第5回ファイナリストインタビュー

授乳育児相談・産後ケアの個別サポート事業

ママエール.テラス助産院
伊藤 博子さん
Team

ママエール.テラス助産院は、出産後の母親の心と体を支えるための産後ケア専門施設。
食事や休息、会話を通して、母親が安心して自分を取り戻す時間を過ごせる居場所を提供している。

Team

長年出産の現場を支えてきた中で感じたのは、退院後の母親たちが一人で悩みを抱えてしまう現実。
産後こそ寄り添う場所が必要との思いから始まった挑戦が、今、多くの母親たちの支えとなっている。

Team

法人化を見据え、7カ月以降の親子が安心して過ごせる新たな拠点づくりを計画中。
自治体や市議会とも連携し、産後の支援が特別なものでなく社会の標準となることを目指している。

代表者インタビュー

事業内容について教えてください
ママエール.テラス助産院は、産後の母子をサポートする産後ケア専門助産院です。
一般的に助産院というと出産を取り扱う場所というイメージがありますが、当院は分娩を扱わない、妊娠出産育児の相談や身体と心のケアに特化した施設です。国の産後ケア事業の委託を受けており、現在はあきる野市・福生市・八王子市・日の出町の4市町に在住の出産後1年以内の母子にご利用いただいています。母子の健康チェックや授乳・育児の相談だけでなく、温かい昼食の提供や休息時間の確保など、くつろぎと満足感を得られるラグジュアリーな空間で、心地よい時間を過ごすことができる新しいスタイルの助産院です。当院の利用者からは、「温かい食事が提供され、お昼寝もでき、大人と話す時間ができたことが嬉しい」「赤ちゃんとの生活から少し離れることで、気持ちがリセットできる」といった感想を多くいただいています。
この事業を始めようと思ったきっかけを教えてください
私は30年以上、病院で助産師として産前産後における母子のケアに従事し、近年は自治体の母子保健活動で育児相談に携わってきました。コロナ禍で訪問活動が難しくなり一度は現場を離れましたが、出産を終えた母親への支援に心残りがありました。また、私自身が長年健康で過ごすために大切にしてきた、日頃の食生活の大切さを、産後の母親に伝えたいと思ったことも起業を決意した理由のひとつです。人生の残り時間の中で、私にできることを形にしたいと思い、産後の母子が安心して過ごせる場所づくりに取り組みました。開業当初の相談件数は1日に数名程度でしたが、口コミで少しずつ広がり、今では予約が1ヶ月先まで埋まりスタッフも増え、毎日たくさんの母子をサポートしています。
産後ケアは生後6カ月以降利用できないと聞きますが、その点についてどうお考えでしょうか
現在、自治体が実施する産後ケア事業の制度対象は、生後6カ月未満の乳児とその母親に限られています。生後6カ月を過ぎると、施設の利用料金が高くなり、通いたくても通えないという状況に悩む人が少なくありません。実家が遠くサポートを受けられない方や、地方出身で孤立感を抱える母親も少なくありません。実際、利用者からは「6カ月以降も通いたい」「この先が不安」といった声が多く寄せられています。こうした声を受け、生後7カ月から1歳までの母子が安心して過ごせる新たな居場所の整備するため、現在、地元の市政に関る方々とお会いし、制度としてケアを継続できる仕組みづくりについて意見交換を重ねています。行政と力を合わせて、来年度には制度化に向けて動きたいと考えています。
事業継続の原動力になっていると感じることはありますか
起業当初は不安も大きく、本当に事業を続けていけるのだろうかと悩む日々もありました。
それでも利用者から、「久しぶりにゆっくり食事ができて嬉しかった」、「赤ちゃん以外の誰かと話すことができて心が軽くなった」といった言葉に触れるたび、ここを立ち上げて本当に良かったと実感します。
私たちが提供しているのは、特別な医療行為ではありません。手が離せない日々の育児で、母親が少し休める時間と、誰かに話を聞いてもらえるという安心感が、心の余裕と前向きな気持ちを取り戻すのに大切な支えになっているのです。利用者に満足いただけることが、我々スタッフ一同の原動力になっています。
東京シニアビジネスグランプリに参加した感想はいかがでしたか
正直なところ、応募のきっかけは賞金でした。賞金や起業支援資金を運転資金に活用したいと考え、応募しました。最終審査で、審査員方から「自治体をお客様として捉える」という考え方を教えていただき、自分は目の前の母子だけでなく、自治体や国と共に社会課題に向き合っているのだと気づかされ、事業の方向性が明確になりました。今はその考え方をもとに、市議会議員や行政担当者と連携しながら、地域における母子支援の充実を目指しています。
今後の展望について教えてください
起業から1年が経ち、次の目標として法人化に向けて準備を進めています。当初は私一人で始めた施設でしたが、現在ではスタッフも増え、地域の多くの方にご利用いただけるようになりました。今後は、組織としての体制整備と基盤強化に取り組み、安定的に地域の母子支援ができる体制を整えたいと考えています。また、生後7カ月以降から保育園入園前の母子が安心して過ごせるカフェのような空間を作ることを目標としています。安心して子どもを預けたり、同じ立場の人同士が自然に交流できたりする、母親の“第二の居場所”を実現したいと考えています。
会社HP:https://mamayell-terrace.com/