第5回ファイナリストインタビュー

SaaS型・車載電池劣化診断サービス事業

奨励賞
プロスペクティブ・テクノロジー株式会社
高木 淳さん
Team

車載電池を含む各種バッテリーの劣化を、ソフトウェアとアルゴリズムにより短時間かつ高精度に推定する技術を開発。従来は「1日」かかっていた診断を「2分、90%精度」で診断を行う。電池のデータから寿命を推定するモジュール診断と、車両から電池を取り外さずにOBD2経由で推定するオンボード診断の二本柱で事業化を進めている。

Team

トヨタ在籍時の課題認識を出発点に、退職後は新会社を設立し、北米での実装やパートナー連携を推進中。

Team

北米最大手企業の採用を目指すモジュール診断と、中古車市場でニーズのあるオンボード診断。
まずは1社目の成功事例をつくり、ライセンス収入モデルと「1回いくら」の診断サービスを確立、ハイブリッド車やEVが普及するこれからの時代に向け、廃車電池の再利用問題に技術で挑み続ける。

代表者インタビュー

事業内容について教えてください
車載電池の劣化を真摯かつ高精度に診断をするソフトウェア・アルゴリズムを開発しています。車の電池は廃車後も再利用可能な場合が多いため、診断の需要が高くなっています。従来の方法では1つの電池診断に丸1日かかるのが課題でしたが、弊社は、車載でも車外でも2分という短時間で90%以上の精度で診断ができる2種類のアルゴリズムを開発しました。 1つ目は、電池のデータから寿命を推定するモジュール診断です。これは短時間で劣化を推定できる技術です。例えばプリウスでは、28個の電池が直列に接続されています。その中から不良がある数個の電池を、短時間で測定して特定します。 2つ目は、オンボード診断です。これは電池を外さず車ごと診断する技術です。車両のOBD2端子※1に接続してECU(Electronic Control Unit、電気制御ユニット)等の情報から劣化を推定します。こちらでも、90%以上の精度で測定することに成功しました。これらの測定技術を活用し、ライセンスビジネスとして展開しています。
※1…自動車の自己診断機能である OBD (On-Board Diagnostics) のバージョン2のことで、各メーカーで異なっていたコネクター形状や故障コードの規格を統一したもの
それらの技術はトヨタ時代に社内で採用されなかったのでしょうか
トヨタシステムズ時代に北米トヨタで採用されましたが、現地で立ち上げテストを行ったところ、今まで見えなかった課題がいくつか浮上しました。私自身の定年退職の時期が近づいていたこともあり、このままでは責任を果たせないと思い、トヨタシステムズの協力を得ながら、新会社をつくりプロジェクトの継続を希望しました。しかし、前例が無いとの理由で断られてしまったため、最後まで責任をもってやり遂げるために自ら会社を設立する決断をしました。起業後は、新しい手法で、より高精度・短時間で診断できるロジックを確立することに成功し、再び北米トヨタとの商談を進めています。
どのような思いから起業を決意されましたか
起業したのは自分でも想定外ではありましたが、「仕事に最後まで責任を持つ」という思いからの行動でした。発案から完成までを主体的に推進し、仲間と共に成果を生み出したプロジェクトは途中で諦めることができず、信頼できる2人のメンバーと共に3人で新会社を立ち上げました。成功が見えない中で起業に踏み出せた原動力は「使命感」です。長年の経験から、最初はうまくいかなくて当たり前であり、考え抜くことで良くなることを体感してきましたので、自分と仲間を信じること、そして利益よりも本質に向き合う姿勢が事業継続の支えになりました。
起業において一番苦労したことは何でしたか
一番苦労したのは、人の説得です。トヨタの複数部署(設計、ビジネス、品質保証等)に対し、相手の知識レベルに合わせて説明を変え、経済性も含めて粘り強く伝えました。弊社の開発した手法と既存手法との比較で優位性(精度・時間)を示し、最終的に設計部署のお墨付きを得て北米側との合意に至りました。技術開発に2年、説得するのにも2年を要しました。
中古車市場への展開について教えてください
トヨタ在籍時は社内のリビルド※2用途に限定されていましたが、トヨタを離れた現在はトヨタの技術を使っているわけではないため、他の事業にも展開できます。現在は北米を中心に、大手企業と協議を進めています。従来は1日かかる診断を2分、90%精度で行える点を提案しました。さらにESS(Energy Storage System、蓄電池システム)領域でも劣化診断の需要があるため、取り組みを進めています。オンボード診断では、岐阜県の大手ツールメーカー様と連携しています。当社のロジックを結合し、大手中古車販売業者様とも話を進め、「1回いくら」の診断モデルで実装を検討しています。小さなご縁を逃さず、そこからつながりを広げていっています。
※2…自動車業界では、故障や事故などで動かなくなった車体、エンジン、部品を組み立て直す修理作業を指す
シニア世代の方へ向けた起業のポイントを教えてください
「絶対に諦めないこと」ではないでしょうか。強い信念と、その裏付けになる自身の経験、技術を信じることが大切です。ただし自分のやり方に固執すると、うまくいかないこともあります。専門家や異分野の方の意見を真摯に取り入れ、複眼的に評価してください。私たち3名もサイエンス、ビジネス、実装テクノロジーと役割が分かれており、相互補完で意思決定しています。
もう一つ、「熱意」も大切です。特許においても1回目の出願は大抵拒絶されますが、2回、3回と粘れば通ることが多いです。ビジネスも同じで、断られても粘り強く交渉することが必要です。極端に言えば、「100回ダメならさすがにダメ」と思えるまで、とことん粘るくらいが良いと思います。
東京シニアビジネスグランプリに応募したきっかけと参加した感想を教えてください
応募の理由は、客観的な評価を受けたかったこと、自分が勉強したかったことの二つです。 ビジネスを進めるうえで、自分の考えに固執するのではなく、社外の視点から見たときに、私のビジネスがどのような評価を受けるのかを知りたいという思いがありました。このグランプリには、さまざまな経験値を持った、異なる分野の方々が集まります。その方たちから見て私の事業がどのように映るのか、また、異分野の方々がどのように事業を進めているのかを学びたいという思いから、グランプリに参加しました。実際、グランプリの参加は非常に勉強になりました。様々な分野の人がどのように事業を進めているのかを知ることができて、とても刺激になりましたし、僕らの技術が専門家からどんな評価を受けるのかという客観的な評価も得ることができました。
最後に、今後目指すビジョンについて教えてください
モジュール診断で、北米大手企業との提携・採用を目指し、ライセンス収入の確立をすることを当面のゴールと考えています。現地視察で得た改善点を反映し、当社側で改良したものを持ち込み、さらなる精度向上を提案します。オンボード診断でも企業と連携し、成果事例の創出を最優先に進めて行きます。「1回いくら」の診断モデルを確立し、対応車種を広げ、将来的にはトヨタ以外(ホンダ、マツダ、日産、外車)にも対応可能とすることが目標です。今後、世界的にはハイブリッドとEVの増加で電池需要が拡大します。一方で、廃車時の電池をどうするかというリユース(再資源化)の論点は議論が少ないため、当社の技術が貢献できると考えています。
会社HP:https://prospective.co.jp/