第5回ファイナリストインタビュー

企業向け仕事と育児の両立支援サービス提供

株式会社ファミルス
高田 葉子さん
Team

企業向けに仕事と育児の両立支援サービスを提供。企業の従業員を対象に、仕事と育児の両立に関するコンサルテーションやセミナーを実施。幼い子どもがいて働くことが、キャリアや子育てにマイナスとなりがちな現状の転換を目指している。

Team

従業員が抱える悩みや課題に対して、情報提供や課題解決のための支援を行っている。何を調べてよいか分からないという相談に対し、必要な情報を一括で提供。結果として、従業員の幸福感や企業価値の向上につながり、社会全体のプラスになる。

Team

今後は、ビジネスの対象を子育て支援からライフイベント全般に広げ、営業面では他社との協業を進めていく。目覚ましい進歩を遂げているAIなど最新技術を積極的に取り入れ、サービスクオリティの向上と業務効率化を推進する。

代表者インタビュー

事業内容について教えてください
株式会社ファミルスは、法人向けに仕事と育児の両立支援サービスを展開しています。主な顧客は企業に勤める従業員と、それを支える人事部門です。事業内容としては、仕事と育児の両立に関する課題に対応した個別コンサルテーションやセミナーを実施して、これまで国や企業の対応が難しかった分野の支援を補い従業員をサポートします。働きながら子どもを育てることが、キャリアや子育てにマイナスとなりがちな現状の転換を目指しています。
具体的には、どのような支援を行っているのでしょうか
子を持つ前の段階から、妊娠・出産・育児・教育、さらには介護期まで、ライフイベントに沿った「仕事との両立」を、点ではなく線で支える伴走型のサポートを提供しています。
B to B向け事業ですが、最終的な支援対象は企業で働く従業員です。従業員が抱える様々な悩みや課題に対し、情報提供や課題解決のための具体的な支援を行っています。
子を持つ前から両立の道筋を見える化し、活用できる支援策やサポート体制、マインドセットを提示することで、両立に対する漠然とした不安を解消します。さらに、ライフイベントごとに生じるニーズに対し、独自のデータベースと情報をもとに、専門知識・AI・現場での実績を組み合わせ、従業員一人ひとりに最適な解決策を導き出します。働きながら子育てをする従業員一人ひとりが幸福感を持ち、自分らしくキャリアを継続できる環境づくりを通して、企業の成長としての価値創出につなげ、さらには社会全体のプラスの循環へとつなげていく、それが私たちの目指す姿です。
現在の国や企業の子育て支援には何が足りていないのでしょうか
第一に、現在の子育て支援は子どものための支援が中心で、親がキャリアを継続するための支援が不足しています。国や自治体の制度は経済的支援や育児のための施策に偏り、企業の取り組みは進んでいますが、子育てに配慮して仕事を控える方向の支援になりがちであり、親のキャリア継続をサポートする視点が圧倒的に不足しています。共働き世帯が増加し、育休からの復職率も男女ともに9割を超えていますが、復職後の女性の7割超が仕事内容を変更するなど、「復職=キャリア継続」となっていません。
つまり、仕事を継続したい人やキャリアを諦めたくない人が、安心して子どもを育てるための支援は、今の日本にはほとんど存在していないのです。また、男性の育児参加が進む一方で、上の世代の理解が追い付いてなく意識改革の遅れが見受けられます。男性を対象とした育児や両立相談の場も不足しています。
第二に、支援策や各種サービスの情報整理と活用支援が不足しています。支援策やサービスが増えても情報がまとまっておらず、必要な情報にたどりつくまでに多くの時間と労力を要しています。また、情報が分散しており、手続きも煩雑なため、せっかくの支援が十分活用されていないのが現状です。さらに、「支援制度があるのだから十分だろう」「子育て世代だけ優遇されている」といった社会的な誤解が「子持ち様」という言葉を生み、親たちの苦労を見えにくくしています。
第三に、多様化する価値観や働き方に対応した個別支援が不足しています。勤めている企業の制度、居住する自治体の支援策、子どもの年齢、親の働き方や家庭の事情により、利用できる支援策やサービスは異なります。自分の場合はどうなるのかという問いに対し、横断的な情報を個別に落とし込み、ワンストップで的確に解決策を導き出せる場がないのです。
私たちのようなビジネスがこれまで存在しなかった主な理由は、支援する側にとって非常に手間のかかるものだったからです。しかし、今や仕事と子育ての両立は「情報戦」です。必要な支援や制度や最新の知識にいち早くアクセスできるかどうかが、両立の負担の大きさやキャリア継続を左右します。だからこそ私たちは、これらの課題に正面から取り組むことにしました。
全国のデータを収集して、子育てと仕事の両立に関するあらゆる情報を体系化し、多くの相談対応を通じて確かな支援実績を積み上げてきました。通常であれば何日かけても集まらない膨大な情報も、私たちなら「ゼロ時間」で提供可能です。私たちのミッションは、判断の質とスピードを高め、不安を解消し、心身の負担を軽減することです。親が時間と心に余裕をもつことで、仕事においても子育てにおいてもプラスの効果をもたらします。
少子化や不妊治療の現状について教えてください
日本の少子化の根本原因は、未婚化・晩婚化の進行です。結婚した夫婦が持つ子どもの数自体はこの50年間ほとんど変わっていませんが、特に結婚しない人が増加したことで合計特殊出生率が低下しています。また、日本は不妊大国とも呼ばれ、世界で最も不妊治療が行われている国のひとつです。20年前は90人に1人程度だった体外受精による出生も、現在では10人に1人となっています。しかし、不妊治療の成功率は約13%と低く、子を持ちたくても結果が得られないという厳しい現実があります。こうした背景から、私たちのビジネスは、妊娠・出産が難しくなっている現状をどうすれば改善できるのかという視点からサポートの対象をスタートし、「これを知っておけばよかった」という後悔がないように正しい知識や情報を提供しています。結婚をする、しない、子どもを持つ、持たないは個人の選択ですが、子どもを産みたい人が安心して産み育て、仕事も継続できる社会にするために私たちが何を提供できるのか、ということが弊社最大のポイントです。
なぜB to Bという企業を通じて支援を届けるモデルを選ばれたのでしょうか
個人向けにもニーズはありますが、現在は企業との契約を通じた支援を中心に展開しています。国・自治体・企業・民間それぞれの支援制度が散在し、連携していない中で、両立に関する支援は、企業の制度や支援策を軸として展開することが利用者にとって最も効果的だと判断しています。
国・自治体・企業・民間サービスの支援制度を横断的に網羅して数百万件に及ぶデータベースを整備し、両立や子育ての情報と合わせて独自のプラットフォームを構築した上で、AI×専門知識×実績を総合して一人ひとりの従業員に最適なソリューションを提案しています。
実際に貴社のサービスを導入された企業では、どのような成果が出ていますか
私たちのサービスを導入した企業では、目に見える大きな成果が出ています。ある大手企業では、社内相談窓口に寄せられる相談件数が、導入前は3カ月で2~3件だったものが、導入後には1カ月で100件を超える月もありました。この事例は、これまで顕在化していなかった潜在ニーズの大きさを示しています。
企業の人事部門が個々の事情にきめ細かく対応するのは現実的に難しく、また、育児に関することはプライベートな領域と捉えられ、企業側に知られたくないと考える従業員も少なくありません。一方で、企業や自治体も、現場のニーズを十分に把握できておらず、せっかくの支援策が活かされていないのが現状です。だからこそ、この事業をさらに拡大し、子を持ち働く親のリアルな声を社会に届けていきたいと考えています。現場の声が反映されていない支援策は、実際のニーズとずれたものになりがちです。将来的には、制度設計そのものにも関わっていくことを目指しています。
シニア世代の方へ向けた起業のポイントを教えてください
ポイントを挙げるとすれば、「情報」と「情熱」ではないでしょうか。今のシニア世代が若い頃は、起業が一般的ではなかったかもしれません。しかし現在は様々な支援制度が整備されており、起業のハードルは確実に低くなっています。その支援制度を上手く活用するためには、情報収集が重要です。また、ビジネスは山あり谷ありの連続です。困難に直面したときこそ、起業を志した時の情熱を思い出して乗り越えていただきたいと思います。大変なことがあるから挫けるのではなくて、大変なことがあるのが当たり前と考えると気持ちが楽になると思います。私は、以前勤めていた企業の先輩に「お客さんにNOと言われてからが営業のスタートだ」と言われたことが強く心に残っています。
加えて、「情報」と「情熱」を糧に、「時間」「資金」「心身」を上手くマネージすることが大切だと思います。簡単に見えて、実はこれが難しいのですが、そこは人生の荒波を経てきたシニア世代の強みを生かせるのではないでしょうか。準備は完璧である必要はないので、ぜひ一歩を踏み出してチャレンジしてください!
東京シニアビジネスグランプリに応募したきっかけや感想を教えてください
TOKYO創業ステーションのプランコンサルティングでシニアビジネスグランプリを知りました。スタートアップといえば若い世代が中心という印象が強い中で、シニア世代のチャレンジを応援する本イベントは非常に意義深いと感じ、ビジネスのPRも兼ねて応募を決めました。スタッフの皆さまには、丁寧なサポートをしていただき感謝しています。
今後の事業プランやビジョンを教えてください
今後は、ビジネスの対象領域を子育て支援からライフイベント全般へ広げていく方針です。営業面では他社との協業を進めることで相乗効果を狙い、より広い市場へアプローチしていきます。またAIの進化が著しい中、最新技術を積極的に取り入れ、サービスのクオリティ向上と業務効率化を推進していきます。常に戦略を見直し、柔軟にビジネスモデルを修正しながら進化を続け、社会に貢献する企業でありたいと考えています。
会社HP:https://famils.co.jp