第5回ファイナリストインタビュー

アートで実現する心地よい共生デザイン

優秀賞
株式会社 Glystic Design
小島(森下) まゆりさん
Team

年齢や身体のハンディキャップにかかわらず、誰もがスタイリッシュで快適な暮らしを楽しめるインクルーシブデザインのアートプロダクトを創出。日本の職人・作家と協働し、「衣・食・住」すべての領域で機能性と美を兼ね備えた共生デザインを発信していきたいと考えている。

Team

グランプリを通じて出会った仲間や講師たちとの絆が、今の活動を支えている。
互いに励まし合いながら広がるつながりが、創造の原動力となっている。

Team

「衣・食・住」をテーマに、暮らしそのものを豊かにする総合ブランドを目指す。
数字ではなく、“心から納得できるものづくり”を追求し、日本発のデザインを世界へ広げる新たな挑戦が始まっている。

代表者インタビュー

事業内容について教えてください
高齢の方や、身体に不自由のある方を含むすべての人に、美しさやおしゃれをあきらめることなく楽しめるインクルーシブデザインを理念として掲げた、アートプロダクトの企画・デザイン・制作に取り組んでいます。美しさと機能性を兼ね備えたアイテムを通じて、日常の使いにくさを解消し、生活の質を高めるデザインプロダクトを提案します。将来的には、「衣・食・住」を横断する日本発の総合ブランドとして、世界へ発信していくことを目指しています。
どのような経緯で起業を決意したのでしょうか
私は、インテリアデザイナーとしてキャリアをスタートし、ファッション業界にてデザインの仕事に幅広く携わってきました。2001年から難病を患っており、家族や友人との食事の時間に、自分だけが介護用の食器を使用することに強い孤独感や切なさを覚えていました。リハビリの医師や同じ境遇の仲間達から、私のデザイナーとしての経験を活かしておしゃれな福祉用品を作ってほしいと言われたこともあり、いつか形にしたいと考えていました。2008年にRCA(英国王立芸術学院)の教授陣と交流した際に、インクルーシブデザインの理念に触れ、自分がやりたかったのはこれだと確信しました。2024年に治療薬が開発され、病状の進行抑制が期待できるようになった頃、起業を志す仲間に出会いました。その方に、これまで医師や患者仲間と度々話していた、多様な人が利用できるインクルーシブデザインの製品を作りたいという想いを伝えたところ、「まゆりさんのデザインしたものを、僕が作って売りたい」と言ってもらえたことが、起業へ向けた大きな後押しとなりました。
長年、ファッション業界で培った知識や経験を活かせるという手応えがある一方で、事業すべてを自分一人で担う体制になることへの不安もありましたが、長年活躍しているプロダクトデザイナーやガラス作家など、周囲の仲間に相談し、温かい助言と応援に支えられながら、プロダクトの試作と改良を重ねました。信頼できる仲間と作り出した、美しさとおしゃれを諦めないインクルーシブデザインのプロダクトを世に送り出すべく、起業に踏み切ました。
プロダクトはどのようなものですか
現在制作しているプロダクトはガラス製の器です。首を上げなくても飲めるカップ「アンゴラグラス」、日本酒を上品に楽しめるグラス「杯」、手が使いにくい方でも最後まで飲み切れる設計のタンブラーグラス「ストロウグラス」(意匠出願中)など、障害の有無にかかわらず、“誰が使っても美しい”を軸に、機能性と美しさを両立させています。琳派(りんぱ)※1の表現に着想を得て金箔をふんだんに用いた豪華なグラスや、江戸蒔絵の名門三田村家十一代と共同制作した漆器など、素材面にもこだわって制作しています。
※1…桃山時代後期~近代に流行した大胆で装飾性の高い美術流派
ブランドコンセプト「インクルーシブ・リュクス」へ込めた想いを教えてください
私の願う「インクルーシブ・リュクス」とは、美しさが人に寄り添い、年齢を重ねても、身体に不自由さを感じても、誰もが尊厳をもっておしゃれを楽しめる世界という意味です。この考えを文化として、弊社から世界へ広げていきたいと考えています。今後はパリやシンガポールでも発信していく予定です。
シニア世代の方に向けた起業のポイントを教えてください
年齢を重ねてからの創業は、経験や人脈というシニアならではの資産があり大きなアドバンテージとなります。また、最初から次の世代へどう承継するかを考えることは、事業の芯を一貫させます。一方で、創業は大きな賭けでもあります。資金計画を慎重に立て、不安を感じるときには無理をしない勇気も必要です。定年後の人生を賭けてもいいと思えるテーマを見つけ、覚悟が決まったらぜひ一歩を踏み出して欲しいと思います。
東京シニアビジネスグランプリに応募したきっかけと参加した感想を教えてください
正直に申し上げると、応募のきっかけは賞金です。ファイナリストに選出されると100万円の起業支援資金を貰えるチャンスがあると知り、思い切って応募しました。実際に、受け取った起業支援資金は非常に助かりましたが、それ以上にグランプリへの挑戦は新しいステージへ踏み出す大きなきっかけになりました。ビジネスプランの作成やセミナーの参加を通じて経営の知識を得ることだけでなく、人とのつながりの大切さを改めて感じました。グランプリファイナル終了後も、ファイナリスト同士で情報交換や励まし合いを行っており、今も良い関係が続いています。また、創業前から創業初期の方が集まってビジネスプランを練るセミナー“TOKYO起業塾”では、起業を志す多くの仲間に出会うことができました。異なる分野で活動されている方々と交流することで、自分にはない視点や考え方を得ることができ、大きな刺激を受けました。講師の先生も熱心で、このような学びの場が低価格で提供されていることに驚きと感謝の気持ちでいっぱいです。
会社の経営については全くの素人でしたので、TOKYO創業ステーションのプランコンサルティングを利用し、事業計画の作り方や補助金の活用方法などを勉強しました。自分の判断だけで進めるのではなく、客観的に計画を考えることの大切さを実感しました。応募の動機は小さなものでしたが、この経験を通じて多くの学びと出会いがあり、人とのつながりの大切さを改めて実感しました。
今後、事業をどのように展開していきたいと考えていますか
当初は、自分の好きなものを少しずつ作りたいと思っていました。しかし、ビジネスとして本格的に進めるならもう少しスケールの大きな挑戦をしてみたいと思うようになりました。また、目指すものがお金ではなく、自分が心から納得できるものを生み出すことに変わってきたように思います。私の中でずっと大切にしてきたテーマは、「衣・食・住」です。人が生きる上で欠かせない生活に必要なものを通して、自分の感性を生かした仕事をすることが私の長年の夢でした。今は、その夢を少しずつ形にしている段階です。今後も、自分の理想と夢をしっかり形にした事業を展開していきたいと考えています。
会社HP:http://glystic.com/