第5回ファイナリストインタビュー

地域発の野鳥・野生生物観光開発・販売事業

やまどりファクトリー
田儀 耕司さん
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日本各地の自然を舞台に、海外から訪れるバードウォッチャーや野生生物ファンを対象に旅行会社に対し、ツアーを企画提案するとともに、ガイドとして活動している。田儀さんは、日本の自然の素晴らしさを世界に伝えることを使命に活動している。海外の旅行会社からの委託ツアーや個人旅行の依頼を受け、野生生物を間近で体験できる旅を提供している。

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コロナ禍で前職を離れた後、方向性を模索していた田儀さん。友人からの誘いをきっかけに、長年の趣味だったバードウォッチングを事業化。「自分が理解している世界で勝負すること、そして人とのつながりを大切にすることが大事」と語る。
海外経験と語学力、そして自然への深い知識を活かし、着実に事業を広げています。

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課題として挙げるのは「知名度の向上」。SNS発信を継続しつつ、海外サイトへの掲載や業界内での連携を進め、世界中の自然愛好家へと情報を届けたいと話す。また、繁忙期と閑散期の差をなくすため、通年で楽しめる新しい観察地やプログラムの開発にも意欲的だ。日本の自然を軸に、持続可能な観光モデルを築いていくことが次なる目標だという。

代表者インタビュー

事業内容について教えてください
バードウォッチングや野生生物の観察を目的に来日する外国人観光客を対象に、自然保護につながる旅行を支援するガイド業務を行っています。主な業務は、日本各地を巡りながら野生生物を観察するツアーのガイド業務です。海外の旅行会社から委託を受けて運営するだけでなく、個人のお客様からのご依頼にも対応しており、短期から長期まで幅広い内容でツアーの案内を行っています。また、まだ本格的な展開には至ってないものの、バードウォッチングや野生生物の観察を観光プログラムに取り入れたいと考える宿泊施設や観光施設に対して、プロモーション方法の提案や旅行会社へのアプローチ支援、必要なツールの作成などのサポートも行っています。
どのような体制で運営されているのですか
まだ人を雇えるほどの規模ではなく、基本的に一人で運営しており、現在の年間売上は約500万円前後です。しかし、インバウンド需要の追い風は非常に大きく、今後の市場の成長を見込んでいます。
アメリカからのお客様が全体の半数以上を占めているほか、ヨーロッパやオーストラリアからのご依頼があり、日本の自然が世界中から高く評価されていることを実感しています。実際にツアーを体験されたお客様からは、「思った以上に多くの野生生物を見ることができた」「ガイドが専門的で安心できた」といった喜びの声を多数いただいております。
特に、日本固有種との出会いを喜ばれる方が多く、ガイドブックや一般的な観光では得られない特別な体験ができる点を高く評価していただいています。
日本国内ではなく、海外の顧客をメインターゲットにされたのはなぜですか
海外で長くエコツーリズムや生態系保全の仕事に携わる中で、日本の豊かな自然を世界の人々に紹介したいと考えました。海外では野生生物の観察が非常に盛んで、専門のツアー会社も多く存在します。しかし、日本にも素晴らしい自然があるにもかかわらず、その魅力が海外の方々に十分に伝わっていないと感じていました。そこで、日本の自然を世界に紹介するという目的のもと、国内旅行会社とともに、まずは訪日外国人向けにツアーを展開することにしました。海外からのお客様は、自然観察に対する関心が非常に高く、長期滞在される方も多くいらっしゃいます。そのため、移動や宿泊も含めて、できる限りストレスのない旅となるよう、旅行会社の担当者とともに細部にまで配慮したプログラム設計をするよう心がけています。私自身、現地でバードウォッチングをしていた経験があり、それも現在の活動の大きな原点となっています。
事業を継続していく上での課題は何でしょうか
最も大きな課題は移動手段の確保の難しさです。特にバスの利用は法律上の制約が厳しく、柔軟なスケジュール調整が困難です。例えば、朝7時から野生生物観察を開始すると、運転手の就業時間上限である12時間を超えるため、夜20時や21時にはバスを利用できなくなります。野生生物の観察は昼間だけでなく夜間にも見どころが多いため、夜の動物を見に行きたいと希望される方も多くいるのですが、規定上バスを動かせず、お断りせざるを得ないケースがあります。夜間のみ別のバスを手配するという方法もありますが、スケジュールの調整が非常に難しく、運営も費用面も大きな負担となります。自分で運転することも検討しましたが、安全管理の面でどうしてもリスクが伴います。朝5時に起床して200キロほど運転し、日中の観察を終えた後、そのまま夜間の観察のために運転するとなると、疲労が蓄積してしまい、安全上好ましくありません。今後は、こうした安全面をしっかりと考慮しながら、持続可能で安心できる運営体制を整えていく必要があると感じています。
今後の事業プランやビジョンを教えてください
今後はグループを対象にしたものから、より柔軟な対応が可能な少人数制や個人向けのものへと移行していきたいと考えています。特に個人のお客様の場合はスケジュールに柔軟性があるので、鉄道などの公共交通機関を活用することで移動の効率化も図ることができます。一方で、個人のお客様を獲得するために、より多くの方に認知していただくことが課題となっています。特に、海外のお客様においては、どのようなターゲット層に、どのような方法でプロモーションを展開するのが効果的かを現在模索しています。現在はInstagramに英語で情報発信を行っていますが、まだ期待した反響を得られていない状況です。今後も試行錯誤を重ねながら、より多くの方々に日本の自然の魅力を伝えていきたいと考えています。
起業のきっかけやシニア世代の方へ向けた起業のポイントを教えてください
コロナ禍を機に前職を退職し、その後の数年間は自身の方向性を見定める期間を過ごしていました。そんな中、友人からバードウォッチングをテーマに事業を立ち上げてみないかと提案を受けたことが、起業の大きなきっかけとなりました。起業しようと特別に構えていたわけではなく、自分の持っているスキルを生かして、自然な流れの中で事業をスタートしました。金銭面でも大きな投資や資本は必要なく、観察道具やウェブ管理にかかる最低限の費用だけで始めることができました。最初は需要があるのか半信半疑でしたが、始めてみると想像以上のマーケットがあることに気づきました。私がここまで事業を続けてこられたのは、自分がよく知っている分野で起業したことが大きいと考えます。前職での経験でも、趣味でも構いませんが、自分の理解している世界で勝負することが重要です。私の場合は海外留学の経験から英語が話せること、そして長年バードウォッチングを趣味として続けてきたことが大きな強みになりました。また、海外でバードウォッチングツアーに参加した経験から、ガイドを依頼する顧客側の視点を持っていたこともサービス設計において大きく役立ちました。
そして、事業を継続する上で人とのつながりの力が本当に重要だと実感しています。これまで築いてきた人脈があったからこそ、起業当初の依頼やそれ以降の新しいチャンスにつながりました。
事業を継続するために必要なのは、自分の得意分野への深い理解と人との信頼関係だと考えます。
東京シニアビジネスグランプリに応募したきっかけと参加した感想を教えてください
ファイナリストに選出されることで事業資金や融資を受けられるチャンスがあると知り、ほとんど自費で行っていた広報や宣伝の資金源にしようと考えたのがきっかけです。また、ファイナルでプレゼンテーションを行うことで自分の活動や地域の魅力を広く知ってもらう機会にもなると考え、応募しました。
実際に参加してみて、全く異なる業種である他のファイナリストの方々と一緒にファイナルイベントの準備に取り組むことで大きな刺激を受けました。発表の仕方やプレゼンテーションの工夫など学びが多く、自分の分野だけでなく、他の世界からも得られることがたくさんあると実感しました。
これからの展開で特に力を入れたいことは何ですか
最も重要なポイントは、認知拡大に向けサービスを知ってもらうための情報発信だと考えています。SNSでの情報発信を継続しながら、ガイドとして、海外のツアー会社のウェブサイトへの掲載や相互リンクの活用、同業者とのネットワーク構築などを通じて広報活動を進めていく予定です。現在、海外の旅行関連サイトへの掲載機会もいただいており、そうした露出を活かして新たなお客様との接点を広げていきたいと考えています。また、繁忙期と閑散期の差が大きいことから、シーズンオフにも楽しめる新しいプログラムや地域の開拓にも力を入れ、年間を通して安定した事業運営を目指します。
会社HP:https://www.japanbirdtour.com/