2026.6.9
「ネットでわかる」のその先へ
生成AIで調べた後に、あえて相談窓口を活用する理由
昔検索、今AI
少し前まで、調べごとといえば検索エンジンに頼るのが当たり前でした。表示されたサイトを一つ一つ開いては用語の説明を探し、途中で論文のPDFに誘導されて余計にわけがわからなくなったり、不必要な参照ワードをたどるうちに堂々巡りになったりして、疲れ果てた経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
それが今では、生成AIに疑問をぶつければ、自然な文章であっさり答えが返ってきます。
海外展開を検討する場面でも同じです。
例えば、
「この国に輸出する場合の規制は?」
「代理店契約の注意点は?」
「現地法人設立の流れは?」
こう生成AIに聞けば、数秒で一定レベルの答えが返ってきます。正直なところ、「窓口相談を利用する方も減っていくのではないか」と感じたこともありました。たしかに、生成AIを使えば、公的機関の窓口相談を利用しなくても、ある程度の情報を得ることができます。
最新の生成AIにも限界がある
とはいえ、万能感全開の生成AIの回答にも当然ながら一定の限界があります。
たとえば、引用する情報が古かったり、誤った前提に基づいて回答している場合があるのです。
規制や手続きを調べるにしても輸出相手国の制度は頻繁に改正され、生成AIが示す参考URLがリンク切れになっている場合が珍しくありません。
さらに規制条文の出典が公式なデータベースに基づくものではなく、いわゆる民間の「まとめサイト」だったというケースもあります。
最近私は、生成AIがいったん一つの方向性で回答を生成すると、その後のやり取りもその方向に引っ張られていく癖があるように感じています。
もちろん「壁打ち」といって、生成AIと次から次に対話を続けることによって議論を深めることもできますが、そこで示されるのは、あくまで最初に入力した前提条件に基づく推論です。
生成AIは、平均的なケースを前提に優等生的な回答を出す傾向がありますが、「****という可能性もあります。」というような煮え切らない返事でお茶を濁すこともあります。そんな時、思わず「真面目に答えろ!」と入力すると、「失礼しました」と反省して、答えを忖度するような素直な(?) 場面もあり、それはそれで少し可笑しく感じます。
たとえが良くないかもしれませんが、カーナビで示す道順は合理的ですが、実際に運転する場合には、多少遠回りでも右折が少なく目印が多いルートで、安心して走りたい思うことが良くあります。カーナビはドライバーの慣れや気分にまで寄り添った「手作りの道順」は示してくれません。生成AIにも、似たようなもどかしさを感じています。
海外展開も同様で、企業の体力や置かれた状況によって対処方法が大きく変わります。生成AIに頼り切るのも、やはりリスクが残ります。
この点、窓口相談員は多くの案件に触れてきた経験から、相談者がまだ言葉にしていない論点や、「大した話ではない」と思って触れなかったことの中に、重要な手がかりを見つけることがあります。
生成AI時代の窓口相談
窓口相談には、「生成AIで一通り調べてから」相談窓口にお越しになる方も増えています。実はこの方法は、大変理にかなっています。
AIを「予習」に使い、窓口を「答え合わせと意思決定の補助」に使う。この使い分けを意識していただければ、課題を整理して相談に臨めるため、こちらもより一層的を絞った深い対応が可能になります。
例えば、「ある国に自社の計測装置を輸出したい」、というご相談。
生成AIは、製品の法的位置づけ、輸入者に必要な資格、現地通関実務、日本の外為法規制などについての留意事項を説明してくれます。
最近の生成AIでは状況の把握のために、具体的なチェックポイントを示して確認を求めてくる場合もあります。ただし、そもそも生成AIに与えていなかった条件は、AIの回答には的確に反映されません。
たとえば、窓口で製品のカタログを拝見させていただくなかで、よく見ると「海外では医療用途ととられやすい表現」を見つけたり、お話を伺う中で、スタンドアロンでの使用ではなくWifi機能を使うとか、内蔵電源ではなくACアダプターを使用するなどの具体的な情報が把握できます。
そこから、現地の医療機器規制、電波法規制や安全規格など、避けては通れない論点に結び付くこともあります。また「最終需要者の属性・輸出貨物の用途」などは、窓口相談員との「生身の対話」から確認すべき点が見えてくることもあります。
別の例では、「海外代理店候補から代理店契約書の案が届いたので見てほしい」というご相談がありました。
生成AIに代理店契約書のファィルをアップロードして、「自社に不利となる点を指摘してほしい」と指示すれば、細かい指摘をしてくれます。
そもそも、機密情報を含むファイルを生成AIに読み取らせることは、推奨されません。また、AIの指摘はえてして一般論だったり、典型的なリスクの指摘がある一方、時にはありとあらゆる防御策を並び立てられて、結局どうしたらよいかわからなくなってしまった、という声も聞きます。
窓口相談ではます商流を整理したうえで、代理店候補との力関係や、貴社の妥協できる余地、時にはこの契約書案が出てくるまでの経緯をお伺いし、今後の方針を一緒に考えます。条文単体ではなく、取引全体の枠組みを踏まえて論点を整理する、それが窓口の役割だと考えています。
「どこまで相談してよいのか」と迷われている方へ
初歩的な疑問でも、具体的な案件でも構いません。 まずは生成AIに問いかけて全体像をつかみ、その上で窓口へ。その組み合わせが、海外展開の問題解決を「検索結果」から「現実の成果」へと近づける最短ルートだと思います。
生成AIの性能が向上しようとも、対話の中から論点を拾い上げて多面的に検討できることは、まだまだ人間の相談員だからこその部分と考えています。
情報検索から意思決定の助言へ
相談窓口は、法的見解や税務判断を確定的に示すことはできません。ただ、生成AIで調べただけでは見えにくい論点を整理し、貴社の状況に照らして何を確認すべきかを一緒に考えることはできます。論点を整理して、弁護士や税理士などの専門家との相談をお勧めする場合もあります。
生成AIを「予習」に使い、その上で海外ワンストップ相談員との対話を重ねることで、より納得感のある意思決定につなげていただければ幸いです。
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著者:三上 彰久(みかみ あきひさ)
AIBA認定貿易アドバイザー。
中小企業診断士の資格を持つ。
大学卒業後、総合商社に就職。産業機械部門にて国内営業、輸入内販、海外営業に従事。シンガポール駐在から帰国後は医療機器メーカーに転職し、海外マーケティングを担当。その後団体職員として国際渉外に従事。
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