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VOL.2 採択企業に聞く
独自の技術でイノベーション起こす
東京都知的財産総合センターの支援事業も活用

(左から)アルメッド 白尾智明氏、シンセティックゲシュタルト 諸橋大介氏、ピエゾソニック 多田興平氏
(左から)アルメッド 白尾智明氏、シンセティックゲシュタルト 諸橋大介氏、ピエゾソニック 多田興平氏

東京都知的財産総合センターは、「スタートアップ知的財産支援事業」を実施している。2022年度は、植物活性剤などを開発するアクプランタ(東京・文京)、認知症創薬のAlzMed(アルメッド、東京・文京)、創薬支援などのAI(人工知能)を開発するSyntheticGestalt(シンセティックゲシュタルト、東京・新宿)、超音波モーターと搬送用自律移動ロボットを手掛けるPiezo Sonic(ピエゾソニック、東京・大田)が採択された。うち3社に起業の背景や事業概要などを聞いた。

記憶に関わるタンパク質「ドレブリン」 発見を機に創薬開発に挑む

白尾智明 アルメッド代表取締役
白尾智明 アルメッド代表取締役
群馬大学医学部卒業。1985年「ドレブリン」発見。同大教授・副学長などを歴任。2020年に東京大学でバイオベンチャー開始

——起業の背景、経緯は?

白尾
 背景には、群馬大学院生時代から40年近く続けてきた神経化学の基礎研究があり、脳内の記憶メカニズムに関わる「ドレブリン」というタンパク質の研究が事業の核となっています。ドレブリンは、1985年に私が見つけて命名しました。

定年退職が近づく中、アルツハイマー病はなぜ治らないのかと改めて考えました。当時、アミロイドβのような悪玉タンパク質を減らす研究はあっても、ドレブリンのような善玉タンパク質を増やす発想の研究はなかった。

このままでは誰もやらないだろう、ならば自分でやろうと決意したのが創業のきっかけです。生理学研究所以来30年もの付き合いのある研究仲間が応援してくれました。

白尾智明 アルメッド代表取締役
白尾智明 アルメッド代表取締役
群馬大学医学部卒業。1985年「ドレブリン」発見。同大教授・副学長などを歴任。2020年に東京大学でバイオベンチャー開始

「診断薬」「治療薬」の2本柱で事業展開

——アルメッドの主な事業概要は?

白尾
 診断薬と治療薬の2本の柱で開発しています。アルツハイマー病になると脳のドレブリンが減ることは以前から知られていましたが、生きている人の脳内を調べることはできません。しかし、共同研究者から「壊れたドレブリンの断片なら血中にあるかもしれない」と指摘を受け、特殊な抗体を作成したところ、血中から検出することに成功しました。脳の変化を血液で捉えられるようになったのです。
臨床研究の結果、血液検査で軽度認知障害(MCI)を非常に精度良く捉えられることが分かりました。成果は論文として発表されており、現在、日本医療研究開発機構(AMED)の「医療機器開発推進研究事業」の2025年度研究課題として研究を進めています。26年度中に工業製品化を完了し、27年度には臨床性能試験を実施、28年には薬事承認を取得する計画です。

軽度認知障害をSyncheck™ (研究用試薬)で早期に診断して、ドレブリン減少を回復させることによりシナプス構造を正常化して記憶力低下を治療する
軽度認知障害をSyncheck™ (研究用試薬)で早期に診断して、ドレブリン減少を回復させることによりシナプス構造を正常化して記憶力低下を治療する
血液中のドレブリン量を Syncheck™ (研究用試薬)で測定すると、アルツハイマー病で「認知機能が保たれている状態(ADCU)」と「軽度認知障害の状態(ADMCI)」を識別できる
血液中のドレブリン量を Syncheck™ (研究用試薬)で測定すると、アルツハイマー病で「認知機能が保たれている状態(ADCU)」と「軽度認知障害の状態(ADMCI)」を識別できる

治療薬は、少なくなったドレブリンを増やすことで記憶の回復を目指します。ドレブリンそのものを投与するのではなく、病気によって異常に減少するサイクルを断ち切る化合物を開発しました。体が本来持つ力で回復するのを助けるコンセプトで、特にMCIの段階で進行を食い止め、回復させることを目指しています。

認知症患者が安心して暮らせる社会へ

——今後のビジョンを含め、日経電子版読者にメッセージを。

白尾
 アルツハイマー病と分かると、多くの人が希望を失ってしまいます。私たちはその文化を変えたい。早期に異常が見つかり「その時期なら治る」と思えれば、診断は怖くありません。治療のモチベーションにもつながります。ただし治療薬の開発には莫大なお金と時間がかかります。そのため、まずは診断薬で薬事承認を得て会社としての体力をつけ、事業を軌道に乗せてから治療薬開発を本格化させる戦略です。

特に治療薬開発の最終段階まで支援してくれる日本のVC(ベンチャーキャピタル)はまだ見つかっていません。私たちの研究は他に類を見ない「ファーストインクラス(画期的医薬品)」のアプローチなので、なかなかご理解いただけないこともあります。論文も発表されたので、関心のある事業会社さんとぜひ連携したいと考えています。

我々のミッションは「認知症高齢者が安心して暮らせる社会の実現」。実現に向け、ビジネスパートナーを求めています。診断薬開発にご協力いただけるVCや臨床検査会社、将来の治療薬開発に関心のある事業会社の皆さん、ぜひご連絡ください。

SyntheticGestalt(シンセティックゲシュタルト)

製薬・化学産業にインパクト生む分子に特化したAIモデル開発

諸橋大介 シンセティックゲシュタルトAI事業部長
諸橋大介 シンセティックゲシュタルトAI事業部長
豪メルボルン大卒、人材業界に就職。AI関連スタートアップなどを経て、2024年シンセティックゲシュタルト入社

——起業の背景、経緯は?

諸橋
 創業者の島田幸輝が、英ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ(UCL)に留学中に、「分子AI」が世界を変える可能性に気づき2018年に現地で起業しました。現在はオペレーションを日本に移し、日本の企業として活動しています。
「分子に特化したAIの開発」に挑戦したのは、「一番難しくて誰もやっていなかったから」。既存のAIのほとんどはテキストや画像など、人間が日々目にする情報を処理します。

対して分子の領域は非常に難しく、人間がまだ理解していない部分が多い。扱うAIはほとんど存在しません。裏を返せば、ここにイノベーションを起こせれば製薬や化学という巨大な産業に非常に大きなインパクトを生むだろうと考えたのです。私は、クレージーとも思えるほど難しい領域に果敢に挑戦する島田の姿に心を打たれ、2024年に入社しました。

諸橋大介 シンセティックゲシュタルトAI事業部長
諸橋大介 シンセティックゲシュタルトAI事業部長
豪メルボルン大卒、人材業界に就職。AI関連スタートアップなどを経て、2024年シンセティックゲシュタルト入社

創薬期間5分の1、費用10分の1にも

——シンセティックゲシュタルトの主な事業概要は?

諸橋
 我々の強みは、世界最大規模となる100億件の化合物データを学習した基盤AIモデルです。製薬会社や化学メーカーなどに提供し、創薬プロセスや酵素の探索、化学・生物学領域の開発をサポートしています。情報が4次元である点も強みです。分子の立体構造(*図1)(3次元)は振動したり回転したりして形が変わります。1つの化合物が取り得る複数の立体構造を4次元目として加えたものです。

創薬では、候補になる化合物を提案し創薬プロセスを劇的に変える可能性を秘めています。薬の開発には一般的に20年ほどの時間と莫大な費用がかかります。病気の原因となるタンパク質を見つけ、それを無効化する物質(*図2)を探すために膨大な数の化合物を一つひとつ試すからです。我々のAIモデルを活用することで今後、創薬期間を5分の1に、費用を10分の1にできると期待されています。

医薬品候補となる化合物の立体構造(イメージ)、病気の原因となるタンパク質と結合し、その働きを抑制する(イメージ)
(左)*図1:医薬品候補となる化合物の立体構造(イメージ)
引用元: RCSB PDB. (2024). 3D View: 8ATL - Discovery of IRAK4 Inhibitor 23. Retrieved October 10, 2024, from https://www.rcsb.org/3d-view/8ATL?preset=ligandInteraction&label_asym_id=C

(右)*図2:病気の原因となるタンパク質と結合し、その働きを抑制する(イメージ)
引用元: RCSB PDB. (2024). 3D View: 8ATL - Discovery of IRAK4 Inhibitor 23. Retrieved October 10, 2024, from https://www.rcsb.org/3d-view/8ATL?preset=ligandInteraction&label_asym_id=C

酵素の探索では、産業を変えるような未知の酵素が見つかるかもしれません。酵素は数十億種類あると言われていますが、現在利用されているのはごく一部。まだ発見されていない有用な酵素がたくさん眠っているのです。既に我々はポリエチレンテレフタレート(PET)を分解する新たな酵素4種類を発見し、大手飲料メーカーと共同で、二酸化炭素(CO2)排出を抑えたペットボトルのリサイクル技術の開発を進めています。脱炭素社会の実現に貢献できる技術です。

2028年に「分子AI」で世界一目指す

——今後のビジョンを含め、日経電子版読者にメッセージを。

諸橋
 我々のビジョンは「発明を量産するAIを作る」。まずは2年後の2028年に分子AIの世界でナンバーワンになることを目指しています。AIの使い方は非常に早いペースで変わっており、「AIには無理だろう」と思われていたことが驚くべきスピードで実現されています。読者の皆さんにも、ぜひ前向きな姿勢で、AIをいかに取り込むかを考えていただけるとうれしいです。これからの新しい文明ではAIが中心にあり続けます。ミッションに「文明発展の主役となる」と掲げている通り、人間とAIが共存する新しい文明を切り開く主役でありたいと考えています。

Piezo Sonic(ピエゾソニック)

日本発の「超音波モーター」と 搬送用自律移動ロボットで社会課題解決

多田興平 ピエゾソニック代表取締役
多田興平 ピエゾソニック代表取締役
中央大学大学院理工学研究科修了。共同研究先のモーターメーカーに就職。2017年ピエゾソニック創業

——起業の背景、経緯は?

多田
 中央大学の学生だったとき、JAXA(宇宙航空研究開発機構)との共同研究として月面探査ロボットを開発する中で、師匠である指田年生氏が発明した超音波モーターに出合いました。

小型ながら高トルク、耐久性、省エネ性に優れ、電力ゼロでも姿勢保持が可能という独自性を持っています。電力問題がシビアな宇宙開発では、電源を切っても姿勢を保てるこのモーターが最適だったのです。

その縁で指田氏の会社に入社し10年ほど在籍しましたが、師匠の他界を機に、この技術を世に広げようと起業したのがピエゾソニックです。

多田興平 ピエゾソニック代表取締役
多田興平 ピエゾソニック代表取締役
中央大学大学院理工学研究科修了。共同研究先のモーターメーカーに就職。2017年ピエゾソニック創業

「辞めない社員」として導入する企業も

——ピエゾソニックの主な事業概要は?

多田
 事業の柱は、超音波モーターと搬送用自律移動ロボット「Mighty(マイティー)」です。超音波モーターは、コイルと磁石を使わない独自原理のため他社の参入障壁が高く、大手モーターメーカーも作れないと言われます。この特性から医療機器MRI(磁気共鳴画像装置)など磁場を嫌う環境で強みを発揮し、非磁性モーター分野ではニッチトップを狙える位置にいます。

次のターゲットは真空環境です。半導体製造装置など内部が真空で磁力の影響も避けたい環境で使えるモーターはほかにありません。実現すれば、完全にニッチトップの地位を確立できます。

搬送用自律移動ロボット「Mighty」は、月面探査ロボットを応用した我々ならではの技術を搭載し、悪路や段差に強い走破性を持っています。2019年に初代モデルが完成、改良を重ね2021年から販売しています。強みの一つは8時間という長い稼働時間。待機中の消費電力をほぼゼロに抑え、バッテリーも5分で交換可能です。もう一つは、独自のステアリング機構で真横に移動でき、人が行うような細やかな動きが可能な点です。

真空環境での活用を視野に開発中
真空環境での活用を視野に開発中
悪路や段差に強い走破性を持つ
悪路や段差に強い走破性を持つ

導入の引き合いが多いのは、ゼネコンや工場・物流倉庫です。危険な現場での状況確認や資材運搬、あるいは工場棟の間を屋外移動する際の悪路走破性が評価されています。最近では、負担の大きい作業を任せることで離職リスクを減らす「辞めない社員」として導入する企業も増えています。目的地を設定すれば自律移動できるため「陸上ドローン」とも呼ばれ、搬送だけでなく検査や巡回など多用途での活用を想定しています。

ケガや病気になっても楽しめる社会実現

——今後のビジョンを含め、日経電子版読者にメッセージを。

多田
 私たちの超音波モーターは、原理も製品も日本生まれの稀有な技術です。この技術を世界に発信する仲間として、事業を一緒に大きくしてくださるパートナーからの支援や出資をお待ちしています。

ピエゾソニックの企業理念は「モーターとロボティクス技術で人の生活を支え、ケガや病気になっても楽しめる生活ができる社会の実現」。脳梗塞を患った祖父と師匠の姿を目の当たりにしたことから生まれた思いです。単に製品を売るだけでなく、お客様の現場に合わせて導入効果を最大化するパートナーとして、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進や人手不足をはじめとする社会課題の解決にも貢献したいです。

著作・制作:日本経済新聞社(2026年日経電子版広告特集)

東京都知的財産総合センター

東京都台東区台東1-3-5 反町商事ビル1F
電話:03-3832-3656(平日:9:00~17:00 ※12/29~1/3を除く)
E-mail:chizai【AT】tokyo-kosha.or.jp
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