えない充電状態(SoC, State of Charge)でなければならないとされています。
📝Section II
Section II は、少量のリチウムイオン電池を機器と同梱して輸送する場合に適用されます。電池のワット時定格
量はセル20Wh以下、バッテリー100Wh以下である必要があります。1梱包当たり旅客機の場合5Kgまで、貨物機の場合も5Kgまで。
UN規格容器(国連の定めた性能基準を満たした、危険物輸送用の容器)は求められていません。「リチウムイオンバッテリーマーク」の貼り付けが求められます。2026年1月からは定格設計容量の30%を超えない充電状態(SoC, State of Charge)でなければならないとされ
ています。
PI967
機器に内蔵・装着されているリチウムイオン電池に適用される梱包規定はPI 967で、充電状態が定格容量の 30%以下、または表示された電池容量の25%以下であることが推奨されますが、2026年1月以降も強制とはされていません。
📝Section I
ワット時定格量100Wh超(セルの場合20Wh超) のリチウムイオン電池に適用されます。
1梱包当たり旅客機の場合5Kgまで、貨物機の場合35Kgまでです。
UN規格容器(国連の定めた性能基準を満たした、危険物輸送用の容器)は求められていません。
Class 9(Lithium Battery)ラベルの貼り付けが必要です。
📝Section II
ワット時定格量100Wh以下(セルの場合20Wh以下) のリチウムイオン電池に適用されます。
1梱包当たり旅客機の場合5Kgまで、貨物機の場合も5Kgまでです。
UN規格容器(国連の定めた性能基準を満たした、危険物輸送用の容器)は求められていません。
「リチウムイオンバッテリーマーク」の貼り付けが求められます。
下記の IATA のサイト中、「Battery Guidance Document」としてリンクの張られた文書がコンパクトに説明しており、梱包上必要な表示についても説明してあります。なお、この文書は毎年改定されていますので、フッターの日付に注意して参考としてください。
参考URL:https://www.iata.org/en/programs/cargo/dgr/lithium-batteries/(IATA公式HPより)
1-3. 航空会社やフォワーダーへの提出書類
一般的に、航空輸送を手配(ブッキング)する際、航空会社による事前審査のために以下の書類提出が求められます。
- (1)SDS(安全データシート)
-
(2)UN38.3試験サマリー
リチウムイオン電池の安全性確保のため、国連が定めた危険物輸送の国際基準「UN Manual of Tests andCriteria(国連試験・基準マニュアル)」に定められた試験に合格していることを電池メーカーや販売者が作成
した文書です。 -
(3)危険物申告書
航空貨物では、IATA DGRの緩和規定(Section II)に該当する場合、海上輸送のような独立した危険物申告書(Shipper’s Declaration)は不要で、航空運送状(AWB)や航空会社指定の書式への記載・チェックによって申
告が行われます。ただし、Section I、IA、IB に該当する場合は、独立した危険物申告書の提出が必要です。
1-4. 国際クーリエ便
(1) 国際クーリエ便とは
国際クーリエ便とは「ドアツードア」の国際宅配サービスのことです。小口貨物を急いで相手に届ける必要がある場合に主に利用されます。運送手段としては航空便を使いますので、上述のIATA DGRに基づいて輸送されますが、国際クーリエ各社が、独自により厳しい制限を設けている点に注意が必要です。
国際クーリエ便を使ってリチウムイオン電池を輸送する場合は、以下のような制限が一般的です。
- モバイルバッテリーや交換用バッテリーパックなどは、UN3480(リチウムイオン電池単体)に該当するものとして、多くの国際クーリエ会社では取り扱い不可としている場合があります。
- リチウムイオン電池が機器に内蔵されている場合や、機器と同梱されている場合でも、電池のワット時定格量(Wh)や数量、1梱包あたりの総重量などによっては、取扱不可とされることがあります。
個別の取扱条件については、利用予定の国際クーリエ会社のカスタマーサービスに問合せて、最新情報を確認することが重要です。
(2) 郵便局の取り扱い
日本郵便が提供するEMSや国際小包などの国際郵便サービスでリチウムイオン電池を送る場合は、機器に取り付けまたは内蔵されていることが条件です。モバイルバッテリーなど電池単体や機器と同梱しただけのものは送れません。送付可能なのは、単電池(セル)が20Wh以下、組電池(バッテリー)が100Wh以下で、1郵便物あたり単電池4個または組電池2個以内に限られ、電池の重量が5キログラムを超えないものであること。電池は損傷がなく、国連試験マニュアル(UN38.3)に適合し、ICAO包装基準967に準拠している必要があります。また、輸入制限のない国・地域宛てに限り、郵送が認められます
2.海上輸送
リチウムイオン電池は、条件を満たせば航空貨物でも輸送可能ですが、航空特有の要件(梱包・表示・書類、SoC制限、受託条件など)が厳しく、実務上は海上輸送の方が手配しやすいケースがあります。もちろん、コストや納期など複数の要素で検討が必要です。
海上でのリチウムイオン電池の輸送は、国際海事機関(IMO)が定めた、船で危険物を安全に運ぶための国際的なルールである、国際海上危険物規則(IMDG Code)に基づいて厳格に規制されています。
2.1. 輸送の際の分類
海上輸送におけるリチウムイオン電池の分類は、航空輸送の場合と同様にUN番号(国連番号)で識別されます。
- UN3480: リチウムイオン電池単体(モバイルバッテリー、交換用バッテリーパックなど)
- UN3481: 機器に内蔵または同梱されているリチウムイオン電池(ノートパソコン、タブレットなど)
これらの分類により、IMDG Codeにおける適切な梱包方法や積載条件、表示(ラベル)、そして必要書類が定められます。
2.2 梱包と積載の要件
海上輸送では大容量・多数量の輸送が可能ですが、その分、安全確保のための要件が規定されています。
(1) リチウムイオン電池を危険物としての一部要件を免除して海上輸送できる緩和規定
リチウムイオン電池を海上輸送する場合であっても、IMDG Code に定められた Special Provision188(SP188)に該当する小型リチウム電池については、通常のクラス9危険物に比べ一部要件が免除されます。
※船舶による危険物の運送基準等を定める告示p409(国土交通省)より一部抜粋。P410にリチウム電池マークが掲載されています。
- Wh上限:単電池(セル)が 20Wh以下、組電池(バッテリー)が 100Wh以下であること
- 電池端子の短絡防止および内装保護が施されていること
- 電池が十分に強固な外装容器に収納されていること
- 梱包状態で1.2mの落下試験に耐えること
- 電池の情報(UN番号など)を記載したリチウム電池マークを表示すること。
なお、これらの電池はあらかじめ UN38.3試験に適合している型式であることが前提となります。
(2) 危険物扱いとなる場合
上記のような緩和規定が適用されない場合、IMDG Codeに定められたパッキング・インストラクション(P903など)に従い、危険物として輸送する必要があります。 この場合、通常、危険物輸送用のUN性能試験済み容器の使用が要求されます。梱包された貨物には、危険物であることを示すラベルを貼付する必要があります。通常、リチウムイオン電池を危険物として輸送する場合には、Class 9(Lithium Battery)に対応した危険物ラベルが使用されます。
(3) 充電状態(SoC)に関する留意点
IMDG Code自体には一律の数値基準として規定されていません。しかし、独自の安全基準として船会社が個別に 30%以下を求めるケースもあります。
2.3 船会社やフォワーダーへの提出書類
一般的に、海上輸送を手配(ブッキング)する際、船会社による事前審査のために以下の書類提出が求められます。
- (1)SDS(安全データシート)
- (2)UN38.3 試験サマリー
まとめ
リチウムイオン電池の輸出には様々な規制があり、年々厳格化されています。そのため最新の情報をフォワーダーなどから入手して対応することが必要です。
リチウムイオン電池を使用する機器を輸出する場合、可能であればバッテリー自体は仕向け国で調達できる仕様のものを採用し、輸出時にはバッテリー無しで機器単体での出荷とできるような製品仕様とすることも、場合によっては検討してもよいでしょう。
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著者:三上 彰久(みかみ あきひさ)
AIBA認定貿易アドバイザー。
中小企業診断士の資格を持つ。
大学卒業後、総合商社に就職。産業機械部門にて国内営業、輸入内販、海外営業に従事。シンガポール駐在から帰国後は医療機器メーカーに転職し、海外マーケティングを担当。その後団体職員として国際渉外に従事。
※実際の運用は記載と異なる場合があります。
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