第5回ファイナリストインタビュー

江戸前の粋を継承しお祭り文化を盛り上げる

最優秀賞・オーディエンス賞
合同会社丸直商店
直井 美穂さん
Team

股引、地下足袋など、丸直商店は、お祭りに欠かせない衣装を通じて日本の粋を次世代へつなぐ。
昔ながらの装束にストレッチ素材などの現代的要素を取り入れ、動きやすさと美しさを両立。
オンラインショップで展開する「ストレッチ股引」は、全国のお神輿の担ぎ手たちから高い支持を集めている。

Team

東京シニアビジネスグランプリで最優秀賞とオーディエンス賞をダブル受賞。
半年間売上のなかった日々を乗り越え、挑戦を続けた直井さんの努力が実を結んだ。
プレゼン資料作りも人前で話すことも初めての中で、諦めずに挑み続けた姿勢が多くの共感を呼んだ。

Team

2026年3月1日、日本橋に初の実店舗をオープン予定。
浅草とは異なる日本橋らしい上品さを打ち出す。
スタイリッシュな和モダン空間で、若い世代にもお祭り文化の魅力を発信。
テレビ出演などメディア露出も増え、丸直商店の挑戦は新たなステージへと進んでいる。

代表者インタビュー

事業内容について教えてください
江戸時代から続くお神輿やお祭りに欠かせない、半纏、腹掛、股引に草履といった祭り装束の製造及び販売を行う、お祭り用品専門店です。中でも力を入れているのは、昔ながらの祭り装束に動きやすさやファッション性を取り入れた、現代の暮らしにも合うオリジナル商品です。一番の人気商品は、「ストレッチ股引」です。見た目は伝統的な股引であるのに、伸縮性があり、履き心地が格段に良いと評判です。オンラインショップによる販売が中心で、全国のお祭り好きに好評をいただいています。
この事業を始めたきっかけを教えてください
お神輿好きの夫の影響でこの事業を始めました。祭りの度に夫は着こなしにこだわり、自分の理想に合う股引や足袋がなかなか見つからないと探していて、無いのであれば自分たちで作ろうと考えたのがきっかけです。お祭り用品を取り扱う老舗は多く存在しますが、古くからある伝統衣装であるため、同じ商品を長年取り扱っており洗練されたサイトや店舗は少なく、ネット販売に力を入れているお店も数えるほどしかありませんでした。また、人気商品が毎年シーズン後半には売り切れてしまい、ニーズはあるのに供給が追いついていないといった現状を見て、お祭り用品専門店は意外とブルーオーシャンなのかもしれないと気づき、起業を決意しました。
口コミで話題になっているようですが、人気の理由は何でしょうか?
全国に多くいる夫のようなお祭り好きの方々が、自分らしいこだわりの格好をしたいというニーズに応えられたことで、口コミが広がったのだと考えています。最初にヒットした商品は、丈の短い地下足袋でした。既製品の7枚こはぜを2枚こはぜにカットしたモデルが思いのほか反響を呼び、オフシーズンにもかかわらず300〜400足が完売、足袋メーカーの在庫が切れてしまうほど売れ、別メーカーへ発注を切り替えるほどでした。このオリジナル商品「極短」がフックとなり、次のヒット商品でズボンのように履ける革新的なデザインを採用した「ストレッチ股引」へとつながっていきました。
また、商品を購入したお客様からの改善要望を一つずつ反映して改良したことで、理想が全て叶えられているとお喜びいただき、リピーターや高評価口コミにつながりました。「友達が履いているのを見て、思わず買ってしまった」、「動きやすさと見た目の美しさを両立している」など嬉しい声をいただきました。
もう一つ、口コミを広げる上で影響が大きかったのは、SNSでの発信です。立上げ当時はプロのモデルにお願いする金銭的余裕がなかったので、夫をモデルにして撮影したところ、リアルで親しみやすいと評判になりました。実際にお祭り用品にこだわりを持つ夫が着用することで、同じこだわりを持つ方々に共感してもらえたことが、拡散される要因となったのだと思います。
東京シニアビジネスグランプリに参加した感想はいかがでしたか
ファイナリスト選出の通知書類が届いた時は、夫と2人で飛び跳ねて喜びました。実はその頃、事業が思うように進んでいませんでした。2024年6月末にECサイトをオープンしたものの誰にも気づかれず、お店があるのに誰も来ないというような状況が続き、毎日が長く感じて心が折れそうになっていました。そんな時に届いたのがファイナリスト選出の通知で、ビジネスのプロに私たちの事業を認めてもらえたのだと、その紙一枚が本当に心の支えになりました。
ところが、最終審査の前に行われるファイナリスト勉強会に参加して、他のファイナリストの方々のレベルの高さに委縮してしまいました。パワーポイントで資料を作るのも初心者で、人前でプレゼンテーションをした経験もなかったため、自分の資料や発表内容を見返すうちに自信を失い、落ち込んでしまいました。でも、そこからグランプリファイナルまでの1か月間、プレゼン構成もストーリーも練り直して、YouTubeでプレゼン動画を見ながら練習しました。最優秀賞とオーディエンス賞をいただけたときは本当に信じられず、ただただ驚きと感謝でいっぱいでした。
最優秀賞とオーディエンス賞、二つの賞を受賞された今のお気持ちをお聞かせください
ファイナル当日のことは、夢の中のような感覚で正直ほとんど覚えていません。当時は百貨店でパート勤務をしていたので、翌日も普通に出勤し、昨日のことは本当に現実だったのかと思いながら店頭に立ちました。
グランプリに出場して本当に良かったと思うのは、他のファイナリストの方々とのつながりができたことです。今でも連絡を取り合って、情報交換をしたり、お互いの進捗を報告し合ったりしています。他のファイナリストの方々は、みなさん知識も経験も豊富で、教えてもらうことが本当に多いです。何より、同じ年代で同じように挑戦している仲間がいるというのが励みになります。また、ファイナルのステージに立たせてもらったことは大変貴重な経験でした。あの経験がなければ、今の私はいません。もし、今迷っている方がいたら、ぜひ一歩踏み出してほしいです。
今後の事業展開についてどの様にお考えですか?
2026年3月1日に実店舗の開業を予定しており、資金調達と店舗の立上げ準備を進めています。お祭り用品の店舗というと浅草に集中していますが、あえて日本橋で展開することにしました。お祭りといえば浅草というイメージが強いですが、日本橋には神田祭や山王祭といった伝統あるお祭りも多く、「粋」で上品な文化が根付いています。お店のデザインも、よくある和風スタイルではなく日本橋の「粋」をイメージしたスタイリッシュな和モダンを目指しています。伝統の良さを残しながらも、若い世代にも受け入れられやすい雰囲気にする予定です。
また、シニア起業家として注目され、最近はテレビ取材を受ける機会も出てきました。先日もテレビ局からスタジオ収録の依頼があり、起業のきっかけと事業のビジョンを紹介しました。
人生の後半に入る年代となり、このままでいいのかなと悩みながら家のソファで過ごしていた日々から、今では全国の方に日本のお祭り文化を届ける仕事をしているのは本当に信じられないくらいの変化です。これからもお祭りを入り口に、日本の伝統をもっと身近に感じられる「粋」な文化発信を、日本全国のみならず世界へ発信していきたいと思っています。
会社HP:https://marunao.llc