知財センター活用事例「株式会社カトリ」
海外による安価な類似商品に対して知財の権利化が大きな力となる
男女用ウィッグ(かつら)をはじめ、カチューシャなどのヘアアクセサリーを多く開発。さらには「つけまゆげ」などのアイデアを形にするなどオリジナリティのある商品を生み出して多くの人々に喜ばれ、心の支えにもなっている。
ニーズに応えようとする想いが、商品開発の源泉である。
主な権利
- 2024年:特許 第7440731号
- 2013年:意匠登録 第1483072号
- 2013年:意匠登録 第1483564号
- 2023年:意匠登録 第1746342号
- 2015年:商標登録 第5762982号
会社概要
- 所在地:東京都中央区日本橋馬喰町1-13-6
- 電話:03-5623-3880
- URL:http://www.katori-co.jp
- 業種:装粧品・日用雑貨の製造・卸売業
- 設立:1993年(平成5年)
- 資本金:1,000万円
できるだけ他人と争わず独自性のあるものを届けたい
「誰かの後追いではなく、今まで他の人がやっていない独自性のあることを手掛けたいと思いながら、事業を進めてきました。できるだけ人と争いたくない。そんな想いがありました」と語るのは、株式会社カトリの榊社長である。
2000年頃にはカチューシャに注目。当時世の中に出回っていた格安商品などは、カチューシャを装着すると頭部が痛くなるという指摘があった。そこで榊社長は、頭部を締め付けないサイドキャップ構造のあるカチューシャを開発。たくさんの人々の悩みを解消し喜ばれた。
困っている人の気持ちに寄り添って研究を重ねる
当時から知財への関心は高かった榊社長。「その頃は特許庁2階の公報閲覧室へ行き、先願について調べました。そうしたところ頭の痛くならないカチューシャが、大正時代に1件だけあったんです。私たちの商品とは構造も違いますが、面白いなと思いましたね。当時は実用新案を登録し、現在はサイドキャップ構造の部分意匠を登録しています」と榊社長。知財について語る表情はとても楽しげだ。
知財センターは2005年、「つけまゆげ」の商品の特許出願について相談に訪れたのが最初の利用だった。同商品は、抗がん剤の副作用やストレスによる脱毛症などで眉毛を失った人のために開発したものだ。榊社長は当時のことを「身内にそういう人がいて何かできないかと相談があり、自然に見える眉毛になるように研究と改良を重ねました」と語る。
自力での特許出願で勉強し大切なポイントをつかむ
榊社長は「つけまゆげ」についても特許庁へ行って徹底的に調べ上げたという。「そうしたところ『つけまゆげ』というもの自体が特許庁の文献の中にはなかったんです。ですから特許庁への先願がなく、しかも世の中にないものであれば、出願のチャンスはあると感じました。それで知財センターのアドバイザーに相談したら、製造特許という形はどうだろうという助言をいただきました。さすがだなと思いましたね。そうした流れで、自分で明細書を書くことにしました。アドバイザーから『最初は思い付くことを徒然草のように書いていいんですよ』と言われ、気を楽にして書いていると、『文章が情緒的だ』などと言われますしね(笑)。でも、公開されている明細書を読み込んだり何度も書き直したりするうちに、明細書の組み立て方や権利化のポイントが分かってくるんです。さらに開発に対する課題まで見えてきました。そんな中で散歩に出ると『あっ、この手があるか!』とアイデアが出てきます。そうして課題を一つひとつクリアする。楽しかったですね」こうした努力の積み重ねにより2006年、「つけまゆげ」で特許を取得できた。
知財全体を包括的に考えて営業戦略的にカバーする
同社は長年ウィッグの開発・販売を行い、現在は有限会社ルネスという同じく榊社長を代表とした関連会社によってもショップ展開している。今後は医療の分野で、さらにトータルに貢献できたらと榊社長は語る。「円形脱毛症や抗がん剤治療の脱毛で悩んでいる方はたくさんいます。当社は『つけまゆげ』による実績もありますし、そうした一人ひとりの方に向き合えるように、こつこつ取り組みたいと考えています」と榊社長。ウィッグの関係でも種々の知財を取得している。
榊社長は話の中で、現在の社会全体に対して大きな危機感を抱いていることを何度も語った。「地元の商店街が大資本に押されてしまい、今までの問屋の機能や小売店の機能が失われつつあります。駅前の商店街の成り立ちが難しくなって淘汰されるようになり、地方の疲弊も深刻です。中小企業が手掛ける雑貨などの商品を生活者が直接目にしたり触れたりする機会がどんどん奪われており、これらの商品は生活者に直接届かなくなってきています。さらに、海外の模倣品がネット通販などで販売されることにより、価格破壊が起きてしまっている。そうした市場においては、中小企業にとっては知財による権利化で海外の類似商品の流入を防ぎ、国内商品を守ることが可能になると考えられます。知財には大きな効果があると肌で感じますし、生き残るための一つの重要な方策になると思いますね。当社では特許や実用新案だけではなく意匠や商標なども含め、知財全体としてブランドもデザインも包括しながら営業戦略的にカバーしていけたらと思います」
自分自身が納得できることをこれからも続けていきたい
そして、大切にしていることは「自給自足」の精神であると語った。「自分たちのことを、自分たちでしっかりと立ってやっていく。城を自ら守るという気持ちで頑張りたいと思います。そして既存のものに頼らず、新たに必要なものを生み出したいです」
榊社長の想いも、これまで取り組んできたことも、すべて一貫しているように感じられる。「最終的には人それぞれがみんな、その人自身の生き方、これを実現したいという想いが、仕事を通して表れてきます。ですから自分自身が納得できることを続けていく。そういうことではないでしょうか」
最後にこう語った。「知財戦略を立てて進めていく中で、特許庁の方も知財センターのアドバイザーも、皆さん話をよく聞いてくださると感じました。今後も自信を持って取り組めると確信しました」
知財センターからのメッセージ
自ら知財調査し出願書面を書いた一途な想いが結実
長年にわたる努力で特許、実用新案、意匠、商標による知財の壁を構築しています。これは榊社長自ら知財調査を行い、出願書面を書き、特許庁審査官と何度も面接を行って権利化を成し遂げたもの。眉毛を失った人も出歩いて明るい人生を歩んでほしいという社長の一途な想いが、商品とそれを保護する知財に結実しています。
担当:蓑輪アドバイザー
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