トップ > 支援レポート > 令和7年度 海外展開シンポジウム開催レポート

2026年3月30日

日タイ産業連携の新展開:バイオエコノミーと地域資源からの挑戦
-自動車依存を超えたタイの地域資源と日本の技術が生む次世代ビジネス-

【令和7年度 海外展開シンポジウム】開催レポート

自動車産業は今、EV化や中国メーカーの台頭という「100年に一度」の変革期にあります。長らくアジアの自動車生産を牽引してきたタイも、付加価値の高いバイオ・グリーン産業(BCG経済モデル)への大胆なシフトを打ち出しました。

「培った精密技術は新市場でどう活きるのか?」「タイ政府は日本に何を期待しているのか?」 こうした都内中小企業の切実な問いに応えるべく、2025年12月12日、タイ政府高官を招いた海外展開シンポジウムを開催。会場・オンライン合わせ計164名が参加し、次なる一手を模索する熱気に包まれました。


日タイのフロントランナーが集結

本会には、産・官・学のキーマン4名が登壇しました。

  • パッサコーン・チャイラット氏(タイ工業省副事務次官)
  • パッサコーン・シーサートラ氏(MITR PHOL SUGAR社 新規事業 事業戦略担当副社長)
  • 山田 良平氏(株式会社ダイセル 執行役員 研究開発本部副本部長ライフサイエンスSBU長補佐)
  • 松島 大輔氏(金沢大学 融合研究域教授・博士(経営学)、元タイ政府国家経済社会開発委員会政策顧問)

各パネリストの詳細はこちらをご覧ください。

第1部:タイ工業省・副事務次官が語る「日本企業の貢献を期待するタイ政府のビジョン」

基調講演に登壇したパッサコーン・チャイラット副事務次官の言葉からは、日本企業に対する極めて高い期待が読み取れました。

登壇するパッサコーン・チャイラット副事務次官
パッサコーン・チャイラット副事務次官

「アジアのデトロイト」からバイオ・グリーンの先進拠点へ

かつて「アジアのデトロイト」と称されたタイも、世界的なEVシフトの波を受け、経済成長の鈍化という壁に直面しています。こうした中、タイ政府は既存の自動車産業の再編を進める一方で、そこで培われた高度な技術を医療、食品、バイオテクノロジーといった新産業へ「トランスフォーム(転換)」させるという大胆な戦略を打ち出しています。
以下は具体的に、タイが勝機を見出している主要分野です。

  • 医療・ヘルスケア産業: 世界5位の規模を誇るメディカルツーリズム市場と、アジア屈指の医療保険制度。これに高齢化社会の進展が加わり、さらなる市場拡大が確実視されています。
  • 高付加価値な食品産業: 「世界の台所」として、現在は機能性食品やハラール製品の開発に注力。単なる輸出から、高付加価値化への転換を急いでいます。
  • バイオ・グリーン産業(BCG経済モデル):最も注力している領域です。サトウキビ、キャッサバ、米、パームオイルなどの豊富な資源を背景に、バイオエタノールやバイオプラスチック、さらには麻(ヘンプ)を活用した衣料品や防弾チョッキに至るまで、高付加価値製品の生産を強力に推進しています。

技術だけではない、日本の「価値観」への深い信頼

タイと日本の連携は長きにわたります。2022年の包括的戦略パートナーシップ締結以前から、タイ工業省内には日本企業専用の窓口「JAPAN DESK」が設置されるなど、強固な信頼関係を築いてきました。 パッサコーン副事務次官は、「日本企業は独自の『オンリーワン・テクノロジー』を持っている」と語ります。それは単に技術力が高いからだけではありません。環境を慈しみ、節約を美徳とする日本の価値観そのものが、タイの目指す「持続可能な成長」に不可欠だと信じているからです。法人税免除などのインセンティブを用意し、日本の高度な技術との「共創」を強く求めています。

登壇するパッサコーン・チャイラット副事務次官

第2部:パネルディスカッション:自動車産業の「改善ノウハウ」をバイオへ転用

第2部では、金沢大学の松島大輔教授をファシリテーターに、より具体的なビジネスの可能性が掘り下げられました。

MITR PHOL SUGAR社:資源大国タイが直面する「コスト」の壁と日本への期待

アジア最大の製糖企業であるMITR PHOL SUGAR社のパッサコーン副社長は、資源を徹底的に使い切る「グリーンエネルギー」への注力を紹介しました。同社はサトウキビの搾りかす(バガス)を用いた発電などで、食品産業の持続可能性評価で世界第1位にランクインするなど、循環型モデルの先駆者となっています。

MITR PHOL SUGAR社パッサコーン副社長

同氏が「次の目標」として掲げるのが、サトウキビを活用した医薬品やサプリメント、化粧品といった高付加価値分野への進出です。「これにはぜひ、先行する日本の発酵・酵素技術の力を借りたい」と熱弁を振るう姿が印象的でした。

一方で、バイオテクノロジー産業においてはコストが大きな壁となっています。MITR PHOL SUGAR社おいてもバイオ原料にかかるコストの比重が大きく、生産効率の向上は急務です。ここで求められるのが、日本が自動車産業で培った「コストダウン」「標準化」「ビジュアルコントロール(見える化)」といった改善ノウハウです。これらをバイオ分野に導入することで、欧米市場にも対抗できる競争力が生まれるのです。

ダイセル社:互いの弱点を補完し、参入障壁を突破する「協創」の形

登壇する株式会社ダイセルの山田良平氏

株式会社ダイセルの山田良平氏は、「お互いの得意分野を生かす協創」を強調しました。日本企業は高度な製造技術を持つ反面、新しいものへのハードルが高い。対してタイ企業は、新しいものを受け入れる柔軟な文化があるが、製造プロセスの作り込みに余地がある。この具体例として紹介されたのが「麻(ヘンプ)」の取り組みです。タイ政府が推奨する麻製品ですが、日本への輸入には厳しい規制があります。ダイセルは自社の分析技術(クロマトグラフィー)で不純物を取り除くサービスを提供し、輸入ハードルを下げる取り組みをしています。「技術で信頼を担保し、市場を切り拓く」という手法は、多くの日本企業のヒントになるはずです。

「両利きの経営」と外部リソースが、次世代ビジネスの扉を開く

ディスカッションを通じて、松島教授が冒頭に掲げた「両利きの経営」の重要性が改めて浮き彫りになりました。既存事業を持続させながら、自社の知見を別分野へ展開する姿勢です。「人手も時間も足りない」という企業に向けて紹介された金沢大学の「2x2インターンシップ」は、学生が1年間企業に派遣され、タイやインド等で海外事業の可能性を探るプロジェクトです。多忙な中小企業が「最初の一歩」を踏み出すための強力な後押しとなるでしょう。

質疑応答と参加者の反響:相互理解が拓く新たな可能性

続く質疑応答では、「新事業でタイへ展開する際の具体的な壁」や「商慣習の違い」など、実践的な質問が相次ぎました。 パネリスト陣からは、「タイと日本は親和性が高いが、一足飛びに自分たちのやり方を押し付けるのではなく、まずは互いを理解するための丁寧な対話が不可欠」という助言がありました。特に契約面において、技術の使用範囲や共同研究の成果の扱いを初期から書面で明確にすることが、長期的な成功の鍵となります。

アンケートでも、「タイ当局や現地企業が日本に何を期待しているのかが明確になった」「具体的なビジネス展開のイメージが湧いた」と、多くの経営者が変革期を乗り越えるためのヒントを掴んだようです。

会場の様子

総括:変革の波を「追い風」に変えるために

今回のシンポジウムを通じて鮮明になったのは、タイという国が単なる「製造拠点」から、日本の技術を必要とする「共創のパートナー」へと進化を遂げている事実です。パネリストたちが一様に語ったのは、日本企業が当たり前に実践してきた「現場の改善力」こそが、タイのバイオ産業を救うミッシングピースであるという期待でした。

自動車産業の大きな転換期は、視点を変えれば、日本の精密なものづくりが新たな領域で花開く「再創業」のチャンスでもあります。この日タイ連携の熱気が、次なる市場へ挑む都内中小企業の皆様の追い風となることを確信しています。

海外展開の「最初の一歩」を、東京都中小企業振興公社が伴走します

東京都中小企業振興公社(Tokyo SMEサポートセンター)では、皆様の挑戦を多角的に支援しています。

  • 現地の「リアル」を支える海外ネットワーク: タイ・ベトナム・インドネシアのサポートデスクが現地の商慣習への対応を支援いたします。
  • プラン策定支援: 専門家が海外展開のロードマップを共に描きます。

まずは「社外の相談役」として、お気軽に公社へお問い合わせください。ウェブサイトでも最新情報を随時発信しています。

【執筆】東京都中小企業振興公社 販路・海外展開支援課

関連する支援